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グラフィティの聖地、ブリストルでバンクシーをめぐる

こんにちは、お久しぶりです、イケダトモミです。

昨年まで夫と娘を伴って、ブリストル大学に留学しており、ちょくちょくブリストルについてご紹介していきたいと思っていたのですが、その後の引越しのバタバタとコロナショックですっかりご無沙汰になってしまいました。

外出自粛が続きますが、ネットでは楽しい発信をしたいものだな、と思い、今日はおうちでブリストル観光気分になってもらうべく、ブリストルで見つけた名物グラフィティを紹介したいと思います!

そもそもグラフィティって?

まずはブリストル名物のグラフィティとはなんぞやについてお話ししたいと思います。

グラフィティは直訳すると落書き。
路地裏の塀とか、橋の下の壁とかで見かける、スプレーで書かれた文字のようなものです。
これがブリストル名物なんですけど、「え、なんで落書きが名物?」って感じがしますよね。

私自身、ブリストルに行く前は「グラフィティって落書きでしょ?」というような感じで、良いイメージはありませんでした。
渡英前、よく行く近所のお店のシャッターにキレイな絵が描かれていたのですが、上からスプレーでぐちゃぐちゃっと文字が書かれているのを目にして、「ひどいことするなあ」と、迷惑行為としか思っていなかったわけです。

でもブリストルのグラフィティ文化はどうもそういうものじゃないらしい。アートとして根付いているそうなのです。

大御所、バンクシーの作品をまずどうぞ

グラフィティに親しみがない方でも、有名な現代アーティスト、バンクシーの名前は聞いたことがあるという方が多いのではないかと思います。作品がオークションで約1億5000万円という高額で落札されたこともある、規格外のアーティストです。

バンクシーはブリストルの出身で、ブリストルでグラフィティアーティストとして活動していました。グラフィティが文化? アート?と思った方には、まずは今でもブリストルで見られるバンクシーの作品を見ていただきたいと思います。

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The Well Hung Lover

ブリストルに到着して私がまず紹介してもらったのが、こちらの"The Well Hung Lover"という作品。フロッグモア・ストリートにあり、当時ブルック・セクシャル・クリニックが入っていた建物に描かれたそうです。

絵の中の窓の形は建物の本物の窓にそっくり。中にいる男性はスーツだけど、女性は下着姿で、窓枠からぶら下がっている男性は全裸です。おそらく、不倫現場に踏み込まれて慌てて逃げ出したところなのでしょう。
性的医療機関の窓から逃げ出す、不倫がバレそうな男性。なんとも皮肉でユーモラス。

ちなみにこれ、立地的には市庁舎の目と鼻の先で、人が行き交う大きな通りからはっきり見えます。場所選びもなかなか挑発的です。

これもグラフィティなので、もちろん犯罪。しかし、もしこれをみんなが気に入ってしまったらどうなるでしょう?

市議会は当然のごとく消そうとしたそうなのですが、オンライン投票の結果、なんと回答者の97パーセントが残すことを希望し、晴れてこの作品は「合法的」に残されることとなりました。

それ以来、少し汚されたりしつつも、ブリストル名物として愛されています。

権力と闘っていたのに、権力に守られるバンクシー

もともとバンクシーはブリストルのアンダーグラウンド文化を守るために、アートの力で警察批判を行うような人でした。

こちらの"The Mild Mild West"はその象徴のような作品。

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The Mild Mild West

1990年代のブリストルでは、当時たくさんあった空き倉庫のような場所で、無許可のパーティが盛んに行われていたそう。薬物とも関わりがあったようで、こうした集まりが徐々に警察から目をつけられるようになり、ついには武装した警察がパーティに乗り込むことになります。

これに抗議するために作成されたのが、この"The Mild Mild West"。市民の象徴だといわれているテディベアが、警察に火炎瓶を投げようとしています。

こんなふうに明らかに権力に反発していたバンクシーなのに、今では市議会が、この作品を保護しようと一生懸命になっています。ガラスを貼って保護する?なんて話も出ていたようです。

そして今ではブリストルの美術館に、バンクシー作品が保護・展示されています。

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The Grim Reaper

こちらの"The Grim Reaper"という作品は、もともとTheklaというブリストル・ハーバーに停泊していた船の側面に描かれたものでした。これを保護するために、現在では船から切り出され、ブリストルの郷土資料館のような施設、M Shedに展示されています。

そして、ブリストル・アート・ミュージアムにもバンクシーの作品が。

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Paint Pot Angel

こちらは2009年に同美術館で行われた、Banksy versus Bristol Museumという企画展に合わせて作成された彫刻です。天使の頭にペンキの缶がかぶせられているこの作品は、展覧会が終わってからも美術館のホールに残され、一種の観光名所にまでなっています。

優れた作品ならば、上書きしてもいい

こちらのバンクシーによる"The Girl with the Pierced Eardrum"は川辺にある建物の警報機をイヤリングに見立て、真珠の耳飾りの少女に似せたグラフィティアート。

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The Girl with the Pierced Eardrum

何の保護もされていないのに、ずっと残っています。グラフィティの世界では、上書きするのであれば、より優れた・手の込んだアートにしなければいけないという不文律があるそうです。確かに、これに上書きするのはかなりの覚悟がいりますね……。

と思ったら、これに先日驚きの上書きが。

マスク! マスクしてる!!
写真を見る限り、マスクはペイントではなく外れるようになっているのかもしれませんね。コロナの流行がおさまったら外れるのかしら...。

バンクシー本人の仕業なのかはまだわかりませんが、ブリストルの友人たちは「バンクシーがブリストルに帰ってきたのかも!」とひと盛り上がりしていました。
こんなふうに景観が変化していくところを楽しめるのも、ストリートアートの魅力の一つなのかもしれません。

それ、バンクシーなのに!うっかり上書き事件発生

滞在中にちょっとした事件が発生しました。

「あの店、オーナーが変わったんだけど、シャッターのグラフィティがバンクシーだって知らずに塗り直しちゃったらしいよ」とのこと。

そんなことある!?って感じですが、バンクシー作品といっても有名なものばかりでもないし、パッと見ただけではわからないものも多いと思われます。

現場に行って見たところ...

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おお、下半分キレイに塗られちゃってる。
何度も前を通りかかっていたところだったのですが、バンクシーだったなんて私も知りませんでした。

新しくお店を買ったオーナーは、お店のシャッターの落書きが有名なアーティストの作品だとは露知らず、リノベーションしようとシャッターの塗り替えを手配してしまったのだとか。半分ほど作業を終えたところで事実を知ったとのことで、こうして半分だけが塗り潰されたシャッターが残りました。

こんなふうにいろんなドラマが生まれるストリートアート。落書きかアートかという議論はつきません。でも、ブリストルのグラフィティ文化は、ただの落書きとはちょっと違うらしいぞ、ということは感じていただけたのではないかと思います。

夫がブリストルについて書いて小説家になったよ

夫をイギリス留学に連れていったら、夫が小説家になって帰国しました」という記事でも書いたのですが、私のイギリス留学に付き合ってもらうかたちで夫にイギリス・ブリストルに同伴してもらったら、夫がブリストルを舞台に小説を書いて電撃大賞に応募し、小説家になりました。嘘のような本当の話。

そんなわけで『オーバーライトーーブリストルのゴースト』発売中です!

たぶん、ブリストルを舞台にしてグラフィティを題材にした日本語の小説は初めてなんじゃないかしら。バンクシーの"The Mild Mild West"も登場する、グラフィティをテーマにした青春群像劇です。

よかったら手にとってみてくださいね! それでは、また近いうちに!

※本文中の写真は2018-2019に撮影したものです。現在の状況とは異なる可能性があります。

読んでくださってありがとうございます!