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妻の泣き姿が好きだ

安心してください。僕のヤバいへきの話ではありません。

8月2日は父の命日

8月2日は僕の父の命日。70歳という年齢で2021年に他界し、実に3年の月日が流れました。あの日も暑かったように思いますが、さすがに最近の異常な暑さほどではなかった気がします。

晩年の父はずっと体調が芳しくなく、他界するまでの数年間は入退院を繰り返していました。2021年の初頭には体調が一気に悪化しており、その頃にはお医者さんからも「いつ何があってもおかしくない状態だ」と言われていました。当時はコロナの流行による緊急事態宣言などもあり、親族であっても簡単に父に会える状態ではなかったことを記憶しています。

父が亡くなるちょうど1ヶ月前の2021年7月3日。この日は彼女(現在の妻)とのお付き合いがスタートした日です。残念ながら生前の父と直接会ってもらうことは叶いませんでしたが、父が命を引き取る少し前には「彼女ができたんだよ」と報告をすることができました。人口呼吸器をつけて会話もすることができない状態でしたが、報告を受けた父の表情は少し緩んでいたような気がします。

8月2日の朝、母からの電話がありました。平日にいきなり電話をかけてくることは普段はないため、すぐに状況は理解できました。案の定、「父の容態が危ない」とのことですぐに準備をして自宅を出ました。当時、自宅も実家も病院もすべて都内でしたので、自宅から病院へは決して遠くはありません。ですが、病院へ向かう道中で母から再度連絡があり、父が息を引き取ったことを教えてもらいました。電話口で母が涙声で言った「お父さん、十分頑張ったよね。」という言葉は今でも脳裏に焼きついています。

その後は息を引き取った父の姿を確認し、バタバタと葬儀が進んでいきました。以前から覚悟はできていたつもりでしたが、やはり父の死に直面するととても動揺しました。

結婚したいと思った日

父の状況は彼女にも知らせており、いつ何があってもおかしくはないことも伝えていました。父が亡くなったこともすぐに報告しました。すると彼女は「今日の夜、そっち(実家の方)に行っていい?」と提案をしてくれました。

僕はびっくりしました。なぜなら、父が亡くなる前日の8月1日に彼女は彼女で転職先への初出社を果たしたばかりだったからです。初出社の翌日ではあるものの、新天地では疲労やストレスもあるはず。それに、彼女の職場や自宅も都内とはいえ、郊外にある僕の実家の方まで来るにはそれなりに時間もかかります。

とはいえ、父の葬儀は小さいもので手続きや準備はさほど無く、昼間には家族でもたくさん話す時間があったので夜には時間の余裕もありました。「会いたい気持ちはあるけど、疲れているだろうから無理しないで」と伝えたところ、彼女は仕事終わりに実家の最寄り駅まで来てくれたのでした。

当時、お付き合いをして1ヶ月ばかりのため僕の家族との面識もなく、さすがにまだ会わせるのも早いと思いました。とはいえ、重苦しい気分でお店に入る気にもなれなかったので、駅から徒歩圏内の大きな公園に行くことにしました。

ふたりで公園のベンチに座り、近くのスーパーで買ったシュークリームを片手におしゃべりをして過ごしました。いつもは僕が話を聴く側ですが、今日は珍しく彼女が聴く側です。今日の顛末や父の姿を見て感じたこと、父との思い出をつらつらと語りました。すると、隣からズビズビと音が聞こえてきます。

(泣いてる…?)

僕の話を聴いて、彼女がめちゃめちゃ泣いているのです。顔をクシャクシャにして、子どもがおもちゃを壊してしまった時のように口をひん曲げて泣いています。降水量こうすいりょうならぬ降涙量こうるいりょうという指標があるならば、当事者の僕や母の涙を足し合わせても彼女の降涙量には遠く及ばなそうでした。

僕は昔から、あまり涙を流すことはないタイプでした。悲しい体験をしても感動の映画を観ても、心は揺れても涙は出ません。それは、父の死に直面をしても同じでした。もちろん悲しいし、動揺もありました。ですが、涙という形ではあらわれないのです。

それなのに、僕の隣にいるこの人はめちゃめちゃ泣いている。直接の当事者でもないはずなのに。その姿を見て、心がとてもスッキリしたことを覚えています。僕の涙が出ない分、代わりに泣いてくれている感覚がありました。そして段々と、彼女の泣き姿を面白く感じてくるのでした。

「なんで、俺より泣いてるんだよ!笑」

そんな風に彼女をからかいましたが、本音では

(この人は、人のために涙を流せる素敵な人なんだな。この人とずっといっしょにいたいなぁ。)

と思っていました。

8月2日は僕にとって「父の命日」である一方で、実は「妻と結婚したいと思った日」でもあるのでした。その4ヶ月後には僕たちは入籍をしているのだから、人生は何が起きるか分かりませんよね。

妻の泣き姿を見るたびに

父が他界して丸3年が経ち、父のことを思い出すことは少なくなりました。ですが、ふとした時に生前の姿に思いを馳せることがあります。

そして、相変わらず妻はよく泣いています。とはいえ、当時のような悲しい出来事で泣いているわけではありません。妻の涙の対象は映画です。妻は歴史モノや戦争モノのコンテンツが好きなようで、それらをアマプラで観てはひとりでよく泣いています。映画の視聴を終えると、妻の目の前にはティッシュペーパーの山ができあがります。

僕は妻の観る映画にはあまり興味が湧きませんが、妻の泣き姿を見るのは大好きです。ズビズビしている表情や様子が未だに面白く、子どものように純粋な姿を愛らしく感じてしまいます。そして、当時のことをつい思い出しながら「この人と結婚して良かった」ということを実感するのでした。

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