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がんを罹患された方が病気が発覚してから、治療・退院・療養を経て新しいライフスタイルを見つけるまで、上図のように移り変わります。ここでは、それぞれの状態で起こることや、罹患された方が感じていることについて、ご紹介して参ります。

(文:訪問看護経験者 カモミールナース)

手術を受けることは、医師から説明を受けた後も、悩んだり迷ったりしながら決断されたことと思います。なかには「病院(先生)にすべてお任せします」という方もいらっしゃいますが、無事に手術を乗り切るためには、ご自身の体調を整えておくことが重要です。 手術の日にちが決まり、自宅で入院を待っている期間はとても心配で長く感じられますが、できるだけ普段どおりの生活を送りつつ、以下のことに気をつけて体調を整えておきましょう。

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1.禁煙・禁酒

手術前準備の第一歩は禁煙です。喫煙によって痰(たん)の量が増えると、肺炎などの重大な合併症(※)の危険性が増え、血流が悪くなるので傷の治りも悪くなります。禁煙は合併症の予防だけでなく、様々な病気の予防にも効果的であるため、これを期に完全に禁煙しましょう。禁煙期間は長ければ長いほうがいいのですが、手術までの期間が短いからといって「いまさら遅い」ということはありません。1日の禁煙でも、血液が酸素を運ぶ能力が上がるといわれており、禁煙期間が1週間伸びるごとに、合併症を起こす可能性が19%減少します。4週間以上の禁煙で、さらに肺炎などの呼吸器合併症を起こすリスクが減少し、免疫機能も改善するなど、より大きな効果が得られます。
また、手術や麻酔により肝臓に負担がかかったり、術後にせん妄(突然発生して変動する精神機能の障害)を起こしたりすることがあるため、禁酒することも大切です。

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禁煙後は離脱症状が出ることがよくあります。
・タバコを吸いたい
・イライラ・ソワソワ
・物足りなさ・口寂しさ
・眠気や頭痛
・だるさ             など

このような症状は概ね3~7日がピークです。ゆっくりと離脱症状は軽減していきます。この期間は1本も吸わずに乗り切ることができるかが重要ですが、3~7日間経てば離脱症状は軽くなりますので、その期間はこれまでのような生活ができなくても構わないと気楽に考えることです。禁煙方法として以下の方法があるので、ご自身が実践できそうだなと思う方法から試してください。
① 禁煙開始の日を決め一気に開始
② 一定の離脱症状は覚悟する
③ 吸いやすい、吸っていた時の「行動」をしない
  例)タバコを吸っていた場所に行くこと
    コーヒーや飲酒          
④  喫煙のきっかけとなる「環境」を改善する
   例)タバコやライターなどを捨てる(見ない)
     買っていた場所に行かない(買わない)
     喫煙者に近づかない(もらわない)
⑤ 吸いたくなったら「代わりのこと」をする
  例)水やお茶を飲む
    深呼吸をする

成功しやすい方法を実践し、うまくいかないことを無理に続ける必要はありません。また、以下の方法では禁煙できないので実施しないことが推奨されています。
  ✖「軽いタバコ」にかえる
  ✖「徐々に本数を減らす」
  ✖「新型(加熱式)タバコ」にかえる
  ✖うまく行き始めたときの油断「1本位なら」
  (わずか1本の喫煙で8割の人が再発します。)

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2.歯の検査と治療、お口のケア

お口のケアをきちんと行っておくことで以下の3つの効果が期待でき、さらに入院期間も短縮できることが期待できます。

(1)手術後の肺炎や心臓・手術創への細菌感染のリスクの軽減
口の中には1gの歯垢に1億という非常に多くの菌がいると言われています。手術前後は食事を食べられない絶食日があるため、細菌を減らしてくれる唾液の分泌が少なくなることや、低栄養状態が低下することで、口の中の環境が悪化し細菌が増えます。また、全身麻酔中は自分で呼吸することができなくなるため、口や鼻から肺の近くまで呼吸をサポートするチューブを入れます。
口の中が汚れていると大量の細菌が本来清潔でなければならない気管・肺の中に押し込まれ、肺炎のリスクが高まります。また、口の中の環境が悪化することで、口にいる細菌が血液を介して全身に運ばれ、心臓や創部(手術でできた創(きず)の部位)に感染を引き起こす可能性があります。手術前から歯磨き、うがいといった口のケアを十分に行うことは、手術後の肺炎などの感染症の予防につながります。
以上のことから、口のケアは食事ができないときこそ徹底して行ってください。

(2)気管チューブ挿入時の歯牙欠損のリスクの軽減
歯周病でグラグラしている歯や虫歯があると、気管チューブを挿入する際に歯が抜けたり、折れたりすることがあります。前もってできる治療はしておきましょう。

(3)手術後、自分の口で食べられるように
がんによる化学療法や放射線療法、骨髄移植では口内炎が副作用として出現する場合があります。そこで、これらの治療前にも、口のケアを行うことで口内炎の発生頻度をおさえることができます。歯垢はうがいや消毒薬では除去できないため、日々のブラッシングを丁寧に行うことも重要です。手術前に口の中の状態を良好にしておくことで、手術後の食事の開始をよりスムーズに行うことができ、手術後の体の回復にも良い効果が期待できます。
また、虫歯や歯周病、義歯が合っていない、ぐらついた歯がある方は、入院までの期間に歯科を受診することをおすすめします。
手術を行うことを歯科医師にも伝えて、歯の検査をしましょう。特に全身麻酔の場合には、ぐらぐらする歯が無いかどうか調べて麻酔中に抜けることがないようにします。検査の後には、必要に応じて歯の治療を行います。

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3.食事・栄養管理

担当の医師から特別な注意点についての説明を受けるまでは、基本的には普段通りの食事をします。体調に合わせて食べられるものを食べましょう。手術前の栄養状態が悪い場合は、主治医や医療チームの判断のもと、栄養剤を使用する場合もあります。心配がある場合は、主治医に相談してみましょう。

4.術前リハビリテーション(呼吸訓練)

一般的に、手術後には肺活量が低下します。また、手術後には痰(たん)をうまく出せなくなり、肺の中で酸素と二酸化炭素の交換(換気)ができなくなったり(換気不全)、肺がふくらまない状態(無気肺)になったりといった、合併症を起こす場合があります。これらを防ぐためには、手術前から呼吸訓練を行い、少しでも肺の機能を高めておくことが大切です。
呼吸訓練は呼吸に関わる肋間筋(ろっかんきん:肋骨の間の筋)や横隔膜(おうかくまく)などの筋力を鍛えるために行うもので、そのひとつに、インセンティブスパイロメトリー(※1)という器具を使った訓練があります。軽くコンパクトな器具で、これを使って入院前から自宅で呼吸訓練を行うことができます。手術後は手術前にできた基準を目標にして訓練を続けるとよいでしょう。(器具は保険適応外となります。病院の売店や、インターネットサイトで購入することができます。)
器具を使用しない方法としては、深呼吸訓練があります。深呼吸訓練は、胸やお腹をゆっくり大きくふくらませて行う呼吸法(胸式呼吸・腹式呼吸※2)で、いつでも行うことができます。また、呼吸訓練を必要としない手術もあります。

5.適度な運動

手術に備え、体力の維持・増進のために毎日運動するとよいでしょう。気分転換にもなります。特に、下肢の筋力を鍛えるためには、散歩をするなど歩くことが望ましいです。

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6.不安が強い場合

入院・手術に対して心配や不安が強い場合には、遠慮せずに担当の医師や看護師に相談してください。

一度にすべてのことをこなすのは大変です。手術に向けて、ご自身の生活スタイルに合わせたスケジュールをたて、禁煙以外は無理のない範囲で行いましょう。

Tomopiiaではこういった方々をサポートしていきたいと考えています!
1人で抱え込まずにいて下さればと思います。

追記:医師とのコミュニケーション、お仕事や家庭のこと、お金のこと、リハビリについては下記の記事で触れていますのでご参考にされてください。

がんになった…これから私はどうすればいいの?~前編~説明をうけるヒント・セカンドオピニオン
がんになった。。これから私はどうすればいいの?~後編~仕事のこと・家庭のこと・お金のこと
がんなのにリハビリって必要なの?

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筆者ご紹介 カモミールナースさん
合計臨床経験26年 総合病院混合内科で7年、在宅分野は介護予防事業む含め20年目。訪問看護では、慢性疾患ケア全般、終末期ケアをはじめ難病や小児ケアにも携わる。
カモミールには炎症を抑えたり、気持ちを安定させるなどの薬効がある、古くから薬草としても利用されています。花言葉は「逆境に耐える」「苦難の中の力」「親交」。逆境や苦難の中でこそ生まれてくる力を発揮できるよう、周りを支えられる存在になれればと日々奮闘中!

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