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虹色ドリーミング(第15回)

#創作大賞2024
#お仕事小説部門

【高梨敬太郎】
  やっとここまで来ることができた。SMILESの時からだから5年か。
  きっかけはアオイのイメチェンだったかもしれない。あそこからテレビ、新曲、そして女性客やツーステ勢の新規が来てくれるようになった。異なる層も集めないと頭打ちになる世界だから。
  カカシくんが
「ニジドリは7人、7色の虹で完全体」というのは、ある意味で合っている。しかしこの虹はまだ完全体ではない。まだまだこれからもっと彩やかになっていくはずだ。
  一人一人、一色一色が濃くなっていけば、虹もまたくっきりと光り出す。
  更に私は「この子がセンターだとこの色。この子だとこの色」ということをやってみたいと思っている。
  ニジドリの完全体は究極のアイドル。7種類のアイドルが一つになっている。王道系、ロック系などのジャンル分けから飛び出して、今までにないアイドル。小さい頃にやっていたレインボーマンのアイドル版とでも言えばいいだろうか。まだその一端しか見せられていないが。
  ドリーマーのおかげで、野外ライブを練習させてやれた。O-EASTでは大舞台。これで準備はできた。
  全てはこのためにあった。8月6日、そう思ってもらえることだろう。予定を空けておいてほしい。

【アオイ】
  7月4日、初めて立つ大舞台。
  対戦相手の七組は、どこも名前を聞いたことがあるグループばかり。勝ち残ることができるのはたったの一組。あたしたちは……いや考えても仕方がない。ただ全力でパフォーマンスするだけ。できることはそれだけ。
『次は虹色ドリーミングです』
  いつものように円陣を組む。ミオタンが言う。
「ニジドリ全力でいくよ!」
「おーーー!」
  ダンダンダンダン!
『ミョーホントゥスケ!化繊飛除去!ジャージャー!ファイボー!ワイパー!』
≪気づかれないようにいつも見つめてた 眼が合うと視線そらしてた≫
  カレニスト、最杏チーム、ユキちゃむズ、リナチーズ、ミオタンメン、ゆりぽん酢。下僕たち、そして親衛隊。ドリーマーのみんな。
今日はあたしたちに力を貸して!
≪シークレットラブ 伝えたい秘密の気持ち 本当は 本当は あなたが好き≫
『言いたいことがあるんだよ!』
『なになにー?』
  いいぞ。他のグループのオタクたちも、あたしたちのライブがいいと思ったら力を貸して。
≪さあ走り出そう 君となら行けるさ 虹の彼方へ≫
≪こんなに遠くへ来てしまった となりにいつも君の姿≫
『ユキちゃーーむ!』
≪モノクロの景色が君となら 虹色に変わるそんな魔法≫
『リナチーー!』
『オー!パンパン、オー!パンパン!……』
≪昨日までの風景はきらめく思い出 今日からはじまる新しい未来 羽ばたけ≫
「みんな歌ってーー!」
≪Get the journey ready 一歩歩く Show us the way きっと見える≫
「拳を上げてーー!」
≪高い(高い)≫
  O-EAST内の全員の拳が上がる。よし、みんなノッてる。
≪高い(高い) あの空を目指して さあ走り出そう 君となら行けるさ 虹の彼方へ≫
「おまえら全員今日は生きて帰れると思うなよ!」
『うおおおおおおおお』
  O-EASTが大きく揺れる。いいぞ!
「可変3連やれんのかああ!あああああさあ行くぞ!」
『人造ファイアファイボワイパー!タイガータイガータタタタタイガー!チャペアペカラキナチャペアペカラキナ ミョーホントゥスケ(パン)ワイパー!!ファイアファイア虎虎カラキナ チャペアペファーマー!海女海女ジャスパー!虎タイガー!虎タイガー!人造繊維イエッタイガー!』
≪燃やせこの命 叫べその魂 駆け抜けろ 駆け抜けろ 昨日を振り払え≫
≪煌めくこの希望 目指せその明日 駆け抜けろ 駆け抜けろ 未来へ突き進め≫
≪はばたけあの空へ 走れ我が心 駆け抜けろ 駆け抜けろ≫
  ヤバい、声が……。
『ひーー!』「ひーー!」
『びーー!』「びーー!」
『けーー!』「けーー!」
  ドリーマー!メンバーも!みんなありがとう!
≪ソウルスクリーーーーーーーーム≫
  今日ここで喉が潰れてもいい。全てを失ってもいい。全力で叫ぶんだ。
  この広さじゃ最後列や二階席に届かない。だから。綾香!お願い!力を貸して!
≪ソウルスクリーーーーーーーーーーーーーーーーム≫

  正直負けたとは思ってない。でも勝ってる自信もない。
  いつも対バンでいっしょになる8人組の『とりあえず女子』は、ステージを飛び降りて客席でパフォーマンスして、みんなで走り回っていた。
  動物モチーフの『アニマル武士道』は、コール合戦で誰が落ちサビを歌うかを決めるアドリブを入れて盛り上がってた。
  パレリーナみたいな衣装の『ガーデンプリンセス』は、シンクロナイズドスイミングや分身の術みたいにダンスがピッタリ揃っていた。
  ロックアイドルの『テロ-リズム』は出てくるだけで会場の温度が5℃上がって、終わった後の空気はサウナのようだった。
『アルカナアイドル』は全員とんでもなく歌が上手い上に、ユーロビート系の曲で盛り上がってた。
『アイロック』も『キレイ』も大迫力のステージだった。
  二階席から観ていたけど全部すごかった。どこが勝ってもおかしくない。
『集計結果が出ました』
  あたしは目を閉じて祈る。できれば……いや勝ちたい。
  瞼の裏に、綾香の笑顔が浮かんだ。
  綾香!そうか。ずっと。ずっとここにいてくれたんだ。
『優勝は…………』

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