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私(教員)への通知表から考える【ATTとATLの考え方】

今私は国際バカロレアの認定校であるサニーサイドインターナショナルスクールで小学5/6年生の担任をしており、概念型探究をどのように実践しているのかをまとめていけたらと思います。

今回のnoteのキーワードは「教員の指導と生徒の評価の相互作用」についてまとめていきます。1学期の終わりを迎える頃、気づけば教員にとって最も忙しい通知表をつける時期になります。
「通知表とは何のためにあるのでしょうか?」
「どのようにして数値で評価をしたら良いのでしょうか?」

公立で勤めていた頃は、単元テストの点数を観点別に入れると自動で数値の評価が出てきていたのを思い出しました。私が勤めている学校のユニークなところはいわゆる単元テストや定期テストのような点数で評価するテストがないところです。

さらに、私たちの学校はPYP認定校なので、いわゆる教科カリキュラムではなく、教科融合のカリキュラムになっています。さらに、事実的な知識やスキルをベースにしながらもその先になる概念的理解を育むカリキュラムを取り入れているので、評価方法はさらに見えにくいものになります。背景として、事実的な知識やスキルと異なり、どの程度概念的に理解しているのかを見える化して評価する難しさがここにあります。

このような環境の中でも、学期末には子どもたち一人ひとりにレポートカードを作成し、保護者と子ども一人ひとりにフィードバックを行っています。その評価項目は、各教科の数値評価、ユニットごとのコメント(200文字程度)、ATLスキル(5項目の中でアプローチしたもの)の数値評価、さらに全体的なコメント(200字程度)を行っています。

一般的な学校ではない評価の特徴としては、ATLスキルの評価を数値で行っているところです。
「ATL評価とは?」以下のリンクにまとめています。

・POINT①「学習者とルーブリック評価をつくる」

ここで大切なのは、ATLのルーブリックを課題の前に提示し、子どもたちと一緒に作成することです。課題を提示し、その課題の中で「どのATLにフォーカスをしていくのか」「なぜ、そのATLが課題とつながっているのか?」「そのATLが社会に出たときになぜ重要なのか?」説明をして、子どもたちに現在の自分たちの持っているATLスキルを加味して3段階のルーブリックの制作(言語化)を行ってもらいます。これによって、大人の求める評価基準と学習者の現在地のすり合わせを行うことができ、簡単すぎず、難しすぎない、学習者も理解したルーブリック評価につながると思います。また、グループで作成し、最終的にはクラス全体で合意をとりながらすり合わせを行うことで、一人一人の意見が反映されやすいように工夫して作成しました。

完成したルーブリック

・POINT②「学習者に自己評価とその根拠を言語化してもらう」

ユニット1
ユニット2

評価をするにあたり、ATL評価も教員の観察だけでは、18人の評価を正確にすることに限界があります。教員の観察だけでなく、学習者の自己評価(数値とその根拠となる具体的なエピソードや説明)を言語化してもらい、学習者の自己評価も加味しながら最終的な評価を行いました。実際に学習者に具体的な自己評価をしてもらうことで、自分では気づかなかったところでATLのスキルが伸びている部分に気づくことができました。

・POINT③「ATLを元にしたポジティブなコメント」

また、各ユニットごとに200文字程度のコメントを書くので、ここではATLのルーブリック評価の項目や学びに向かう姿勢も加味して、学習者がこのユニットにどのような姿勢で取り組み、またどのようなATLスキルを伸ばし、どのようなアクションに繋げていったのかを言語化したコメントを書きます。これによって、数値の評価では見えてこなかった、学習者の具体的な姿がイメージできるのではないかと思います。また、レポートカードを書くときに重要にしているのは、肯定的なフィードバックをベースにしています。

・POINT④「学習者にも同じ項目で評価(FB)をもらう」

子どもたちのレポートカードを書いていたときに、国際バカロレアのカリキュラムの大事な考え方を思い出しました。それは、ATTとATLの考え方です。ATT(Approaches to Teaching)が教師の教育方法に焦点を当て、学習者が効果的に学べる環境を整える一方で、ATL(Approaches to Learning)は学習者がその環境の中でどのように学ぶかに焦点を当てます。つまり、学習者のレポートカードに書くATLの評価やユニットの評価は、教師の教育方法にも大きく影響を受けているということです。

・学習者にフォーカスしていないATL
例えば、1学期のユニットでは、セルフマネジメント(自己管理)スキルにフォーカスした学習を行っていませんでした。学習者からのフィードバックがこちらになります。

1(全くそう思わない)-5(とてもそう思う)

グラフからも、全体的にそう思わないと感じている学習者が多いことがわかります。

その理由

その理由も的を得ており、「ものを失っても先生が印刷してくれるから危機感が感じられない」「自分で管理することがはっきりしていなかった」というように、授業の設計者に課題が残るようなフィードバックが具体的に書かれていることがわかります。

・学習者にフォーカスしたATL

具体的にはコミュニケーションスキルの中でも情報交換スキルにフォーカスして、学習者が情報を交換する機会を多く授業の中に設計しました。背景として考えられるのは、社会構成主義の授業実践を意識していたこともあり、学習者がリサーチしたことを情報として扱い、そこからクラス全体で情報を交換し、統合する中で知識に引き上げることを意識していたので、集団で学びをつくっていく力が日常的に行われていたのがつながっていると考えられます。

・学習者にフォーカスしたけど課題が残ったATL

具体的には対人関係構築スキルで、ユニット1では差別や偏見とコミュニケーションの繋がりについて学習し、ユニット2では、人間関係で対立が起きたときに、より良い人間関係を構築していくためのアイデアを考え、アクションに起こす学習活動を設計しましたが、身の回りのこととなると難しさを感じ、アクションまで起こすことができなかった人が多くいたことが影響しているのかと思いました。

今回、レポートカードを子どもたちに書いてもらうことで、改めてATT(教師側のアプローチ)がATL(学習者の学びに向かうアプローチ)に大きな影響を与えることを学びました。

さて、今回のnoteでは「教員の指導と生徒の評価の相互作用」についてまとめてみました。文部科学省も「指導と評価の一体化」という考え方を示しています。

学校においては、計画、実践、評価という一連の活動が繰り返されながら、児童生徒のよりよい成長を目指した指導が展開されています。すなわち、指導と評価とは別物ではなく、評価の結果によって後の指導を改善し、さらに新しい指導の成果を再度評価するという、指導に生かす評価を充実させることが重要です。このことを「指導と評価の一体化」と言います。

参考:文部科学省HP(リンク

今回のnoteでは、教師のアプローチを一番経験を通じて感じている学習者の声を元に自分自身のアプローチを見直す実践の紹介をしました。是非、子どもたちに通知表をつけるときに、同じ観点で子どもから評価と具体的なフィードバックをもらうことで、目の前の子どもにあったアプローチを見直すきっかけになると思いました。ドキドキしますが、是非やってみると何か発見があると思います!

いつも読んでいただきありがとうございます!

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