見出し画像

「陸王」 池井戸潤著

恥ずかしながら池井戸潤氏の著書は今まで読んだことがなかったので、タイトルと推薦文だけで手に取って読み始めた。途中で検索して知ったのだが「半澤直樹」と同じ著者だったことを後から知った。

なぜ途中で著者の名前で検索しようと思ったかというと、なんだか小説のスタイルというか、雰囲気が山崎豊子氏に似ており、何か共通点でもあるのか、と思ったからであった。とはいえ、いずれの著者も社会派というか、会社活動を舞台とし、実際の会社や事業をモデルとしながら書いているため、似通った雰囲気になることは当たり前かもしれない。

物語としては非常に面白く、足袋製造と言う斜陽業種の社長が新規事業であるランニングシューズの製造に着手して、様々な逆境を乗り越えながら事業を形にしていく。次々と起こるハプニンングに読者はすっかり引き込まれてしまう。

しかしながら、自分のようにある程度、会社という組織体系の中でサラリーマンとして働いた経験があると、少し冷めた見方をしてしまうかもしれない。例えば、アトランティスと言う大手外資系シューズメーカーが登場するが、あからさまな悪者役として描かれている。しかし、特に外資系となった場合、今の時代にそこまであからさまな嫌がらせや露骨な態度に出すだろうか? また、舞台となる「こはぜ屋」の従業員は皆揃ってこはぜ屋が大好きであり、家族のようだという設定であるが、多くの中小零細企業はなかなかそうはいかず、狭い中でも色々と人間関係やしがらみが複雑なのだ。

ただ、この物語のいい点は、「陸王」が成功して物語が終わるわけではない、と言う点だろう。この小説内では、あくまでも「陸王」と言うランニングシューズはやっと日の目を見た、と言う段階で物語は終了しており、その後はたして陸王が成功したかどうかには触れられていない。その点は読者の想像に任せられている点はリアリティを要求する読者、ロマンを要求する読者、それぞれに余韻を与えてくれる。

個人的には父親と息子の関係性ややり取りは惹かれるものがあった。息子が内定を得るものの、こはぜ屋に残りたいから断ろうかと思う、と言う言葉に、父親はそれを制し、内定を受けるように進言する。その点もリアリティを持って読むことができた。特に自分は、まだ小さいが息子を持つ親だけに、自分の息子にどのように育ってほしいか、などを考えながら読み進めたため、この二人が小説の中で最も印象に残った登場人物であった。

このnoteでは、読了した書籍について感想を載せていきますので、引き続きご覧いただけると嬉しいです。感想やご意見もお待ちしておりますので、お気軽にコメントしてください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?