うたスト小説〜曲J

「まだ君を知らない」

ここは、サンドイッチを販売する店内。
店の名前は「Every Day」。
コッペパンに具材を挟むサンドイッチは、
若者からお年寄りまで幅広い支持を得ている。

今日もある男性が店内でサンドイッチを食べていた。
男性の名前はタカシ。
22歳の若者だ。
タカシはこの店のサンドイッチが好きで、
1日おきに食べに来ている。
そして、いつも同じメニューを頼むのだ。

タカシには、サンドイッチ以外にも気になることがあった。
それは、タカシが店に行く日、いつもバイトしている女性のことだ。
女性は、美しく絵に描いたような笑顔を見せる。
年齢は25歳くらいだろう。
女性は、仕事で笑顔を見せているだけだと思うが、
タカシには新鮮だった。

今日に限ってタカシは緊張していた。
何故なら思い切って話かけてみようとしていたからだ。
いつもの好きなサンドイッチも喉を通らない。

まず自己紹介して名前教えてもらおうかな・・。
タカシは、あれこれ考えていた。
考えただけで恥ずかしくなってしまう。
思えば、10代の頃も照れ屋で女性と話せなかった。

そんな時だった。

「おいおい、姉ちゃん。
ピクルス抜いてって言ったやんけ。
話聞いとったんか?」

柄の悪そうな男が女性に向かって怒鳴っていた。

「すいません、作り直します」
女性が頭を下げた。

「姉ちゃんのミスや。
新しいサンドイッチ、タダでよこしてや。
おまけにポテトも付けてくれんと、
暴れるで」
男が怯える女性に言った。

何だあれ・・?
ああいうの腹立つな・・。
タカシは席から立ち上がって男に向かって歩いた。

「おい、店内で騒ぐな」
ちょっとキツい言い方だったかな・・。
タカシは不安になりながら男に言った。

「あっ?
てめぇ誰に言ってんだよ?」
男はタカシを睨んだ。

「やめろ。
店に迷惑だろ」
タカシも男を睨んだ。
いや・・何でそんなに言うんだ・・。
怖い思いとは裏腹な言動をする自分に困惑した。

「てめぇふざけんなよ?」
男はそう言ってタカシの胸ぐらを掴むと、
タカシを殴った。
タカシはもんどり打って倒れてしまった。

「いたた・・・」
タカシは腰をさすりながら起き上がる。

「お客様大丈夫ですか!」
店員の女性が心配そうにタカシに駆け寄った。

「こらー!お前、何やってんだ!」
騒ぎを聞きつけた警官が男を連れて行く。
男は仏頂面だった。

「あの・・大丈夫ですか?
お怪我は?」
女性がタカシに話かけた。

「あっ・・いえ・・。
大丈夫です」
タカシは苦笑いをした。

「先程はありがとうございました。
本当に。
助かりました」
女性は微笑んだ。

「いえ・・あの・・。
このお店のサンドイッチ美味しいですよね」
タカシは照れながら言った。

「はい、ありがとうございます。
当店は多くのお客様にご好評いただいてます」
女性は満面の笑みだった。

「いつもあなたに素敵な笑顔で対応していただいて・・。
気がつくと、いつも来るようになりました」
タカシは顔が真っ赤になった。

「ありがとうございます。
お礼にサービスしますね」
そう言うと、女性は奥からコーヒーを持ってきた。
女性がカウンターにコーヒーを置く。

「いただきます。
また、お店に来ますから」
タカシは言った。

「はい、お待ちしております。
何かありましたら、ご遠慮なくどうぞ」
女性はそう言うと、トレーに名刺を置いた。
タカシは名刺を見た。
女性の名前はミオというらしい。

「いいお友達になれそうですね」
タカシは言った。

「はい、そうですね」
ミオも笑顔で応えた。

タカシはコーヒーを飲んだ後、
店を出た。
心なしかタカシの足取りは軽い。

「新しいデータ保存しておかないと」
タカシはそう言うと、こめかみ辺りにあるボタンを押した。

ここは、ヴァーチャルな世界「MeetWorld」。
人々が人間の身体を捨て、
データの中で生きるようになってからもう100年になろうとしている。