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学部首席を取るまでのはなし#8(終)

#8 「大学卒業編」

 大学担当課からの電話は、「総代として卒業式で学位記を受け取ってほしい」というものだった。自分は、「総代」ということばを聞いたことがなかったので、「総代とは何ですか」となんとも間抜けな返答をした。すると、「総合代表のことです」と文字どおりの回答があった。それから、いくつかやり取りをして、謹んで引き受けることになった。2連続の学業成績優秀者には選ばれなかったが、1年次から4年次までの通年をとおしての総合成績において、総代選出の機会が残っていたとは夢にも思わなかった。「総代」ということばも知らなかった自分にとっては、嬉しい誤算だった。
 卒業式直前の軽いリハーサルを経て、本番を迎えた。式は滞りなく進み、自分の出番も無難にこなすことができた。その後の謝恩会で、恩師は、自分のゼミ生が首席だということを教授会で知り、驚いたとおっしゃっていたが、とても喜んでくださり、将来の話もしながら、エールを送ってくれた。自分は、大学でも地味で目立って発言するタイプではなかったため、周囲からはとても意外に思われたようだった。
 改めて振り返ってみると、自分が望む現実を引き寄せる前には、必ず何かを決心することから始まっていると気が付いた。一度方向性を決めると、必要な情報が思いがけないところから舞い込んできたり、新たなひらめきが得られたりする経験もした。まず、座標となる目標を決めないと、その後の未来がぼんやりとしてしまうのだ。
 自分は、高校生のときの挫折があったからこそ、今の自分と出会えた。そして、自分の母校となった大学を選択したからこそ、かけがえのない仲間や恩師と出会い、たくさんの貴重な経験をし、そして、その先の未来を切り拓くことができた。
 長い人生のなかで、あのとき別の選択をしていれば、今頃どうなっていただろうと考えることもあるだろう。人生は何事も選択の連続である。我々の目前には、枝分かれした岐路を選ぶ瞬間が必ず何回でも訪れ、選択したあとは、選択しなかった方の未来を見ることはできない。だからこそ、いつでも真剣に自分がどうありたいのかを「決める」ことが大切なのかもしれない。

学部首席を取るまでのはなし(終)


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