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思考する教室をつくるPart3「概念型探究の文化を醸成するには?」

今私は国際バカロレアの認定校であるサニーサイドインターナショナルスクールで小学5/6年生の担任をしており、概念型探究の実践を日々迷いながら模索しています。これまでに1年間、PYPのカリキュラムで7ユニット、MYPのカリキュラム(数学)で4ユニットの実践をしてきました。
このnoteでは「思考する教室をつくる-概念型探究の実践(リンク)-」の本を参考にしながら、私自身の探究の実践の振り返りを行なっていきます。この振り返りは私一人では到底できるものではなく、この1年間学びを重ねてきた方々と一緒に振り返る貴重な機会を頂いたので、自分自身の学びのログとして記しておこうと思います。

今回のnoteは「思考する教室をつくるPart3」になります。

▼これまでのnote(これから積み上がっていく予定です!)
Part 1 探究って?▶︎リンク
Part 2 概念型探究のフェーズって?▶︎リンク
Part 3 概念型探究の文化の醸成

▼ こちらが参考にしている書籍になります。


今回のnoteのテーマは「概念型探究の文化の醸成」です。昨年度一緒に学んできたメンバーが入れ替わり、新しい環境で自分自身は成長し続けられるのかと不安を感じながら4月を迎えました。自分自身にとってのメンターの存在がいない中で教育実践をすることに不安を抱えていました。6月になり、ふと気づいたのが、残されたメンバーにとってのメンターの方々が抜けたにも関わらず、職員室には昨年度までに構築されていた思考する文化が生き続けているのを感じます。この本のタイトルは「思考する教室」ですが、「思考する学校コミュニティ」の文化が醸成されていたのではないかと思います。

中国にこのようなことわざがあります。

Canvaで作成

『授人以魚 不如授人以漁』
「人に魚を与えると1日で食べてしまう。しかし、人に釣りを教えれば生涯食べていく事が出来る。」

老子の格言

今の自分が、自分で考えながら授業実践ができているのは、メンターの方が授業の方法ではなく、授業設計における考え方、一緒に職員同士で思考していく文化、そして見守りながら、必要なタイミングでフィードバックを届けてくれる存在だったからこそ、今も自分自身、そして職員間で考えながら授業設計をすることができています。

帰納的アプローチと演繹的アプローチ

さて、今回の研修は「帰納的アプローチと演繹的アプローチ」の考え方について共通理解を育むところから始まりました。帰納的と聞くと、「納める」という漢字が使われており、いまいち帰納的アプローチの考え方とつながらないので、英語で考えていきました。

帰納的は英語で「Inductive」
演繹的は英語で「deductive」

Inductiveと聞いてもピンとこないと思いますが、実は身の回りでよく使われているものの名前の一部です。IHはInduction heatingの略だったみたいです。

このIHの仕組みを考えると、Inductive approachのイメージがより湧くと思います。

IHとはインダクションヒーティング(電磁誘導加熱)のこと。 磁力線の働きで鍋自体が発熱します。 磁力発生コイル(誘導加熱コイル)に電流が流れると磁力線が発生し、この磁力線が金属の鍋を通る時、うず電流に変わり鍋の電気抵抗によって、発熱します

参考リンク

Inductionには、誘導や誘発のような意味があり、帰納的アプローチというのも学習者に誘導/誘発するようなアプローチになります。この本では、帰納的アプローチと演繹的アプローチについて次のような図式で比較されています。

参考「思考する教室をつくる-概念型探究の実践(pg.36 図2.2)」

概念型探究のモデルでは、学習者に転移可能な理解(一般化)を構築していくような働きかけになるので、一般的には帰納的なアプローチが不可欠と言われています。しかし、ここで重要なのは帰納的アプローチがよくて、演繹的なアプローチがダメであるということではないということです。

「では、それぞれのアプローチはどのような場面でどのように使うと良いのでしょうか?」

概念が探究モデルでは、帰納的なアプローチをベースにした授業展開をしているので、演繹的なアプローチをどのような場面でどのように使うと効果的なのかを問いかけられたときに、想像するのが難しかったです。

・スキルにフォーカスしたアプローチ
この場で出てきたのは、ある一般化を批判的に見る(妥当性を確かめる)学習課題を設定すると、学習者に批判的思考力を育むアプローチになるアイデアが共有されました。

・算数数学科におけるアプローチ
算数数学の授業において、公式(例えば三角形の面積の公式)を数学的帰納法で導き出し、その公式が本当に全ての場面(全ての三角形)で使うことができるのかを演繹的に確かめるアイデアも出てきました。

・概念型探究のフェーズにおけるアプローチ
概念型探究のフェーズにおいて、学習者が一般化するまでは、帰納的なアプローチで行い、そこから転移するフェーズにおいて、自分たちが構築した一般化の妥当性を検証する時に演繹的なアプローチが使えるのではないかと思いました。

参考「思考する教室をつくる-概念型探究の実践(pg.31 表2.1概念型探究のフェーズ)」

・概念型探究が難しい子へのアプローチ
学習者の中には、概念型探究(帰納的アプローチ)ができる人とそうでない人がいます。教師の役割は、概念型探究をできない子ができるようにしていく役割があるので、その時に背中押しで演繹的なアプローチが使えるのではないか?というアイデアも出てきました。

・よくありがちな間違った演繹的なアプローチ
IB(PYP)のカリキュラムではセントラルアイデア(児童が構築していく概念的理解/ユニット全体の方向性のようなもの/一般化したもの)をユニットの前に教師は設計します。これを、ユニットの最初に提示し、セントラルアイデアを紐解いていくのはよくありがちな間違ったアプローチです。
具体的には「生き物は環境に適応する」というセントラルアイデアを最初に示し、「生き物が環境に適応するとはどういうことなのか?」という問いを子どもたちと一緒に考えていくようなアプローチです。これでは、生き物が環境に適応することを前提に探究が進んでいきます。大事なのは、適応するという言葉を児童が使えることではなく、その年齢(発達段階)においての言葉を使うことができているかどうかが重要になります。

概念型探究の文化を醸成するために教師に必要な姿勢

この後に、概念型探究の文化を醸成するために教師がどのような姿勢をもつことが大事なのかについて考えていきました。この本には3つの姿勢が書かれています。

・心を開くこと:
複数の視点や異なるアイデアをすすんで検討する姿勢
・エビデンスに基づくこと:
エビデンスが検証されるまでは、判断を下すことを控え、客観的に行動する能力
・粘り強さをもつこと:
「あらゆる可能性を探り、認知的チャレンジにあきらめることなく挑み続け、トピックをより深く探究するための問いを投げかける」という決意

Geersten,2003をもとに一部改変 

ここで重要なのは、多様性だからといって全ての意見をただ受け入れるのではなく、エビデンスに基づいて、検証されるまでは判断を控える点です。現代は多様性の時代で、全員の意見を受け入れることが多様性を認めることであるという考え方もありますが、そうではなく、エビデンスの検証が重要になってきます。これは、概念型探究における帰納的なアプローチとも重なります。帰納的なアプローチでは、複数の事例をリサーチし、そこからつながりやパターンを見つけ一般化を導き出し、さらにその導き出された一般化の妥当性を検証するところまでを行います。この概念型探究の文化を教室で醸成するには、授業だけでなく、日常的な関わりの中でも上の3つの態度が重要になります。

ここから、上の3つについて具体的にどのようなアプローチができるのかを考えるワークを行いました。ぜひ、このnoteを読んだ方も教室内で具体的にどのようなアプローチができるかを考えて見ると明日からの実践で使えるかもしれないです。

最後に、教師の役割として重要なのは、教師は概念的思考のロールモデル及びファシリテーターであり、批判的分析やディスカションを行うまでは判断を下すことを控えることが大切であることです。

素早い思考よりも持続する思考

この言葉に詰まっている気がしました。つい、私たち教師も時間的な制約から評価においても素早い思考による判断をしがちです。

毎週金曜日の研修が、本当に貴重な場で、多くの考えるタネをもらっています。考えるだけでなく、考えたことをアクションに起こして、振り返りながら自分自身も学び続けたいと思いました。

いつも読んでいただきありがとうございます。



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