KAGRA報道から見る研究マネジメントの大切さ

日本が推進している重力波望遠鏡KAGRAが文春にすっぱ抜かれました。

誤解がないように言うと1MpcでもBinary Neutron Star(連星中性子星)は何とか観測できる程度であるいっているので単独では無理でも一緒に観測すれば何らかの信号が見える可能性はあるので「不可能」ではない。

1Mpcはいわば世界から提示された「最低限の宿題」であり、宿題を何とかクリアすることが最優先というお話で、順次感度を上げていくということなのでまあこれからなのでしょう。

割合近いところで研究をしていたのもあるので残念ではあるのですが、その内部事情が大方わかってしまう身から正直に言うと「さもありなん」という印象です。

梶田所長は実質「雇われ社長」みたいなポジションなので必ずしも彼の責任なわけではなく、一言で言うと内部のガバナンスとマネジメントのまずさが原因です。

ということでプロジェクトにおけるマネジメントの大切さのお話。

各個人を批判する意図は全くありません。内部関係者ではありませんので事実ではありません。あくまで組織図から想像、考察できる事柄とこれまでの経験から推測した予想であることをご了承ください。

KAGRAとLIGOのマネジメント体制の違い

KAGRAの組織図はこんな感じです。

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まずマネジメント体制を見ると普通の人には「???」となる体制です。
これを見るとPI(梶田氏)が責任を持てるのはKSC board(取締役会)とEO(おそらくEngineering Office?=製造部門)だけです。梶田氏想像以上に権力がない笑
しかも組織図に製造部門については記載すらない笑

しかも「sharing information and Idea」とあるので実質権限があってないようなもので梶田さんはお飾りに近い状態です。。。

緑は実質はバックオフィス的な役割なのでまあかろうじてOKなのと、Theory groupもまあ実質はコンサルのような立ち位置ですしOKとしましょう。

一方でDACの役割はPIの権限が及んでおらず、FSCの関係も不明です。さらに謎なのが紫のGroupの立ち位置です。これは役割としては課とか部に対応するものですので、本来どこか統括する人がいるはずでしょう?

組織図を見て推測すると実質の権限を持っているのは「Hideyuki Tagoshi」氏と「Hisaaki Shinkai」氏のようですね。いわば取締役員兼本部長兼部長みたいな感じです笑

全てが彼らの責任かと言うと彼らはそもそも装置開発にノータッチなので一概にそうとは言えないのですが、完全な蛸壺となっていて典型的な日本のダメ組織です。

今回問題になっている肝心の製造部門は全く持って不明です。データ解析するだけでは感度達成できませんからね。
ただ、組織図から推測できるのは圧倒的にdata analysis Committe関係の人数が多く製造部門の人数は圧倒的に少ないと言えます。
実験と名打っているのに実験装置を作成する人間が圧倒的に力を持っていない。そしてこの組織図が暗示するのは「データ解析部は製造部門のことは全く関与していない」ということです。

KAGRAは「大型実験装置の建設」がキモなのにその建設部門が社内では弱小という何か大きな矛盾を抱えた組織図になっているのがわかるかと思います。ビジネスで例えるとある製造業の会社があったとして、7割の従業員がITエンジニアとDXエンジニアとコンサルで3割で設計、製造、運用を担っている会社みたいなものです。

しかも情報伝達や指示系統があいまいになりがちな蛸壺組織での運営。

当たり前ですがうまく行くわけがない。

一方でLIGOの組織図です。

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良くある組織図になりました。Management teamの元Observational science teamとInstrumentation team, Operation teamと分離して責任範囲がきっちりしています。また、上の立場の人間があるグループのリーダーを兼任していることはありません。

KAGRAとの最大の違いはInstrumentとObservationとOperationが独立かつ対等な立場であるということです。

また、Ombudspersonと監査役までついていて、組織についての助言ができる人までついている。

LIGOについても途中までグダグダだったのがマネジメント人材を入れ替えて体制を整えたことで開発が爆速で進んだという噂があったりします。Barry Barishは元々素粒子物理学者(スイスのLHCのような大きな実験をする人)なので大きなプロジェクト運営の仕方を知っているのだと思います。

一方で日本は梶田氏は素粒子物理学者ですが、彼の能力を発揮させることはこの組織では土台無理な話で、日本人の好きな蛸壺組織になってしまっています。

組織と思考は一致する

私自身はLIGOのような比較的組織だったプロジェクトと前者のようなダメダメプロジェクト双方にいたことあるのですが、経験上組織と組織にいる人の思考は対応します。

つまり蛸壺組織を作る組織の人間は「思考も蛸壺」な傾向が強い。言い方は悪いですが、研究者と言えど論理的な思考があまり得意ではない人々で(天文学は研究の性質上そういう人々は多い)近視眼的で突発的な思考の人々が多い。

この組織は考案者の頭の中で以下のようなプロセスを経たを想像します。
1.「自分が考え付く必要なものを並べる」→DACが成立
2.「海外の流れで必要な委員会を作らないと」→緑が成立
3.「将来計画は大事だけど関係者とあんまり仲良くないし」→FSC設立
4.「装置のことはよくわからんから俺はしらん」→EOが設立
5.「装置のこと知っておかないと困るし情報共有の場をつくらないと」→紫設立

こうやって5が乱立してお互いにオーバーラップがあるのにリーダーがバラバラな組織が出来上がります。本人の中では「論理的に考えているつもり」なんですが、よそから見ると論理もクソもない感じです。

正直に言って論理的な思考の持ち主であれば誰でもLIGOのような組織を作るはずなんです。そうなってないのは政治や権力抗争が大きな理由です。

各組織の内部での権力抗争があればあるほど、自分の利益の最大化を優先しますので非合理化が進み蛸壺組織ができやすい。
蛸壺組織では自身のグループのリスクを極力減らすというインセンティブが働きます。見ての通り「DAC」が権力を握っている割に責任は梶田さんが一手に引き受ける状態になっている。

おそらく「1Mpcで観測を開始する」という決定自体も梶田さんが行ったというよりは「装置の完成よりもデータ解析(=自分の利益)が大事」なDACメンバーの圧力でしょう。

この構造が無責任な決定を生み出し、研究の進捗と研究環境を悪化させていきます。

LIGOは資料を見ればわかりますが2年に一回選挙によってリーダーを決めるようになっていて極力権力によって組織が歪ませないようになっている。

アカデミアの組織

こうやって見ていると研究の効率の悪さと中小企業の生産性の悪さはほとんど同じような原因であると言えるのかもしれません。実際データからも「研究の効率の悪さ」が顕著になっているそうです。

KAGRAのような蛸壺組織にいて実感したのは目標を達成することが最終目標でなく「社長、リーダーの個人崇拝」が究極の目標になっている。典型的なブラック企業ですね笑

世間の声は「基礎研究は大事なので予算継続」という主張が多いですが、中身はこういう実情ですので、金を渡せば渡すほど組織は硬直し金を食いつぶすだけです。

KAGRAに資金を渡しても「DACメンバー」が増えるだけで肝心の装置改善については人員が増えることは無いことはこの組織図から想像できるかと思います。

ですので、KAGRAを短期間で成功させるにはまず抜本的な組織改革が必要であるように思います。
LIGOのような真っ当な組織に改革していくのはまず今の組織を解体する必要があるのですが、予算をカットされるのを条件にするなど強制退出をさせるか、彼らが「権力を保っている」と感じつつ、権力を奪うことがまず重要になってきます。

厄介なのは蛸壺な組織は蛸壺であるという認識を持っていないということ、そしてアカデミアは比較的左翼体質が強い組織も多いので、聖域化がされやすく、多数決や上からの圧力も左翼体制の組織の力で何かと転覆されてしまうという点があります。

過去の事件として天文学者さんたちはクーデターを起こしてまっとうに組織を運営してきたトップを追い出すという中々なことをやっていたりします。

KAGRAのような組織において意外と効果的なのは「ご隠居ポジション=口だけ出す権利はあっても裁量はない」というポジションにおいてあげるということです。
会社の役員と違ってどうせどのポジションにいても給料は変わらないんだし笑

つまり梶田さん(PI)の下にProgramme committeeを設立して、ここに名前が載っている人全員を押し込む笑

そして、比較的若手で優秀な人材をそれぞれのグループのリーダーにして運用していくというのが個人的に考える改革方法なんじゃないのかなと思います。

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