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デビュー21年目でたどり着いた円熟の境地。マンガ大賞2023『これ描いて死ね』

以前にノミネート作が決まったという記事を投稿していた「マンガ大賞2023」の受賞作が決定し、とよ田みのるさんの「これ描いて死ね」が大賞に選ばれたことが発表されました。

この作者のことは正直知らなかったのでノーマークでしたが(今回過去作も調べてみて、前作の「金剛寺さんは面倒臭い」は何かで紹介されてて、見た記憶はありました)、絵柄も可愛らしく、色遣いが独特で作品のテーマも興味深いものだったので、さっそく読んでみました(1巻だけですが)。

作品の内容としては、主人公の漫画好き女子高生が、とあるきっかけで漫画家を目指すようになり、読む側から描く側へと変わり成長していく…といったものになっています。

漫画内漫画ということでは「バクマン。」などが思い当たりますが、主人公が女の子であることや、漫研を作って共同で作品作りに取り組む様子などは、どちらかというと「映像研には手を出すな!」の方が読み心地としては近いような気がしました。

絵的には線の強弱があまりなく、キャラクターの見た目も独特で「ハイスコアガール」押切蓮介さんや、「うちの妻ってどうでしょう?」福満しげゆきさんみたいな、ややしっとりとした絵柄の印象を受けました。

また、決めのシーンの背景の構図や描き込みがしっかりしていて説得力があり、前作の「金剛寺さんは面倒臭い」「地獄」、前々作の「タケヲちゃん物怪禄」「妖怪」など、モチーフも様々でそれらをストーリーに取り込むアイデアにも溢れていて、飽きさせません。

今作は漫画家漫画ということで「まんが道」をイメージしているのか、作中で主人公があこがれる漫画が藤子不二夫先生っぽい雰囲気になっていたり、キャラクターの表情や表現も意図的に寄せている感じになっているなど、楽しいです。

とはいえ、物語の展開は王道ながらも独自のもので、パロディ感はなく先を期待させるものになっており、1話は普通に完ペキって感じでした。

作者本人の受賞のコメントもほのぼのしていて、自然に応援したくなる雰囲気を持っていますし、年齢的にもその裏にある苦労も見え隠れするなど、作中のキャラクターの主張に妙なリアリティが感じられ、なんだか泣けてきます。

マンガ大賞は書店員や漫画愛好家らの投票により選ばれるということで、一般的な売り上げベースのランキングや広告に左右されがちな電子コミックサイトの人気とは異なると思いますが、こうした愛のある作品を掘り出してくれることに感謝したいと思います。

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