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牛小屋の住人と恋愛小説

80年代、私は中学3年生でした。

ようこちゃんとは、同じテニス部で、帰り道が途中まで同じ。中学生になって初めて同じクラスになりました。
話すことが尽きなくて、分かれ道になると、余計に次から次へと話すことが出てきて止まりません。

分かれ道には牛小屋がありました。

牛がモ〜モ〜と鳴いていました。(ちなみに学校の給食の牛乳はここの牛さんのものです)。話していると、牛さん達のかぐわしい香りがしてきました。

あまりにも長く立ち話するので、数学の先生の帰宅時まで居てしまい、車でいつもクラクションをプッと鳴らされていました。
いつしかそれが2人の別れの合図になっていました。

さて、数学の時間。先生はニヤニヤしながら
「ここの問題を答えてもらうのは…牛小屋の住人」

そういうと、クラスみんなが笑いながら私たちを見ました。牛小屋の住人というと私たちのことです。
そう言われると、2人は席を立ちました。

先生「お前たちは、まるでキンギョとフンだな。
 どっちがキンギョでどっちがフンなんだ?
 フンのほう、答えなさい」

お互い、キンギョがいい!と思っているので答えません。お互いを指さします。

先生「じゃ、キンギョのほう、答えなさい」
2人「ルート5です」

競うようにお互い素早く答えました。
たくさんの笑いがおきました。

小さい頃から手を挙げて発表することはドキドキしすぎてできませんでしたが、この時だけはそんなこと忘れていて、いかに素早く答えるかに専念しました。だってフンは嫌なんだもん。

そんなようこちゃんは、ある日、恋愛小説を書き始めたと言ってきました。

恋愛小説の主人公は私で、恋のお相手は担任の先生(理科のおじさん先生)。
担任は、テニス部の顧問&私の二年間連続担任だったので、それだけでようこちゃんは「これは何かあるわね、恋愛小説にすべきだわ!」と感じたそうです。
今思うとかわいいですが、だいぶ迷惑な話です。

ようこちゃんの執筆意欲は、主に担任の理科の授業中に湧くようで、いつも教科書を立ててコソコソ書いていました。
チラッと斜め後ろを見ると、先生の顔と私を交互に見て、ニヤニヤしながら書いているようでした。あ〜もぅし〜らない。

ある日、とうとう、ようこちゃんの横に先生が立っているのに気づかず、取り上げられてしまいました。
すぐ先生はその場で小説を読んでしまい、先生の顔が瞬く間に真っ赤っか。
「あとで2人とも職員室に来なさい」
なぜか私も共犯になり、呼ばれて一緒に叱られることになってしまいました。なんで〜?
先生はすごく取り乱していて、何か言う隙間もなくて私は何も言えませんでした。

職員室のゴミ箱には、捨てられたあの恋愛小説。
私は内容を知らないまま…せめて読んでからが良かったな〜なんて思いながらお説教を聞いていました。でも先生のあまりの取り乱し様に、ようこちゃんになんだか内容を聞くのが怖くなって、聞きませんでした。
ようこちゃんは「あれは理科の時間じゃないと書けない」と執筆を断念して残念そうでした。
(ちなみに担任との気まずさは数日で終わりました)

その後も、ようこちゃんとはずっと牛小屋前で尽きない話。
一体私たちは毎日何をそんなに話してたんだろう。平和な三年生の帰り道でした。
今日も数学の先生のクラクションがなります。

今日も私の思い出話にお付き合いいただきありがとうございました。


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