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可愛いおばあちゃんになりたい

あらあら、どうしたの?

立ち止まって声をかけてくれたのは、見ず知らずのおばあちゃんだった。いつの間にか現れて、ゆっくりゆっくり去っていったあのひと。

 よくある光景だった。休日の昼下がり、公園からの帰りにどちらがママと手をつなぐか、、なんて些細なことでケンカをはじめた長女と次女。普段なら至極光栄だわ〜なんて微笑ましく見ているところ、流石に30分もあーだこーだと揉めている様子にこちらもげんなり。それにケンカと言っても5歳も離れている二人、どうしたって長女の方が強くて一方的に見えてしまう。お姉ちゃんなんだから、と言ってはいけないとぐっと言葉をこらえてみても気づくとつい厳しい口調で、そんなことでいつまでも揉めないでよ、と言い放ってしまってそんな自分にまたげんなりする。

わんわん泣き出す次女に頑なな様子を崩さない長女。さてこの問題の解決の糸口を見つけるにはどうしたものか、、家まで5分の場所で途方に暮れていた、そのとき。

道の向こうから現れたおばあちゃんがとっても自然に、話しかけてくれたんだった。

あらあら、どうしたの?ベビーカーを押そうとしてあげているの?えらいわね、おねえちゃん。優しいのね。

突然話しかけられたことにびっくりしたのもあっただろうけれど、やんわりした口調に顔が強張っていた長女がコクン、とうなづく。こちらとしは、え、ママと手をつなぐ話じゃなかったんだ…!と小さな衝撃を受けつつもおばあちゃんの柔らかい声に全員が、聞き入る。

おいくつ?背が、高いのねぇ。いいわねぇ。

次女もいつの間にか泣き止み、おばあちゃんの声にじっと耳を傾けている。

妹さん?あら可愛いのねぇ。大丈夫よ、これだけしっかりしているお姉さんだもの。ベビーカー、押してもらったらいいじゃない?

長女の顔に、ゆっくりと笑みが戻る。可愛い妹なの、仲良しなんだよねーといつの間にか会話が始まっている。2人ともママの手を取り合っていたことはすっかり忘れて(そもそも問題の認識が間違っていたのかもしれないけれど…)おばあちゃんの笑顔に見入っている。

家族そろっておさんぽね。幸せなことよ。お天気もいいし楽しんでね。

にっこり笑うと小さく手を振って、そのひとはまた、ゆっくりゆっくり道の向こうへ歩いていく。首に巻いていた鮮やかなブルーのスカーフが綺麗。5分前までその場を覆っていたぴん、とした緊張感はすっかりなくなり、おばあちゃんの残した柔らかな空気だけが漂う。

 すっかり気分を入れ替えた子供たちは「おさんぽ、もうちょっとしよう〜」とご機嫌。「そうだね」と答えながらすこしずつ遠のくおばあちゃんの背中に向かって小さく「ありがとうございます」とつぶやく。目の前のことにいっぱいいっぱいだった私には、絶対に出せないあの’間’、あの’空気’。なんて素敵だったんだろうと、改めて思いながら。

 わたしも、あんな風に他人にそっと寄り添って空気を柔らかくできるようなおばあちゃんに、なりたいなぁ。ブルーのスカーフ、すごく素敵だった。道のりは遠いけれど、少しずつ少しずつあんな空気を纏っていきたい。新しくできた目標に少しだけワクワクしながら、また一歩を踏み出す。

もう少しだけお散歩をしてお家へ帰ろう。ゆっくりと、ゆっくりと。

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