うたスト小説〜曲I
「竜の空」
ここは新宿の繁華街神谷町。
昼間はビジネス街の表情だが、
夜はどこからともなく人が集まり、
各々が好きな店へと足を運ぶ。
街の一角にある店があった。
そこは、少しキレイな女性がおもてなしをしてくれる、
いわゆるキャバクラだ。
「竜さん、今日も来てくれてうれしい。
いつもありがとう。
今日はサービスするよ」
女性が楽しそうに男性客に話していた。
「いえいえ、こちらこそ。
あの・・サービスってアフターとかですか?」
男性が恥ずかしそうに尋ねた。
いつも来ている客だ。
男性は桐島竜。
いつも仕事終わりに店に寄っている。
とても温和な性格だ。
「う〜ん・・そうしてもいいけど、
シャンパンイッキ飲みとかできたら」
女性は意地悪そうに笑った。
女性の名前はナオ。
とても美しく、表情が豊かだ。
この店でもナンバーワンの指名を獲っている。
桐島のお気に入りだ。
「シャンパンですか?
じゃあ、チャレンジみようかな」
桐島ははにかんだ笑顔を見せた。
店内にジャズが流れ、緩やかな時間が過ぎている時だった。
突然ドアが大きな音をたてて開くと、
柄の悪そうな男3人組が入ってきた。
「おーい!
店長いるかーー!」
3人組の1人が大声を出した。
「はは・・はい何でしょう?」
店長が怯えた様子で対応した。
「お前んとこ、上納金どうなってんや?
いつになったら払うねん?」
男が店長に凄みをきかせて言った。
ウイスキーを飲んでいた桐島は男の方を見た。
「桐島さん、見たらダメ!
この辺りで有名な人だから」
ナオは桐島の肩に手を添えて言った。
桐島は少し目を伏せる。
「お前、1週間前払うゆうたやろ?
ああ?」
男は店長を睨みつけた。
「そ、それでしたら、もう少し待って下さい・・。
うちの店も少し景気が悪いもので・・」
店長は頭を下げながら言った。
「そんなん、関係あるか!
おう、やれや!」
男は後ろの二人を促した。
二人の男は次々に店のモノを壊し始めた。
陶器やガラスが割れる音、
テーブルや椅子がひっくり返る音が店内にこだました。
ナオはその光景を見て泣きそうだ。
桐島はグラスをそっとテーブルに置いた。
「あの、静かにしていただけませんか?
好きな女性と飲むお酒がまずくなります」
霧島はスッと立ち上がると3人組に言った。
「ちょ・・ちょっと桐島さん!」
ナオは慌てて桐島の手を掴んだ。
暴れていた3人組が桐島を見る。
「なんや?
優男やんけ。
好きな女性がどうとか何様や?
おう、ちょっとシメてこいや」
男が言うと、二人の男は桐島に殴りかかろうとした。
「桐島さん!危ない!」
ナオは桐島をかばうようにして前へ出てきた。
殴ろうとしていた男の拳が当り、
ナオはテーブルと一緒に倒れた。
桐島は二人の男達をキッと睨んだ。
「てめえら、いい加減にしろよ」
そう言うと、回し蹴り一閃。
二人の男は吹っ飛んで気絶した。
「あん?なんやお前?
いい度胸しとるやんけコラ」
そう言って、男は殴りかかってきた。
桐島は男の顔面に一撃拳をお見舞いすると、
膝蹴りで男を地面に伏せさせた。
桐島は男の顔を踏みつけた。
「今後この店に迷惑をかけないと誓え。
できなかったら、わかってるだろうな?」
桐島は男を睨みつけた。
3人組は尻尾を巻いて逃げていった。
暫くして店が落ち着いた頃。
「先程はありがとうございます。
こちら、お礼といっては何ですがご賞味ください」
店長が桐島にシャンパンを手渡した。
「いえ、お礼だんなんて、困った時はお互い様ですから」
桐島がはにかんだ笑顔で言った。
「桐島さん、チャレンジしてみます?
コールしますから」
ナオは魅惑の微笑みでお願いした。
「じゃあ、シャンパン一気やってみます!
応援お願いします」
桐島は満面の笑顔で言った。
店内の女性が集まってきた。
手拍子と一緒にコールが始まる。
♪竜ちゃんの格好いいとこ魅せてよね
♪ここでやらなきゃ誰がやる
♪テンションアゲアゲGOGOGO!
桐島は一気に飲み干して笑った。
女性からの拍手と歓声。
桐島は得意げにナオを見た。
「素敵ですね。
この後どうしようかな〜?」
ナオは桐島の手を握りながら言った。
桐島は照れくさそうだった。
店内のジャズは上品にアドリブを奏でていた。