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また朝が来る。

生まれたから、何かをしなくちゃいけないみたいな
そんな世界がしんどい。
何者でもない私を、私は嫌いになれない。
今日も朝が億劫だった。

今日で私は24歳になる。
何も変わらない日常の中で、アラームすら鳴らない静かなアパートの一室で迎えることになるだろう。

メッセージ音が鳴った。
数週間ぶりに父からのメールだった。
目を覚まして、携帯を手に取った。

なんて事のないメールだった。
陽、元気にしているか?
誕生日おめでとう。
もう24歳になる、そろそろ何か始めたらどうだ。
そんなメールだった。

普段なら何とも思わないメールだ。
何故か今日はとても頭に残ったのだった。

私は、一年前に仕事を辞めて今は当時の貯金と週二回の夜勤で生活を賄っている。
東京都内にすぐに出られる程よい田舎に、
六畳一間のワンルーム。
毎日の食事は大体、一気に五合くらい炊いて、分けて冷凍しておく白米と缶詰。
そして味噌を溶かすだけの具の無い味噌汁。
月に使うお金なんてしれている。
じゃあ何故働くのだろう。
私は何の為に働いているのだろう。
ふと悟った様にそう思ってしまい、私の一年間のフリーター生活が始まった。

仕事を辞めた当時の貯金は約150万ほど。
それが今は20万ほどだった。
まるでこの一年で使ったお金が、自分の価値を示されている様でとても虚しく、何故か苛立ちすら覚えた。
私だって、ずっとこんな考えではなかった。
一年前までは毎日一生懸命に働いた。
残業しても変わらない賃金なんて気にもしなかった。
今日頑張れば明日良いことがある。
今日頑張れば、この企画は更に良くなる。
今日頑張れば、明日は休みだ。

実際はそんなことはない。
今日頑張っても、明日はまた同じ今日だった。
今日頑張っても、企画は多くの内の一つで私が何もしなくても何変わらないのだ。
今日頑張っても、私は次の日も電車に揺られていた。

そんな中でも私は夢を叶える為にと日々努力していたつもりだった。
せっかく生まれたのだ、何かをしたい。
何かになりたい?とにかく何かになりたかった。

居酒屋で同僚と飲みに行き、終電を逃してまで夢について語った。
お金が無いから、3時間かけて歩いて帰っても胸には強く熱意を持っていた。

それがある日突然燃え尽きたのだ。
ふと振り返った。

それだけ疲弊しながらも日々を生きていた私の目の前には、
ボロボロのアパートに、散乱した部屋。
髭を剃ろうとした時の老けた私の顔。
残業しても変わらない賃金に、無駄に出て行く交際費。
貯金なんて、使う時間がないから少しだけ溜まっていた様なものだ。
携帯を日曜日に開けば、一週間分のメールが溜まっていた。
仕事を始めて、二年。
今の私は、何者なのだ。
そう思った途端。
目から涙が溢れ、真っ昼間の路上で呻き声を出して崩れ落ちた。

それから一年間、私の社会はこのアパートだけになった。

夢を語り、共に熱意を持った友人達の熱いエール。このままでいいのか!?
両親からの、まともになりなさいと言う言葉。
世間の、フリーターに対する冷たい目。

私は疲れたのかもしれない。
何者でなくてもよかったのなら、みんながみんな自由で何をしていても何も干渉されなかったなら、私はまだあの日々の中だったのかも知れない。

何かでなくてはいけない。
何かをしてなくてはいけない。
そんな世界がとてもしんどかったのだ。

私は今日24歳になった。
父からのメール。
私はそろそろ何かを始めないといけないのかも知れない。
結局、今も社会に生きる人々から見てみればただの甘えた腑抜けでしか無いのだろう。
ただ一つだけ言いたい。
疲れたら休息も必要なのだ。
悪いことが続く中で、その先に良いことなんてないのだ。
良くない考え方に変わり、悪いことは悪い事象を呼び込む。
少しだけ、少しだけで良い。
一歩引いて、休んで欲しい。
何者でもない君は、世界に一人の君なのだ。
そして、きっと私も何者でもない、たった一人の人間なのだ。


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