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最後のセアカオサムシ、顕現。


前回の記事



前回の記事では、セアカオサムシが羽化後に地上へ現れた際、その事に音で気付けるように、割いたビニールを管理容器内へと設置したと記録した。

セアカオサムシ蛹管理容器


そして、なんとその翌日。
帰宅して部屋の電気を点けると、まさに想定していた通りの音が容器から鳴っていた。
小さな虫がカサ…カサ…とビニールに触れて歩く音。
この手法を思いついたきっかけの記憶、大きなトビズムカデが夜中に寝室へ侵入し、ビニール袋の上を闊歩していた時の事を思い出す。


ぎるトラウマとは裏腹に、はち切れんばかりの期待で胸が埋め尽くされた。
公式記録においては、1981年にゴミムシの成虫を餌として3齢まで育った報告がなされているが、蛹化には至らなかったようだ。
そんなセアカオサムシが今まさに飼育下で成虫に至ったかもしれない。
ましてや、その3齢幼虫に対して入手難易度の低い『代用餌B』のみを与えた事で羽化したのであれば、革命的だ。

恐る恐る、容器のコルク栓を開ける。

何かが動く音が聞こえる。寄生蜂などでなければ、確実にあの虫だろう。(セアカオサムシへの寄生例があるのかは不明だが)




見慣れた影が動く。
その虫の繁殖のために4年間、百キロ以上を歩いた事が報われるかのような音がする。





照明を反射する赤。
その影はまさしくセアカオサムシのそれだった。
本当に代用餌Bで羽化にまで到達した。
1個体を前蛹にした時点で餌が枯渇した際、夜通し悩んで正解だった。その事も報われた。


成虫が地上に現れた穴も確認できた。
飼育下ではよく床材に潜るので頻繁に見るサイズの穴だが、羽化時ものは…これはこれで貴重なのではないだろうか。スキルがあれば型取りしたいとさえ思えた。


元気に動き回るので深度合成は難しい


今回のセアカオサムシ繁殖は2齢時の脱皮不全個体1匹を除き、3齢にまで育った個体3匹それぞれに『専食対象と思われる餌』『代用餌A』『代用餌B』のみを与え、全てが成虫にまで到達するという結果となった。
寒冷極地に住み生態が異なると思われるリシリノマックレイセアカオサムシの文献をかなり参考にしたが、本種セアカオサムシの飼育繁殖成功例が歴史上存在しない中でここまでの結果に辿り着けた事により、自分の飼育人生においての一つのピークを迎えたようにも感じる。

しかし、まだまだ分からない事や効率化できる点も非常に多い。
来年以降も様々な手法を試していきたい所存だ。




採集した専食対象と思われる生物が枯渇し、代用餌の可能性についてぶっつけ本番で当たる事となり、最終的には運良く報われる調査結果となった。
しかし、現在は専食対象と思われる生物の累代飼育繁殖も同時進行で行っており、来年度以降に餌が枯渇する事はまず無いと思われる。
その生物は採集に少々骨が折れる…というか実際に現在20代の自分ですら度重なる採集と観察で腰をかなり悪くしてしまったのだが、様々な餌生物の繁殖経験を経て飼育繁殖に挑戦した所、かなりのスピードで大量に増殖できる事が分かった。(ただし初春のセアカオサムシ繁殖に間に合わせるには前年からの準備が必須と思われる。)
100円均一ショップのアイテムを使用しての大規模な数の累代飼育も可能で、この事についても今後報告したい。





そんな簡単に逝くなバカ!!!!!

そんな、スーーーーーーーッと逝くな。

字数制限で書ききれなかったが、「いや、ふざけんな」という言葉も口にした。
あまりにも縁起が悪すぎたから。
あまりにもシュールで面白すぎた反面、嫌すぎたから。

この個体は1週間近くもの間、飲まず食わずで蛹室も作らずに飼育容器内を動き回った後、力尽きるかのように人工蛹室内で前蛹となった。
そんな経緯があるので、無事に蛹化できるかどうかが本当に不安だった。
まさか日本におけるセアカオサムシ飼育繁殖個体第1号となるとは思いもしなかった。

今、上記動画を見て自分が笑う事ができるのは、運良く飼育が成功できたからだろう。



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