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CLARINSのリップ

(イラストお借りしました、ありがとうございます🙏)

高校生の頃、パオパオチャンネルが大好きだった。二人の他愛もない話で自分も大笑いしたり、踊ってみたがアップされたら何度も見返して振り付けを覚えた。あーずーのフワッとした可愛さに憧れて、こんな人になりたいなってずっと思っていた。

その日あがったあーずーのメイク動画は、今までのものとは雰囲気が違っていて。アフレコの声と言葉選びから、ひとつひとつのコスメが、大切に選ばれたものだと分かる。まぶたがほんのり色づいて、ハイライトがのって、少しずつ、確実に可愛さを増していくナチュラルなメイクに、目が離せなかった。
中でも本当にかわいかったのが、CLARINSのリップ。ほんのり、でもぱっと色づいていて、ちゅるんと艶がある。私もこのリップを選んでみたいな、と思った。

アルバイトもしていなかった私には、そのリップも、他のコスメも手が届かなくて。高校を卒業したあとは、履修登録にサークル、アルバイト、就活、学生団体、ボランティア。たくさんのことに追われて、でもどれもしっくりこなくて、気づいたら自分の見た目なんて二の次になっていた。

前よりお金もできたけど、CLARINSはなんとなくネットで買いたくなくて、でもデパートのあのキラキラした空間にある店舗にいく勇気はなくて、ドラッグストアで買ったリップをつけたりつけなかったり。

そうやって3年近くが過ぎた。
好きな人ができて、自分にとって大切なこと、必要なものがわかり始めた。
なんとなく「やらなきゃ」でしていたことから撤退すると、自然と高校生の頃の自分と向き合う時間が増えた。

着心地のいい、好きな服を着たい。
お気に入りのものに囲まれたい。
少ないけど、大好きな友達と会いたい。
ものづくりがしたい。
本を読みたい。
こうするべき、じゃなくて、思いついたことをしたい。

残ったのはシンプルなことばかりで、でも数年間、ずっとおざなりにしてきていた。
新しい場所へいくことを決めて、でもその前に、地元のデパートにある店舗でCLARINSのリップを買おうと思った。

店員さんは親切にリップコンフォートオイルを何色か勧めてくれて、ひとつずつ試した。こういうところに来るのも、少し前の自分には想像できなかったこと。コートもトップスもバッグも、最近新しくした大切なお気に入り。
これが似合っていたと思います、と言われたストロベリー色を買った。5年以上のほんのりした夢が、一番いいタイミング、いい場所で叶った。きっと見るたび、つけるたびに、背中を少し押してくれる。

今日は本当にいい日だった。


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