うたスト小説〜曲Z

「珈琲とケーキ」

女性は夕暮れの街中を歩いていた。
仕事終わりの帰宅途中だ。
女性は真奈というOL。
今日は、可もなく不可もないといった一日だった。

「あれ?
ここにカフェなんてあったかな?」

真奈は立ち止まると、カフェの看板を覗き込んだ。
いつも歩いている道なのだが、
そんな店は見覚えがなかった。
看板には「こだわり珈琲とケーキの店:コーネ」と書いてあった。

「へぇ、新しいお店かも。
ちょっと休んでいこうかな」

真奈は、カフェの扉を開けた。

カランカラン〜・・

ドアのベルが軽快な音を立てる。

「いらっしゃいませ。
お待ちしておりました」
店のカウンターからマスターが声をかけた。

「えっ?」
真奈は驚いた。
カウンターにいたのは猫だったからだ。
猫が服を来て、皿やカップを拭いている。

「ささ、どうぞ。
こちらのお席へ」
猫が席へと案内した。

真奈は暫く考えていたが、
きっと着ぐるみに違いないと思った。

「初めてのお客様ですね。
まずはこちらをどうぞ」
そう言うと猫のマスターは、
珈琲を差し出した。
いい香りがした。
真奈は恐る恐る飲んでみた。
家で飲むコーヒーと違って、
香ばしくしまった味だ。

美味しい・・

真奈は、その味にたちまち虜になり、
同時に安心感も覚えた。

「あの・・・。
あなたはいったい?」
真奈は不思議そうに猫のマスターに尋ねた。

「私ですか。
この通りカフェのマスターです。
ごゆっくりどうぞ」
猫のマスターは優しい口調で言った。

真奈は訳がわからないが、何となく面白いと思った。

「あなたのお好きなフルーツはなんですか?」
猫のマスターが尋ねる。

「えっ・・と、柑橘類系ですね」
真奈は答えた。

「わかりました。
少々お待ちください」
猫のマスターはそう言うと店のキッチンへ入った。

「こちらをどうぞ」
少し時間が経った頃、
猫のマスターは、ケーキを持ってきた。
オレンジや檸檬が乗っているケーキだ。
可愛い皿に盛り付けてあり、
周りにはカラフルなソースが模様を描いていた。

「わっ、美味しそう。
いただきます」
真奈はケーキを口に運ぶ。
優しい柑橘類のパッションが口いっぱいに広がった。

「とても美味しいです。
今まで食べたことないケーキ」
真奈は、あまりの美味しさに顔がほころんだ。

「ありがとうございます」
猫のマスターは穏やかに言った。

その時だった。

カランカラン〜・・・

ベルが鳴ると扉が開く。
1人の男性が入ってきた。

「いらっしゃいませ。
どうぞこちらのお席へ」
猫のマスターが男性を席へ案内した。
どういうわけか、真奈の隣だ。

「お隣よろしいですか?
すみません」
男性は少し微笑みを浮かべながら言った。
真奈は不思議とその男性に抵抗はなかった。

「あ・・はい、どうぞ。
このお店の珈琲すごく美味しいですよ」
真奈は笑顔で男性に言った。

「そうらしいですね。
今日楽しみにしていました」
男性は少年のような眼差しで微笑んだ。

「どうぞ、こちら珈琲とケーキになります」
猫のマスターは男性に差し出す。
さっきと同じ珈琲の香りが漂った。
ケーキにはラズベリーが乗っている。

男性は珈琲を口にしてからケーキを食べた。

「本当、美味しいですね。
何だか和みます」
男性はそう言うとホッとした表情をした。

真奈は何だか男性が気になって、色々と話をした。
男性も仕事帰りらしい。
初対面なのに、愚痴まで聞いてくれた。
男性は優しく頷き、時折自分の話を少しした。
好きな食べ物やドリンク、デザイン・・。
男性は魅力的だった。

真奈は男性にまた会いたいと思った。

二人が帰った後、猫のマスターがカップを拭いていると、
キッチンから女性が出てきた。

「お二人どうでしたか?
仲良くなったみたいですね」
女性が微笑みを浮かべて猫のマスターに言った。

「はい、とても楽しそうでしたよ。
それに珈琲もケーキも堪能していただきました」
猫のマスターは満足げだった。

「それは、良かったです。
二人はこれからも共に歩いていけるでしょう」
女性は嬉しそうだった。

「大天使ラファエル様、あなたにはいつも感謝しています。
美味しいケーキを作っていただき、さらにはお客様のキューピッドまで」
猫のマスターはラファエルに頭を下げた。

「良いのですよ。
それが私達天使の務めですから。
さあ、今日はあの二人を祝福しましょう。
光あらんことを」
ラファエルは微笑んだ。

「そうですね。
二人に光あれ」
猫のマスターは微笑んだ。

カフェには、賛美歌が流れた。