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区長制度とは何か?

≪おごおりトーク6≫

 少しマニアックな話になりますがご容赦ください。
 ここでいう「区長制度」とは、東京都の特別区や政令指定都市の行政区の「区長」のことではなく、地域の自治会・町内会の代表者としての「区長」を指します。
 自治会・町内会の代表者の呼称は市町村によって異なると思いますが、小郡市では自治会のことを「行政区」、自治会長のことを「区長」と呼称しています。これは何故なのでしょうか?
 私たち自治体職員は、業務上、地域の区長との関係は密接ですが「小郡市の区長制度とは何か?」を説明することはなかなかの難題だと思います。
 そこで今回は、小郡市の区長制度について私なりの考え方を整理してみたいと思います。

区長とは何か?

 区長について正しく理解する為に、まず自治会の歴史的経過から見てみることにします。

 自治会・町内会の起源は諸説ありますが、人間がある土地に拠点を置いて生活や生産活動を行うためには一定の共同体が必要であることは理解できます。歴史的にみても、江戸時代はもちろん明治期以後も、その地域独自の共同社会の存在が確認できます。
 明治・大正期には、経済の拡大や社会問題への対応にともない国策の徹底を図るために行政補助団体として自治会・町内会は行政の末端組織として整備されてきました。
 1940年には,国が発令した「部落会町内会等整備要領」により自治会・町内会はいっそう本来の地域共同体としての性格は薄められ、もっぱら国策遂行のための政府機関の下部組織としての役割を担うこととなり、国の戦時体制組織としても利用されることになります。
 戦後、1947年には自治会・町内会等が国の戦争遂行体制の一部であったとしてGHQから解散命令(ポツダム政令)が出されましたが、住民の日々の生活を維持し身の安全を守るためには相互扶助の組織が不可欠であったことから、多くの自治会・町内会が名目を変えながら細々と存続されてきました。
 1952 年にサンフランシスコ講和条約の発効に伴いポツダム政令が廃止されると、自治会・町内会等も再び全国に急速に組織再編されるようになりました。

 このように、自治会・町内会の歴史は古く、困難な時代にも維持・存続されてきた経過があり、時代が変わっても日本の地域社会や住民にとっては他の組織に代替することのできない必要不可欠な組織として存続され、現在に至っていると思われます。
 現在の自治会は、住民の生活圏域に応じた地縁で組織され、相互扶助精神に基づいた地域共同体として運営されており、それぞれの自治会にはその代表者として自治会長が選任されています。

自治会長と区長はどう違うの?

 この点が区長を理解するうえで問題をややこしくする要因でもあります。その疑問を紐解くために、小郡市の「行政事務委嘱に関する規則」を見てみたいと思います。

小郡市行政事務委嘱に関する規則
(昭和47年6月5日規則第94号)

(目的)
第1条 この規則は、市行政の民主的かつ効率的な運営をはかり、市民福祉の向上を期するため、区長の事務の委嘱に関し必要な事項を定めることを目的とする。
(区長への委嘱)
第2条 市長は、毎年4月1日各地区において選出された区長のうち、市長が適当と認めた区長へその事務の一部を委嘱することができる。

 この規則は、昭和47年の小郡市の市政施行時に制定されたものですが、自治会・町内会の歴史的経過から考えると、おそらくそれ以前からの実態を引き継いだものだと推測されます。
 この規則の趣旨は、地域の自治会を行政補助団体=行政の末端組織として位置づけ、その代表者である「区長」に行政事務の一部を委嘱するというものです。
 あらためてその趣旨を確認してみると、地方分権から住民主体のまちづくりを目指す現在にあって、この歴史的遺産ともいえる規則がいまだに存在していることも驚きです。全国的にはすでに廃止された市町村が多いとは思いますが、今回はそのことはさておきます。
 小郡市においても、前述の歴史的経過のとおり、自治会とその代表者である自治会長(名称は不明ですが)は地域共同体として維持・存続されてきたものと思われます。そして、1952 年以降、自治会が再び組織再編される際に、行政の末端組織としての機能が強化され、その結果、自治会長は行政事務の委嘱に伴い「区長」という非常勤特別職に位置づけられ、その区長が行政事務を執行するエリアを「行政区」と呼称したのではないかと推測されます。
 つまり、自治会長が行政から委嘱を受けた事務を執行する立場が「区長」であり、そのエリアが「行政区」ということだと思います。

 ここで問題を複雑にするのは、私たちが通常使っている「区長」という呼称は、この自治会長と区長とを混同した呼称であり、自治会の代表としての「自治会長」と行政事務を執行する「区長」は同一人物であるという点にあります。
 私たち自治体職員も、地域の地縁組織(自治会)に関することは「自治会長」、行政事務の執行に関することは「区長」と厳密に使い分けているものではありません。また、「行政区」についても住民の居住エリアにおける地縁組織=自治会の意味で使用しています。
 区長自身も、自分が自治会長と区長の二面性を有していると認識している人はほとんどいません。
 そのため、自治会長と区長のどちらか一方の役割を指して論議する場合に、「区長」という呼称で表現してしまうと、そこに大きな誤解を招くことになります。

小郡市の区長制度とは何か?

 さて、ここで今回の冒頭のお題、「小郡市の区長制度とは何か?」に戻って考えてみます。
 自治会という住民の相互扶助による地縁団体は「権利能力なき社団」とされており、社会的に整備された制度や根拠法令は存在しません。自治会のあり方は現在でも地域の慣習や歴史的経過の中で地域住民の自由意思に基づいて維持・存続され続けているものです。
※認可地縁団体(地方自治法第260条の2)を除く。
 また、小郡市の規則に基づく行政事務委嘱制度は、行政が委嘱する事務の範囲に限って「区長」を規定するものであって、地域住民の代表者としての自治会長のあり方までを規定するものではありません。
 つまり「小郡市の区長制度とは何か?」という問いに対して、その区長制度の意味するところが「地域住民の代表者として自治会長と区長の二面性を包括的に規定する制度」と解釈した場合には、「そもそも小郡市にはそのような制度は存在しない」という結論になるのではないでしょうか。

 少しややこしい話になってしまいましたが、この結論が正解かどうかは別にして、皆さんのお住まいの市町村ではいかがでしょうか?

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