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「ないと困る場所だから」と言われた日。


朝10時は、お店で使った経費と売上をパソコンに入力することと、ご来店いただいたお客さんの人数の確認をする。これがいつもの僕の日課。最初のころは慣れなかったのだけど、さすがに5ヶ月もやってると少しは慣れる。

そして、不思議なことにそれがちょっとした楽しみだったりする。その楽しみは、夏休みに入る前に学校の先生から成績通知表を受け取る時に近い感覚に近い。今回はどんな成績だったかな」と通知表を開く時のワクワク感が子供のころは好きだった。昨日までの頑張りがそこで評価されているのが、ちょっと嬉しい気持ちになるからだろう。そんな気持ちで毎朝の経理作業を行なっている。

今日もいつもと変わらぬようにワクワクをしながら、お客さんの人数を確認をしていた。その時にパソコンの画面を見て、自然と「おお、まじか」という声がこぼれた。

8月29日時点で、お客さんが0人だった日がなかったのだ。

オープンした3月はお客さんが来てくれる日が少なかった。ただ1人でカウンターの中でお客さんが来るのを待っていた。隣近所のお店は満席だったり、常連さんが楽しく飲んでいる。その姿を見ながら、羨ましいという気持ちと寂しい気持ちがごっちゃごちゃになったのを今でも覚えている。
加えて、始めたばかりなのに「この仕事、向いてないんじゃねぇか」と営業終わりのローソンで野菜ジュースを飲みながら思ったこともある。

大きく変わり始めたのは3ヶ月たった6月頃からだった。
知り合いではない新規のお客さんも席についてくださるようになってきた。その中には、今では毎週のように通ってくれるお客さんもいてくださる。そして、これまで来てくださっていたお客さんと新規のお客さんがお互いに仲良くなっていく様子も少しずつ増えて来た。

見たかった景色が僕の目の前で広がっていた。

そんなある日、いつも来てくださるお客さんがふらっと立ち寄ってくださって、いつものようにポテトサラダとビールを注文してくださった。
変わらぬ光景を楽しみながら、会話をお互いに楽しむ。

お客さんが「お会計を」という合図をして、僕がお会計をして、お代を支払ってもらう時に、お客さんがこう言ってくださった。

「このお店なくなったら、僕が困るから、営業がんばってね」

少しあっ気をとられてしまい、つまりながら「は、はい!」と僕は返事をした。じゃあまたね、とお客さんはお店からご自宅に向かって帰っていった。

その数分後に、「この店が誰かにとってなくてはならない存在なった」ということを感じて、すごく気持ちが高ぶった。
お客さん0が多かったころと比べると、すごく大きな進歩だと、お客さんにとって必要な場所になっていったということをお客さんから聞くことができたのが、ただただ嬉しく思った。

それ以降、お客さんから「ここが好きだから」「誰かと話せるからね、楽しい」「帰り道に寄れる店はここだからね」と言ってくださる回数が増えていった。

それが嬉しくて、嬉しくて、毎日、その繰り返しだった。

気が付いたら、毎日、お客さんが来てくれるようになっていた。

お店を経営していて、戦略的に手法を考えたりする。どうやったら販促することができるか?単価をあげることができるか?
経営者としては必要な思考だろう。というか、考えていかないといけない。

ただ1人の人間として考えた時には、来てくださるお客さんにとって、「逃げる場所」であったり「学びの場所」、「楽しめる場所」であったりと、お客さんにとっては「なくてはならない場所(存在)」にならないといけない、と思う。

お客さんが0の日がなくなったのは結果の話。その結果になったのは、いつも来てくれるお客さんたちにとって、「なくてはならない場所」としての価値をお客さんたちと一緒に作っていけたからだと思う。

これからもお客さんたちと一緒に、この場所を作り上げていければいいな。


記事を読んでいただきありがとうございます。ただいまお店は長期休業中のため、当店のレモンサワーを封印しております。店舗継続のため、もし記事を面白いと思っていただけましたら、サポートをしていただけると嬉しいです。