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がんなのにリハビリって必要なの?

がんを罹患された方が病気が発覚してから、治療・退院・療養を経て新しいライフスタイルを見つけるまでの変遷をイメージすると以下のようになると思います。(必ずこのような形になるとは言えませんが)

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ここでは、それぞれの状態で起こることや、罹患された方が感じていることについて、ご紹介して参ります。

今回は、「1.病気の発覚~入院・治療まで」と「2.退院して自宅へ通院治療中」の両方の時期に関する記事となってます。

(文:訪問看護従事者 カモミールナース)

「リハビリ」と聞くと、どのような状態をイメージされますか?ドキュメンタリー番組などで「つらいリハビリを乗り越えて復帰しました!」という話を聞きますが、オリンピック選手が病や怪我を乗り越えて選手として復帰する場合を除き、リハビリは基本的に辛いものではありません。そもそも「リハビリ」とはどういう意味でしょうか。また、がんの治療中にリハビリは必要なのでしょうか。

リハビリとは

 「リハビリ」とは「リハビリテーション」のことです。ラテン語で、re(再び)+habilis(適する)からきています。体をもとに戻すだけでなく、尊厳や権利、人権が回復することでもあり、かのジャンヌ・ダルクやガリレオ・ガリレイが、のちに名誉を回復したこともリハビリテーションなのです。広い意味では様々な状況で使われる「リハビリ」ですが、ここでは医学的リハビリテーション、そのなかでも「がんリハビリテーション」について紹介します。

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がんリハビリテーションとは

がんになると、痛みやだるさなど様々な症状がみられることがあります。加えて、一時的とはいえ、手術や抗がん剤治療、放射線治療により著しく身体機能が損なわれることにより、食べられない、動けない、仕事に行くことができないなど、これまでの生活が送れなくなることもあります。これをQOL(Quality Of Life:生活の質)が低下した状態といいます。
がんのリハビリは、がん患者の生活機能と生活の質(QOL)の改善を目的とする医療ケアであり、がんとその治療による制限を受けた中で、患者に最大限の身体的、社会的、心理的、職業的活動を実現させることと定義されています。つまり、がんになってもできるだけこれまで通りの生活を維持し、自分らしく過ごすためのケアなのです。
リハビリは「してもらうもの」ではありません。自身がリハビリの必要性を理解し、障害を抱えてもあきらめずに、担当医やセラピスト(理学療法士や作業療法士)、看護師、栄養士と相談しながらサポートを受けていくことが大切です。

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リハビリはいつから始める?

【診断~治療開始まで(予防的リハビリ)】
リハビリは、何らかの障害が起こってから行うのが一般的ですが、がんのリハビリには「予防的リハビリ」といわれる分野があります。これは、がんと診断された後、早い時期に開始されるもので、手術や抗がん剤治療(化学療法)、放射線治療などが始まる前、あるいは実施された直後からリハビリを行うことによって、治療に伴う合併症や後遺症などを予防するものです。この時期にしっかり体力をつけておくことで、その後の治療に対する予備能力、いいかえれば「体力の貯金」をしておくことができます。がん医療においては、このような予防的な関わりが重視されていることが、脳卒中などほかの分野のリハビリとは大きく異なる点です。

手術前に行うリハビリの代表的なものに、呼吸リハビリがあります。手術後は痛みや麻酔の影響で呼吸が浅くなり、痰がうまく出せず、肺の奥にたまりやすくなるため、肺炎を起こす危険性が高くなります。この合併症を予防する目的で、手術前に腹式呼吸法を訓練し、呼吸が浅くなっても自分でしっかり痰を出せるようにしておくのです。

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【治療開始後(回復期リハビリ)】
がんのリハビリは治療と並行して行われます。手術後のリハビリは病状や手術内容により変わりますが、基本的には肺の奥に痰がたまらないように早期離床を促し、ベッドに座ったり、病室内を歩いたりするリハビリを行います。さらに、体力が低下した人にはトレーニングマシンなどを使って持久力訓練を行い、社会復帰が早くできるよう手助けします。
手術後だけでなく、抗がん剤や放射線による治療中もしくは治療後にもリハビリが必要です。この時期は、口内炎や吐き気・嘔吐、下痢などの副作用で食欲が低下して栄養状態が悪くなり、体力が落ちやすくなります。そういった身体的な辛さは心にも影響を及ぼし、精神的なストレスも強くなります。体が辛いうえ、意欲や気力も低下しがちになるため、横になる時間が長くなります。そうすると、筋力はたちまち落ちて体力も低下し、一層疲れやすくなります。そして、疲れるから動かない、動かないから体力が低下するといった悪循環におちいり、ついには寝たきりになる「廃用症候群(はいようしょうこうぐん)」を来してしまいます。
そうならないため、この時期に重要とされているのが運動療法です。具体的には、ウォーキングや自転車エルゴメーター(エアロバイクともいわれる、自転車の形をした室内用の運動器具)といった有酸素運動で、最大心拍数の40~60%(楽に会話しながらできる)の強度で20分から30分間の運動を週3日から5日行うことで、体力がつき、疲れにくく、また精神面にもいい効果が期待できます。他に軽い筋力トレーニングやストレッチも、身体機能を維持するために有効です。
※最大心拍数…運動負荷を上げていき、限界になったときの時の心拍数。年齢によって異なり、年齢が高くなるほど低くなる。最も簡便な計算式は「220-年齢」。
がんリハビリテーションにおいては、病状の変化をはじめ、あらゆる状況に対応することが可能で、回復してから仕事に復帰する過程もリハビリです。治療のどの段階においても、それぞれのリハビリの役割があり、がんと闘いながら生活の質-QOLを改善し、自分らしく過ごすことができるよう、チームでサポートしています。

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がんリハビリテーションを受けるには?

がんであれば、誰でもがんリハビリテーションが受けられるのでしょうか。また、どこで受けることができるのでしょうか。
2021年現在、施設や人員などの基準を満たし、厚生労働省に届け出を行っている病院での専門チームによる「がんリハビリテーション」が受けられる病院は限られています。また、対象者はがんによる治療を受けている(または受ける予定がある)入院中の患者とされています。ただし、あくまでもこれは病院側が「がんリハビリテーション料」を算定できるかどうか、という基準です。
たとえば舌がんで手術を受けた後、食べ物を口から食べることや、発声するためのリハビリは専門家チームでないと難しいでしょう。しかし、病気や治療の影響で麻痺が出現したり、著しく体力が低下したという場合、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士といったリハビリの専門家のサポートが必要とはなりますが、そういった状態に対するリハビリは、とくに「がんリハビリテーション料」を算定しているような「がん拠点病院」でなくても受けることができます。ただし、どのようなリハビリでも、医師からの「リハビリテーション指示・処方」が必要となります。医師からリハビリを提案されない場合、「リハビリを受けたい」と相談してみましょう。
がんリハビリテーションの多くは筋力運動・持久力改善や全身調整運動など、通常の健康づくりで行うものが基本となっており、上記のウォーキングやストレッチなど、自分自身でも行えるものもたくさんあります。どの程度の運動なら可能か、してはいけない運動はないか、医師に確認しておくとよいでしょう。元々運動をしていた人と、そうでない人の体力には差がありますから、自身の体力や体調と相談しながら無理のない範囲で行いましょう。目安は、「運動した日にぐっすり眠れるくらいの疲れ」であり、「次の日起きられない」ほどの疲れが出るのはやりすぎです。筋肉痛が出ることは悪いことではありませんが、痛みが治まるまでは筋肉の回復のために休む必要があります。お休みの日は特別体調が悪くなければ寝て過ごすのではなく、疲労回復を早めるために、軽いストレッチやお風呂にゆっくりつかる、などの積極的休養(アクティブ・レスト)もおすすめです。
リハビリを行うのは専門のセラピストだけではありません。医師や看護師、栄養士、そしてあなた自身もチームの一員です。リハビリは、闘病するうえで身体的な面だけでなく、精神的にも、そして社会復帰するときにも大きな助けになります。ぜひ、できることから自身のケアを行っていきましょう。

Tomopiiaこういった方々をサポートしていきたいと考えています!
1人で抱え込まずにいて下さればと思います。

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筆者ご紹介 カモミールナースさん
合計臨床経験26年 総合病院混合内科で7年、在宅分野は介護予防事業む含め20年目。訪問看護では、慢性疾患ケア全般、終末期ケアをはじめ難病や小児ケアにも携わる。
カモミールには炎症を抑えたり、気持ちを安定させるなどの薬効がある、古くから薬草としても利用されています。花言葉は「逆境に耐える」「苦難の中の力」「親交」。逆境や苦難の中でこそ生まれてくる力を発揮できるよう、周りを支えられる存在になれればと日々奮闘中!

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