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「言葉はまるで雪の結晶」という歌詞における「言葉」を考える――Official髭男dism「Subtitle」より

『silent』みてますか? 今晩、最終回ということで、なんだかどうして「つきあってよかったね!」というわかりやすいハッピーエンドにならないような気がして、早朝からざわざわしています。

TVerがとても盛り上がっていて、手話に関してなど制作の舞台裏を3本にわたり公開してくれていてとてもおもしろいし制作の視点で勉強にもなる。ふだんドラマを見ない人も、制作に携わる人ならこの舞台裏はぜひ見たらいいと思う。

(あぁ~しかしこれは埋め込みでもサムネイルが出ないので、画像はキャプチャです。川口春奈さんの制作への姿勢にますます好感を持ってしまった、かわいすぎか https://tver.jp/episodes/ep7ram33rj

しかも、つい先日はじまったTVerオリジナル番組『最強の時間割~若者に本気で伝えたい授業~』には2人目のゲストとして『silent』の村瀬健プロデューサーが登場され、これもとてもおもしろかった。後編を早く見たい。

私としては『silent』がなぜ、大文字ではじまる「Silent」ではなくて小文字ではじまっているのか、という点についても考えたいところですが、本noteで書きたいのは、主題歌についてです。ただの自分の気づきなので短くロジックもないけど、今年「はっ!」と思ったことの3本の指に入るかもしれないので書いておきたい。
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主題歌を歌うのは、Official髭男dism(オフィシャルひげダンディズム・略称としては「ヒゲダン」といわれている)。数年前に初めてその存在を知ったとき、どういうアーティスト名?と思ったけど、この名称とは裏腹に、私はとても歌詞に惹かれて好きになった。作詞と作曲を主に担当しているのは、ボーカル&ピアノの藤原聡さん。今、子どもたちに(大人もなのかな?)大人気のアニメ『SPY×FAMILY』の現行主題歌「ミックスナッツ」もヒゲダン。この歌詞はかなりはっちゃけてる。

毎年楽しみにしている、音楽番組『関ジャム 完全燃SHOW』の恒例企画「売れっ子音楽Pが選ぶ年間ベスト10曲!」2021年版の後半戦で、蔦谷好位置さんが第1位にヒゲダンの「アポトーシス」を挙げて、それはまあ絶賛されていたのですよね。アポトーシスって「細胞死」という意味で、一般的に考えてとてもとても歌の題材になりそうな感じがしない。それも含めて、一層、興味を持っていた。

そこへきて、渋谷の柱巻き屋外広告などで秋から大々的に宣伝がなされていた『silent』の主題歌がヒゲダンだったわけです。

サビがね、「言葉はまるで雪の結晶」っていうんですよ。
ドラマの第1話で初めてこの曲を聴き、イントロの「凍り付いた心には太陽を」もすごくいいんだけど、サビの歌詞に「ん?」と思って引っ掛かった。

「言葉はまるで雪の結晶」なのかな?

私は、それが最初、何を意味しているのかがよくわからなかったのですよね。雪の結晶って、はかなくて、すぐに消えてなくなってしまう。とても不確かで、残っていてくれたらいいのにというこちらの思いには決して応えてくれない。それはこのドラマにおける、人と人をつなぐ「言葉」とは何なのだろうか、コミュニケーションがうまくいかないのは言葉のせいなのか、という主題(私の解釈)に合致しているな、と腑に落ちる一方で、そもそも言葉とはそういうものだったっけ、と違和感があった。

それで、その違和感の正体を見つめながら、歌詞をひくと以下のようにありました。

言葉はまるで雪の結晶 君にプレゼントしたくても
夢中になればなるほどに 形は崩れ落ちて溶けていって 消えてしまうけど
でも僕が選ぶ言葉が そこに託された想いが
君の胸を震わすのを 諦められない 愛してるよりも愛が届くまで
もう少しだけ待ってて

Official髭男dism「Subtitle」より

ドラマの世界観をよく感じさせる素敵な歌詞だなと思った。同時に、ここでいう「言葉」は、たしかに発話とともに空気になって消えてしまうし、手話もその手がまた次の言葉を指し示す形に移るとさっきの意味は消えてしまう、そういう「話し言葉」を指しているのだとわかった。そして私が違和感を持ったのは、私にとって「言葉」は書き言葉だからだと気づいた

書き言葉は書いた時点でその意味を持ち、時間を越えて誰かが読んで意味を享受することができる。言葉とはゆるぎないもので、確固たるものだという手応えが自分でも気づかないままにあったので、言葉は果たして雪の結晶なのか、と疑問を抱いたのだった。あ、私にとって言葉とは書き言葉なのだと、はっきりと意識したのがこの曲を通した個人的な発見でした。

それでね、ここからはさらに勝手な考察なのだけど、作詞をする藤原さんにとっても、たぶん「言葉は書き言葉」のイメージもあるような気がする。でもこのような歌詞が書けたのは、ドラマの背景、主題、伝えたいことをすごくよく理解されたからだと思う。私はその、迫り方を知りたいなと思った。

歌詞って不思議。今までただの素人として、いい歌だな~といった浅い感想を持ちながらいろいろな曲を聴いてきたけど、今年初めて、同じ言葉を扱うものとしての視点で歌詞を(ちょっと)考えることができた。藤原さんは言葉についてどんなふうに考えているのだろう。
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余談だが、『silent』は小田急線の世田谷代田駅がメインのロケ地になっていて、駅前などがよく出ることから‟聖地巡礼”が起きているそう。以下の記事によると、今日は駅に主題歌がかかるそうです! 粋な計らい。

撮影協力した小田急は劇中音楽に加え、最終回が放送される22日には「Official髭男dismオフィシャルヒゲダンディズム」による主題歌も流す。

言葉はまるで雪の結晶。今晩の『silent』の最高のクライマックスに、この歌詞が鳴ると思うだけで、すでにちょっと泣きそうです。おわり。

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