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虹色ドリーミング(第35回)

#創作大賞2024
#お仕事小説部門

【水色 ミオタン】

『天野澪@ニジドリ水色リーダー、コラム連載中読んでね
今年の目標は本を読むことです。っていっても何から読んでいいか分からないから、おすすめがあったら教えてね』

 有名な週刊誌で、毎週1ページのコラムを連載することになった。嬉しいけれど、私が好きなものってネトフリの韓流ドラマとインド映画ぐらいだから、ネタを集めるのに本を読んだり、色んなことを体験しようと思った。
「以上、私たち虹色ドリーミングでした、ありがとうございました」
 さあ、今日のチェキ会もたくさん並んでくれるといいな。ミオタンメンはお話が面白いからとても刺激になる。
 今日も鍵開けはあの人。みんなライブ後にゆっくりドリンクを飲んでから列に並ぶんだけど、あの人やカカシはライブ前に飲んでるって前に言ってた。お気に入りはレッドブルウオッカらしい。すごく高まるらしいけど、私はまだ飲んだことがない。
「ニジドリ、チェキ会始めます、よろしくお願いします」
 ドリーマーだけじゃなく、他所のファンもみんな拍手してくれる。これアイドルライブのマナー。
 あ。ニジドリ券三枚持ってる。同時?いや一枚だからループか。
 あの人はポーズをいつも私に任せる。今日はハートにしようかな?以前に、他の人とハートをやってたら「嫉妬する」ってかわいいことを言ってた。
「ハートでいい?」
「うん、じゃあ大きいハートにしよう」
 指ハートが小さいハート、あと普通のハートと、大きいハートがある。4人だともっと大きなハートもできるけど。二人でウルトラマンの光線のようなポーズをして、下は角度、上は丸みをつけたら、ほら大きいハートに囲まれた二人の出来上がり。
「今日はね、三つ編みを巻いてみたの、どう?」 「うん、スターウォーズのレイア姫みたいでかわいい」
「レイアヒメ?この髪型好き?」
 私は会話の中でできるだけ「好き」って言ってもらいたいタイプ。だって言われたら嬉しいんだもん。でも時々やり過ぎて『好き好き合戦』になることもあるけど。
「うん、好き」
 やった。たまに『すち』とか『すこ』とかで誤魔化すけど、今日は無事に『好き』ちょうだいしました。
「これおすすめの本。付箋が貼ってあるから番号順に読んでみて」
「うん、ありがと」
「あと……『たぶん』『しばらく』会いに来られないと思う」
「えっ……どのくらい?」
 ピピピピ……
「詳しくは本読んでみて、今日はあと二回ループするから」
「ミオタンお渡しでーす」
「うん」
 しばらくってどれくらいなんだろう。二日に一回とか三日に一回だったらやだな。今までほぼ毎日会ってたのに。
 二周目のチェキは、実際には手を繋げないから、手を繋いでいるように見える感じで、デート風のポーズ。
「今日イチ盛れたかも」
「うん、盛れてなくてもかわいいけどね」
「イーグル、しばらくってどれくらい?」
「んー、もしかしたら一年とか二年とかかなぁ」
 えーーーー?そんなぁぴえん。
 三周目はハグする手前のポーズ。たまにやるんだけど、見つめあっちゃうとちょっと照れちゃう。実は前のバレンタインデーのポッキーあーんチェキの時に、あの人の唇にちょっとだけ触れてみたことがある。
「じゃあね」
「うん」
「またね」
「うん」
 ピピピピ……
「ミオタンお渡しでーす」
「好き」
 珍しくあの人の方から言ってくれた。
「うん、私も好き」
 こっそりハイタッチしてお別れ。元気でいてね。必ず帰ってきてね。言い足りない言葉を手のひらにのせる。

 帰宅してメイクを落として部屋着に着替えたら、いつもはドラマを観るんだけど、今日はあの人がくれた本を読もう。袋に入っていた文庫本は全部で五冊。番号順って言ってたから1番から。 ……………………。
 なるほど。女の子が行方不明になって、次々と事件が起きるお話。ミステリー?この作家さんの文章って読みやすくて、スラスラ頭に入ってくる。
 あっ!私と同じ名前の子が出てきた。
 結局三日かかって読み終わった。意外な展開で面白かった。
 次は2番。2番から4番は似たようなタイトルだから、シリーズ物かな?1番と同じ作家さん。あの人がお気に入りの作家さんなのかな?
 内容は剣道少女が出てくるアオハル物。この主人公二人ってアオイ様と有希ちゃんって感じ。こうやってイメージすると楽しい。あっ!ちょっとだけど、また私と同じ名前の子が出てきた。
 面白くて一気読みしちゃった。これは続きが楽しみ。
 なるほど。タイトル通り次の学年になって……あっ!私も同じ学校に入ってたくさんしゃべってる。新しいライバルの美少女はカレンのイメージ。有希ちゃんとカレンの夜の決闘シーンが意外だった。  次は私が反抗期?どうしちゃったの私。あっ!そうか。そういうことだったんだ。えらいぞ私。がんばれ私。そして全国大会のアオイ様と有希ちゃんの決戦。アオイ様とカレンの決戦。そうか、本を読むって自分の頭の中にドラマや映画を作って観るのと同じ感じなんだ。そうすると文章に書かれてない人物の表情とか気持ちも伝わってくるし、台詞をしゃべっている声も聴こえてくる感じ。これが本を読む楽しさなんだ。
 5番は有名な作家さん。主人公は男の人。ちょっと難しい表現とかおしゃれな台詞が出てくる。この男の人の半生記みたいな感じなのかな。
 あっ!この女の人の台詞。あの人が言ったのといっしょ。『たぶん』と『しばらく』。二人はどうなるの?

 そうか。分かった。
 あの人は私にまず本を読む練習をさせたんだ。登場人物に感情移入しやすいように、私と同じ名前の子が出てくる読みやすい本を選んで、物語を映像でとらえられる練習をさせたんだ。
 あの人が本当に言いたかったことが書かれているのは最後のこの本。
 主人公の男の人が私で、ヒロインの女の人があの人。私がお店で、あの人がお客さん。私はあの人に対して来店を強要できないし、あの人が来るのを待つしかない。そんな関係でも二人は心の中では強く求め合っている。私も。私もこの主人公と同じ。そしてあの人も全てを捨ててもいいくらい思ってくれている。
 あの人が行ったのが国境の南だとしたら、あの人は必ず戻ってくる。
 でももし太陽の西だったら。

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