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奥田牧師の解決しない相談コーナー① 「アリが怖いのですが」

(先日の「東八幡教会星の下祭り」の際にそんなコーナーを作り、参加者で悩める小羊奥田牧師への回答を考えていただいた。その時のやり取りはともかく、自問自答してみた。)

【相談内容】 
私は、そもそもあまり怖いものがない人間でした。お化けも幽霊のたぐいも大丈夫。雷も親父も平気。「饅頭怖い」などと洒落たことも申しません。
しかし、どうしても怖いものがあるのです。考えるだけでも身の毛もよだつ。笑われるかも知れませんが私はアリが怖いのです。
あのアリです。小さくて、黒くて集団で移動する、あのアリです。子どもの頃、昆虫好きの私は公園でアリの行列を観察していました。アリたちは何かをせっせと運んでいました。「暑いのに精が出ますね」と優しい気持ちで眺めていたのです。すると右から来たアリが、左から来たアリと出会いがしらに頭の角みたいなやつで「チョン、チョン」とやっています。何か意見を交わしているようです。すると二人とも「そうだ、そうだ」とうなずいて別れていくのです。そして次のアリがやってきて「チョン、チョン」。やはり「そうだ、そうだ」とうなずいては別れていく。何が「そうだ、そうだ」なのか。彼らは何の情報を交換し、何にうなずいているのか。しばらくしてわかったのです。私の悪口を言っているということを。
何百、いや何千というアリが私の悪口を天下の公道で言い広めているのです。本人がそれを聞いているにも拘わらず何一つ気にすることなく「ああ、聞こえましたか、すいません」とか気遣うこともなく、白昼堂々と「悪口」を言い広めている。「いっそ踏みつぶしてやろうか」とも思いましたが、たぶんその虐殺事件は明日には公園全体に広がり、その後地域一帯に、そして日本全国に、さらに地球規模で言い広められてしまうでしょう。もう逃げることは出来ません。無論、戦うことも出来ません。考えると怖くて怖くて眠れません。私は、どうしたらいいのでしょうか。


【回答】
 あなたは、大切なことに気付いていません。目先の「小事」に捕らわれると「大事」を見失う。あなたはまさにその過ちを犯すところでした。考えてみてください。あなたは自分でも知らないうちに「超特殊能力」を身に着けていたのです。そうです。あなたは「アリ語」がわかる最初の人類なのです。これは「それこそ恐ろしい」ほど貴重な能力です。
「ことばが通じない」は交渉決裂の場面で捨て台詞として使われますが、あなたはまさに「ことばが通じた」最初の人なのです。これには和解と平和の香りさえします。人類は、これまでアリに対して散々なことをしてきました。手でつぶす、踏みつぶす、ついには「アリの巣●●●」など、巣ごと絶滅に追いやるという究極の手段さえ身に着けたのです。しかも、問題は「相手の言い分も聞かぬままやった」という事です。ただこれは致し方ない部分もあります。なにせ「ことばが通じない」のですから。
しかし、そこに一筋の光明が差し込んだのです。そう「あなた」です。あなたは、アリ語が理解できた最初の人として今後使命を果たすべきなのです。それが筋というものです。怖がらずにどんどんとアリさんと話してみてください。もしかすると「いろいろあったけどこれからは地球に暮らす者同士、仲良くしようや」とお互い語り合うことが出来るかも知れません。「君らもなるべく家の中には入らないでくれませんか」「ああ、失礼、ついついおいしい匂いがするので。今後気を付けます。だから、子どもたちの食べ残しは早めに拭いてやってもらえますか」。など、まさに「話せばわかる」になるに決まっています。
さらに「あっちの公園の下には液化天然ガスがあるぜ」とか「こっちの木の下には汚染されていない湧水が眠っているぜ」など、環境破壊と資源不足に苦しむ私たちにとって重要な情報がもたらされる可能性さえあります。地底に暮らすアリならではの情報です。
そうであれば多少の悪口はガマンしましょう。それは無視して一層仲良くなってさらに重要な情報を教えてもらいましょう。それと応答も忘れずに。「ブランコの下にさっきこどもがアイス落としてましたよ」とか時機に叶った情報を提供しましょう。きっと悪口も減るはずです。
そもそも悪口を言われて悪口で返す、そんなことをするとロクなことにはなりません。ましてや踏みつぶすなどと考えてはいけません。アリは戦争をしませんが人間は悪口を悪口で返しているうちに戦争になります。この際、あなたの能力を生かして人類とアリとの共存国家を設立させ世界を平和に導いて下さい。あなたならできます。

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