ある研究分野の寓話

そんなに遠くない昔、あるところに飛ぶ鳥を落とす勢いの研究分野がありました。

「森羅万象全ての」の基礎学問を標榜し、ありとあらゆるポストや予算に影響を与えてしました。

また当時「科学といえば物理」というほどの勢いでしたので「物理帝国主義」という言葉さえありまして、その極左とも言えるのが彼らでした。

この分野の人々は生物や化学の法則に対して「それ何が面白いの?」や「それ物理的にはもうわかってるからあとは計算の問題だよね」という見下した態度をとっていました。

実際に「全ての物質の基礎理論」という意味では間違っていないですし、とっても優秀な人々が集まっており、難しい数学と物理理論を駆使して様々なすごい理論を生み出していました。

他分野の人は彼らに対して屈折した気持ちを持っていたであろうことは想像に固くありません。

そんな状況でしたので、彼らは潤沢な予算を利用し様々な施設の新設を計画しました。
彼らの先輩には原爆を生み出した人やノーベル賞をとった人たちなどすごい人たちがたくさんいましたので、国家とも深い関係ができており、国家高揚としても機能していました。
また、当時は公共事業による地域振興も盛んでしたので色々な地方が誘致合戦を行いました。

ある時、空前絶後のプロジェクトが発足しました。
5000億円をかけて超巨大な実験施設を建設するプロジェクトです。

さて、このプロジェクト大いに見切り発車をしたプロジェクトでして計画変更や予算増額が置きました。

様々な問題が噴出しつつもズルズルと計画は進行していきます。そして「そもそも設計をやり直す必要がある」というレベルの深刻な問題が発覚しまして、最終的に総額1兆円のプロジェクトになりました。

当時のクリントン政権では冷戦が終了し国家威信のためのプロジェクトの必要性がなくなっていました。また、日本との貿易摩擦を抱え、産業構造を変えていく必要性もありクリントンはバイオテクノロジーに目をつけました。

そこでやり玉に上がったのが件のプロジェクトです。

これまで虐げられてきた人々はここぞと言わんばかりにプロジェクトに対して猛烈な批判を加えました。

その結果プロジェクトは中止になり、代わりにゲノム解読プロジェクトが発足しました。

最終的にプロジェクトはヨーロッパに渡り、20年の月日をかけてようやく悲願の計画が達成されました。

計画が中止になり職を失った研究員はどうなったでしょう。一部はヨーロッパプロジェクトへ参加しました。一部はウォール街へ向かいクオンツになり莫大な富を築きました。その話はまた別の話。

新たに生まれる寓話

実は一兆円をかけているプロジェクトは他にもあります。最近ようやく打ち上がったハッブル宇宙望遠鏡の後継機、JWSTも設計ミスなどにより10年以上も計画が遅れ、予算も膨れ上がった結果、1兆円規模になりました。

こちらも何度も中止の危機に会いましたが、なんとか生き残りました。
それはハッブル宇宙望遠鏡の人々に与えた影響や「宇宙」というわかり易いミッションというのもあります。
またロケットや衛星は軍事目的な部分も多々ありますので、軍からのサポートもありました。

つまり、先の寓話は研究体制の問題というよりは「人々のお気持ち」の問題でしかありません。(ぶっちゃけ1兆円くらい簡単に出せます。ウクライナにはすでに一年ちょいで数兆円出してます)

単に政治側が潰したいときにいい感じの潰せるものがあったという程度ですが、一方で「誰も支援してくれない」程度には嫌われていただけです。

この寓話が教えてくれるのは「科学も政治と密接に関係している」ということです。政治が絡めば科学もネジ曲がる。先の寓話はある種「政治の犠牲」でもあります。

さて、話は現代に移ります。同じように人工知能分野も飛ぶ鳥を落とす勢いになっています。

そして「全ての科学は人工知能の手法を使える」と称して拡大を測っています。いまや「人工知能帝国主義」と言っても過言ではない。

人工知能は実質国策にもなっていますし、なんなら経済界からのサポートも厚いので一兆円どころか数十兆円規模の計画になっています。

中にいる人間としては「人工知能研究でなければ研究にあらず」という価値観丸出しな人間が沢山いることに少々違和感を感じていますし、「エンジニア」=「ITエンジニア」というのもやっぱり違和感を感じます。

驕れる者は久しからずと昔から傲慢な人間はいつの世でも潰されていきます。

果たして彼らの運命はどうなるのでしょう?それは神のみぞ知るだけです。




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