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ポール・オースター「偶然の音楽」と、既視感

消防士のナッシュ。
30年間会っていなかった父親の遺産が彼に転がり込んできた。妻が家を出、2歳の一人娘を姉に預けたばかりだった。
赤いサーブで行き先の無いドライブを始めた。

まる一年のあいだ、彼はひたすら車を走らせ、アメリカじゅうを行ったり来たりしながら金がなくなるのを待った。こんな暮らしがここまで長く続くとは思っていなかったが、次々にいろんなことがあって、自分に何が起きているのかが見えてきたころには、もうそれを終わらせたいと思う地点を越えてしまっていた。
13か月目に入って3日目、ナッシュはジャックポットと名のる若者に出会った。それは誰にも覚えのある、何もないところから不意に生じるように思えるたまたまの出会いだった。風に折られて、忽然と足下に落ちてくる小枝。もしそれがほかのときに起きていたなら、ナッシュが口を開いていたかどうかも疑わしい。

柴田元幸訳「偶然の音楽」冒頭

人生は偶然の連続だ、刹那を受け入れて生きるんだというメッセージが、実は冒頭に集約されていた。

ドライブを終えたナッシュに訪れたのは、若い相棒と二人で広大な地に塀を作るために石を積む肉体労働の日々。

そしてまたひとりになった彼が、手放したサーブのハンドルを再び握る。

物語は突然幕を下ろす。

赤いサーブとクラシック音楽

読み終えたばかりの既視感は、「ドライブマイカー」であり、「村上春樹」だった。赤いサーブはそのままだし、クラシック音楽が大事な要素になっているあたりも。
読みやすい文体。読み進めながら時折、ちりばめられた暗喩にふと前のページを確認してみたりする感じも繋がる。

僕がポール・オースターの小説を知ったのは映画の「スモーク」と「ブルー・イン・ザ・フェイス」がきっかけだった。それもつい最近のこと。
まだそんなに多くの作品を読んでいるわけでない。
村上春樹の新作を楽しみにしていたのはもう30年以上前。
新作はもうかなわないけど、「ポール・オースターを追いかける」という、また一つ楽しみを見つけた。


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