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10年経っても忘れられない、スタッフの意外な言葉

接客中のふとした一言が、ずっと心に残ることがあります。

10年ほど前、とあるキッチン用品店の接客調査をしていました。雑貨店に近いイメージの、セルフでお買い物をする店舗です。

私は「 キャベツの千切りスライサー」が数種類置かれた売場で、近くにいたスタッフさんに尋ねました。

「こういうの使ったことがないんですが、ちゃんと千切りになりますか?」

「はい、なりますよ〜!ただ、、キャベツを選ぶといいますか…」

「 キャベツを、、選ぶ!?」

「 そうなんですよ〜」

そして、スタッフさんは、巻きが固いキャベツだと上手に切れること、春キャベツのように巻きがゆるいと刃に引っ掛かってしまうことなどを、詳しく説明してくれました。

この時に買ったスライサーは未だ現役。
千切りキャベツを作る日は、スーパーで「あのスタッフさんが『キャベツを選ぶ』って言ってたな」と思いながら、巻きの固いキャベツを探しています。

PRでもなんでもないのですが、これ、本当に便利です。


なぜこんなにも「キャベツを選ぶ」の一言が印象的だったのか。
ポイントは2つあります。

実体験を、端的に伝えている

この一言には、実は多くの情報が隠されています。

・スタッフ自身も使ったことがある
・複数回使って、成功体験/失敗体験がある
 ・基本的にはきちんと千切りができる
 ・しかし、うまくできないケースもあった
  →→商品の機能や使う人の問題ではなく「キャベツ要因」だったと分析

この体験と分析があるからこそ、とっさに実感のこもった一言が出てきたのだと思います。

事実の伝え方(主語の切り替え)が巧み!

この場合の「~を選ぶ」という表現、日常で使う機会はあまり多くないと思います。ひらたく言えば「ものによる」という意味。この場合は「キャベツの個体差による」というニュアンスです。

うまくできたりできなかったりする場合、一般的にはこういう言い方になりがちです。

「キャベツの状態によっては上手に切れないことがあって…」
「絶対にうまく切れる、というわけではないのですが…」

→→つまり「このスライサーは、巻きがゆるいキャベツを、上手に切れないことがある」という回答です。
主語が「スライサー」なので「スライサーの力不足」というニュアンスになります。


一方「キャベツを選ぶ」の場合、意味はこうなります。
→→「巻きがゆるいキャベツは、このスライサーでも上手に切れない」

つまり、上手に切れないのは「キャベツのせい!」なのです。そう言われると「なるほど、じゃあこのスライサーには何の問題もないので、私が最適なキャベツを選べばいいのだな」と、つい納得してしまうのではないでしょうか。(少なくとも、私はそう思いました)


このエピソードは、ただ「とても印象的な一言」として記憶していたのですが、今回あらためて分析したら、スタッフのスキルの賜物だったことがよくわかりました。

「自らの体験・ストーリーを持っておく」「伝え方の主体を変えてみる」。あらゆる接客の場面で応用できそうな内容です。

私たちは、知らず知らずのうちに、このような接客エキスパートの方から、日常のちょっとした喜びを受け取っているのかもしれません。

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