CDO/CIO/CTOをざっくり語る

DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進役として最近CDOというポジションが注目されてきています。CIOとの仕事の違いは?そもそもCDOなんか要らないのでは?という声もありまして、私の偏った主観(CIOから見たポジショントーク)に基づいたざっくりとした分類を、このnoteシリーズではお馴染みの、ネット事業・流通業・製造業という括りに沿って語りたいと思います。この記事では中庸を避け、極論的な語り方をしております。これは皆さんの脳を刺激して、発想の幅を広げるために意図したものです。くれぐれもここに書かれた事を教科書のように頭から信じる事のないように。そう、これは論文でなくポエムですからね。

ネット事業・ゲーム事業

【CDO】すべてがデジタルの世界で成立しているデジタルネイティブな会社にはCDOというポジションがないケースが多い。こういう会社のCTOはCDOというポジションが会社にあること自体を「ダサい」と感じる。そもそもちゃんとしたCTOさえいれば全て事が足りると考えているようだ。UI/UXを統括するChief Design OfficerがCDOと呼ばれているケースもあるが、この場合のCDOの役割は、デジタルでなくデザインの推進者。何故CDOがいないかは明らかだ。ネットの世界とリアルの世界をデジタルツイン化して、現実をデジタル化されたデータとして写し鏡のようにコンピュータ上に作り出し、ソフトウェアの世界で自分達の望む将来をシミュレーションして、現実をそれに合わせて最適化するようにソフトウェア側から現実へのフィードバックループを作るのがDXの本質であり、それがCDOと呼ばれる人の役割。この業界はそもそもリアルの世界を持たないから必要ないだけなのだ。だからCTOとCDOのどっちが偉いか議論には意味がないのだ。
【CIO】CIOはバックオフィスとインフラ・セキュリティを担当。CIOがフロントの事業から分離されているケースが多く、情シスはこじんまりした組織で、一人情シスに近い会社も多い。基本的にSaaS中心、クラウドネイティブで旬なソリューションを選択。社内ユーザーが基本エンジニアなので、高い要求が全般的に求められる一方でスタートアップらしさとして意外と業務系が貧弱で、社内のあちこちでExcelが活躍していたりするが、それらをRPAという腕力で自動化したり、とにかくやっていることが斬新で他の業界から見ても参考になる。威張ってる人がいない。腰が低く、いい人が多い。
【CTO】エンジニアコミュニティの頂点に立ち、企業カルチャーのオーナーであり、組織に規律をもたらすロールモデルの役割を持つ。CEO(創業経営者)がCTOを兼務する場合も多く、会社が大きくなるにつれ経営(CEO)をヘッドハントしたプロ経営者に任せて自分はCTOに専念するようなケースも。要は、CTOはめちゃくちゃカッコいい職業なのだ。パーカー着用率が高く、Tシャツで社会にメッセージを語るタイプ。周囲がスーツを着るようなシチュエーションでも、同調は一切しない。もう一度言う。CTOはめちゃくちゃカッコいい職業なのだ。

流通業

【CDO】伝統的にモノを扱うレイヤーの人たちの勢力が強く、バーチャル空間でコトを扱い、コトと現実のモノを繋ぐ役割として新たに創設されるケースが多い。主にマーケティング担当のCMOを補完し、CMOと協働するポジションという色合いが強い。流通業特有の事情として、検索エンジンやショッピングモール内でいかに上位表示されるかで商売に大きな差が出るため、これまでの伝統的なCMOの領域で扱えないデジタル対策をCDOが担うケースも増えている。ネットでの販売を3倍にするような敏腕CDOがいるが、この人たちはCDMO(Chief Digital Marketing Officer)と呼んだ方がスッキリする。先程述べたデジタルツインのオーナーとしてのCDOロールの人は少ない。流通業のCDOの大半はCDMOにした方がスッキリする、これが結論。
【CIO】伝統的にバックオフィス中心のまったりとした組織であったが、〇〇ペイといった決済システムの多様化、リアル店舗販売以外のネット販売の拡大とそれに伴う優れたUI/UXを持つシステムへの要求、無人店舗に向けた認証システム・新たなPOSシステム・高度なセキュリティシステム、店舗販売用とネット販売用で異なるハンドリングとそれらを統合管理する必要がある複雑化した在庫管理・倉庫管理・物流管理システム、と挙げればキリがないぐらい流通業の情シス部門はやることてんこ盛り。CIOとしてもっとも面白いのは流通業だと思う。そしてイケてるCIOが多いのは流通業だ。本来的な意味でのDXを実現する仕事をCIOがやっているケースもあり、CIOがCDOロールを担えるし担うべきだと思う。流通業のCIOがCIOとして一番活躍できる業界だ。
【CTO】そもそもの出発点がモノを作らずモノを販売するローテク業界だったこともありCTOのいる会社はほとんどない。一方で広範囲な最新テクノロジーへの知見が必要となるため、採用するテクノロジーの選択やアーキテクチャーを専門に行うCTOを置く会社もあるが、イケてるCIOがいる会社ではこの役割をCIOが担うケースも多い。とはいえ、イケてるCIOとしては自分が採用する形でCTOを雇いたいのが本音である。

製造業

【CDO】DXのリード役として、CDOがもっとも活躍するのが製造業。ソフトウェアが全てを飲み込む世界を理解しない機械工学系CTOとERPにしか興味のない守りのIT専門のCIOでは一向に進まないDX推進を一手に担う。製品のデジタル化に向けてモノづくりの革新に首を突っ込む一方で、販売後のサービスといえば、これまで保証・返品・修理であったが、製品を通じて顧客と常に繋がり続ける世界を作り、利用実態のデータによる可視化と製品サービスの継続的機能向上が行える組織と仕組づくりも担う。R&Dとサービスという繋がりのなかった社内部門の橋渡し役でもある。社外からヘッドハンティングでヘビーウェイト級な大物CDOを招聘するケースが多いのは、製造業の既存組織は山のように動かないからだ。製造業のCDOを語るときには、CDOが何をするかよりも、その会社が何故CDOを必要とするかに着目する必要がある。そしてCDOの仕事内容も企業によって全く異なる。製造業のCDOは一言では語れないのだ。そしてそれぞれの企業が何故CDOが必要なのかという理由に、日本の製造業が何故駄目になったのかが写し鏡のようにしかも凝縮して現れる。ヘッドハンティングで舞い降りた敏腕CDOは、何故日本の製造業がダメになったのかのリアルを肌で感じる事になるだろう。CDOによって会社が再興するかどうかは、経営者の本気度にかかっている。多くの場合はキラキラしたテクノロジーを使いながら、従来型の改善レベルのアウトプットに終わるケースが大半だと予想。
【CTO】メーカーではCTOが機械系か電気系出身者で占められており、伝統的に製品開発部門におけるソフトウェアエンジニアの地位は低い。メカ>エレキ>ソフトのヒエラルキーが、士農工商になぞらえて自嘲気味に語られる。マイコンの小さなメモリー空間で、地味な仕事をこなす彼らは、クラウド化する世界を夢見る事もなく、すべてを小さな基板の上で完結しようとする。ネット系事業と製造業の最大の違いはこのCTOにある。よくCIOがイケてないのでCDOが必要、という議論を目にするが、私の目から見るとCTOがイケてないのでCDOが必要だ。まあ、これは製造業CIOである私のポジショントークになっているのでフェアーに申し上げると、CIOもCTOもどちらもイケてないのでCDOが孤軍奮闘しているのが実態。ソフトウェア的文脈でハードウェアを俯瞰できるCTOの登場が待ち望まれるが、すでに社内に連綿と構築されたメカ>エレキ>ソフトの階級制度が岩盤規制となっているのでCDOという外様によってこのヒエラルキーに風穴を開けたい、という狙いで招聘されるケースも。CTOがCDOをリスペクトし社内抵抗勢力からの庇護者として振る舞い、CIOがCDOの足を引っ張らずCDOを後方支援出来れば会社はうまく回る。ただ多くの場合実態はこのようにならない。メカ系CTOにとってソフト屋は敵なのだ。
【CIO】大半のCIOはDXの抵抗勢力になっている。パブリッククラウドは禁止、GAFAへの接続は遮断、働き方改革でパソコンは時間がくれば自動シャットダウンとかそういう余計なことばかり熱心に取り組んでいる。多くの大企業の事業部門から見れば、情シス部門は事業の邪魔でもしたいのか、と疑いを持たれるほどであり不信感と断絶は根深い。CDOとの協業でお勧めしたいCIOの態度は「好きなようにCDOさん突っ走って!そして運用が面倒になったら情シス部門で全部引き取るから(にっこり)」という態度。情シス組織に残る最後の強みは、24時間365日でシステムを監視・運用する体制。CDOが突っ走って導入したシステムを「情シスのポリシーを無視して入れたもの、知らん!」と切り捨てるのではなく、「すべて最後は俺たちで面倒を見る」と覚悟を決めることで社内における立場は好転する。まずはこの腹括りから始めることを強く勧める。情シスの皆さん、よく考えて欲しい。少ない情シス予算とは別予算でCDOがIT化を推進してくれるのだ。いい話じゃないか。情シス部門としてはコーポレートエンジニアリングをしっかりやるべきだ。プロセスのエンジニアリングを部門横断で出来るのは情シス部門しかいない。その意味でテクノロジーに取り残された丸投げ情シスにも出来る事はある。コーディングは出来なくてもビジネスプロセスをエンジニアリングする仕事は、文系SEの得意領域だ。やれる事はたくさんあるのだ。

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