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『個人保証』の大きすぎるデメリット

前回の記事「企業の生産性とM&A」の続きです。

いきなり大きな話ですが、私は日本経済の新陳代謝を阻む最大の要因は、実は個人保証にあるのではないかと思っています。

これは多くの識者も以前から指摘していることですが、前出の竹中氏のYouTubeでも強調されていますね。

会社で銀行などから借り入れをしている人は、当然のようにこの個人保証をしていると思います。銀行も、当然のようにそれを求めてきます。

でも、それって日本独特の風習とも言われます。そして、法人格の最大の特徴であり、世界経済が飛躍するきっかけとなった「有限責任」という発明を、一瞬で有名無実化してしまうものです(動画の中で竹中氏は『個人保証は有限責任になってしまう』と言ってますが、これは明らかに無限責任の言い間違いです)。

実は、決して当たり前ではないし、軽く考えることでもないのです。

個人の場合は、住宅以外はあまり大した金額でもないし、それほど考える必要はないかもしれませんが、もし住宅ローンを35年とかの長期で借りるなら、ちょっと踏みとどまってもいいんじゃないでしょうか。

今後の収入、健康。そんな不確定なものを前提に、未来を担保に入れるわけです。健康は各種の保険がありますが、収入にそのようなリスクヘッジはあるでしょうか?今の会社が潰れてしまったときは、団信ではカバーしてくれません。

個人保証以前に、産業構造が大きく変わろうとしている今、長期ローンを組む勇気は自分にはありません。

と、個人の場合もいろいろありますが、それはさておき、問題は法人の借り入れです。

法人格の意味と”倒産”の種類

法人(法人格)とは、文字通り法における人格、つまり法律上の人として各種の権利や義務を有するというものです。この法人格を取得する意味とは、ウィキペディアから引用すると、以下の通りです。

1.法人の名で権利義務の主体となることが可能となる
2.民事訴訟の当事者能力が認められる
3.法人財産へ民事執行をする場合には法人を名宛人とすることが必要となる
4.構成員個人の債権者は法人の財産には追及できない
5.構成員個人の法人の債権者に対する有限責任などの点が考えられる

何やら小難しい。

要は、法律上、一個の人間として個人とは別に機能するということ(当たり前のようですが、会社と個人を区別できている人は本当に少ないのが実態です)。そして、構成員(株主)は有限責任である。この2つです。

意気揚々と会社を設立して、あるいは継承して、多くの場合、銀行などから借り入れを行います。当初は順調に返していても、長くやっているとどんなことが起きるかわかりません。特に社員が何人もいると、会社は変数だらけの生き物になります。そこの舵を取るところが経営の醍醐味であり、難しさでもあります。

結果、万策尽きて、何年か後に潰れたとします。別に珍しいことではありません。会社の生存確率は、10年後6.3%、20年後0.4%と言われます。周りを見てもそんな実感ないですか?みんなひっそり辞めているからです。それくらい厳しい生存確率の中で、皆さんは生きているのです。

そして、コロナ不況もあって、今ギリギリのところで踏みとどまっている会社がどれだけあるかを少し想像してみてください。そんな状況を社員に話す経営者はほとんどいません。

少し、長期住宅ローンを躊躇し始めましたか?(笑)

そして、潰れる場合どうするかというと、多くの場合、弁護士→裁判所を通じて破産や特別清算、あるいは民事再生、任意整理に進みます(「倒産」というのは法律用語ではなく、具体的に何を指すのかわからない言葉です)。

個人の場合、ギャンブルによる破産って結構あるようですが、法人の場合、そんな遊興費や不正などによる破産は認められません。または、認められたとしても、手続きには少なくとも数百万(負債総額による)かかります。

それが無理な場合は、放って逃げる(いわゆる夜逃げ)か、自力再生するか。これしか選択肢がありません。実は、上記のような法的処理だけでなく、この「夜逃げ」の方が圧倒的に多いのです。真偽は不明ですが、法的整理は1割程度と言う人もいます。

前述の、周りを見ても企業の生存確率がそこまで低い印象がないというのは、それが理由です。

株主有限責任原則

少し横道に逸れましたが、例えば会社の清算手続きに入るとします。その際の債務は、債権と合わせて清算するわけですが、そこでマイナスが出た場合どうするか。債権者としては株主に請求したいところですが、株主は有限責任原則で守られています。自分の出資額以上の責任を負わないのです。

よく混同されますが、法律上の「社員」とは株主のことであり、法人の種類によって有限責任社員(株式会社など)、無限責任社員(合資会社、弁護士法人など)となります。

株式会社の場合は有限責任社員であり、株主は自分の出資額以上の責任を負わないというのが、大原則のルールなのです。この原則が発明されたから、あるビジョンの元に出資を募り、会社を設立するというダイナミックな経済が生まれたのです。無限責任なら、誰も株主になりたくありません。

つまり、会社に1億円の負債が残ったとしても、株主(中小企業の多くの場合、社長が最大株主)は自分の出資額以上の責任、出資が1,000万円なら1,000万以上の責任は負わなくていいということです。

これ、株式会社の株式会社たる所以、というかこれがないと株式会社の意味ないよね、という根本原則です。

人類史上屈指の発明を有名無実化するもの

渋沢栄一がフランス万博に赴く際、スエズ運河が民間の株式会社によって作られたという話を聞いて、衝撃を受けたという逸話がありますが、この「有限責任」というのは、その経済発展の礎を築いたものと言っても過言ではないのです。

その、まさに人類史上屈指の発明ともいえる制度を一瞬にして有名無実化してしまうもの。そうです。もうお分かりですね。というか、最初からわかってますよね。日本独特の風習、個人保証です。

会社が銀行から借り入れる際、代表者が連帯保証するあれです。あれがあるから、仮に1,000万の出資であっても、個人が1億の負債を負うことになるわけです。

日本の場合、代表者と最大株主が同一というケースが多いので、その辺からどうも混同されがちなのですが、基本、会社のオーナーは株主であり、役員は株主から委託されて会社を運営します。なので、重要な意思決定はすべて株主総会を通します。決算の時なんかもそうですよね。

それにGOサインを出した株主には、経営責任が生じます。その責任の範囲が、自身の出資額ということです。

では、なぜそんな原則を破壊する制度がまかり通っているのか。

議論の余地なく、ただただ銀行が自分を守るためだと私は思います。

さらに銀行は、銀行単独の融資(俗にいうプロパー)よりも、国の機関である信用保証協会を付けたがります。つまり、個人保証の上に信用保証協会というダブル保証を取るケースも多いのです。

ただただ自分を守るためです。

その際、その個人保証は最大株主ではなく、法人の代表取締役から取るのが慣習です。多くの場合、それは同一人物だからです。日本の場合その辺が曖昧で、個人と法人の線引きすらも曖昧になる、ひとつの原因かもしれません。

その『銀行を守るための制度』が、どれだけ経済を圧迫しているか、考えてみてください。近代の経済大発展を生んだ大原則(有限責任)を、いとも簡単に台無しにしているのです。

よく、会社が潰れて誰々が首を吊ってとか、半沢直樹なんかでもあるじゃないですか。もちろん、リアルな話としても。その手の話、海外で聞いたことありますか?海外と言っても漠然としてますが、私はカリフォルニアやシンガポールで何年もビジネスをしてきて、その手の話はほぼ聞いたことはありません。ブラックな取引に手を染めて、変なことになるケースはたまに聞きますが。

家屋敷取られる(住宅の場合は特例があって、破産しても取られないケースもあります)とか、その手のシリアスさって、もしかしたら日本独特かもしれないのです。その辺、詳しく調べたわけではないので、曖昧な表現しかできませんが。

経営者保証に関するガイドライン

もう一度言います。個人保証は、銀行が自分のリスクを回避するための制度、銀行の銀行による銀行のための制度です。そのために資金調達が円滑になっているという意見もありますが、私は同意しかねます。

いろんなケースはあるでしょうが、基本、自身の審査能力のなさを反映しているだけです。それ以外に何かあるなら、ぜひ教えてほしい。

そして、ここにきてその見直しの機運が高まっている。2014年の『経営者保証に関するガイドライン』がそれです。まだ銀行にそんな機運が高まってないし、条件もいろいろあるようですが、経営者の皆さんは、自分を守るためにもこのガイドラインを理解して、融資の際は個人保証を外すように努力してみてください。

経営者保証に関するガイドライン
https://www.jcci.or.jp/chusho/kinyu/131205guideline.pdf

銀行は、もちろん消極的だと思いますが、経営基盤を健全にすれば、保証を外せる可能性は大いにあります

同時に、銀行に頼らない資金調達も、ぜひ頭に入れるべきです。今はクラウドファンディングなど資金調達が多様化しています。事業サイズにもよりますが、個人保証してまで銀行から借りるメリットは、昔に比べると格段に小さいと私は思います。

※そして、私の会社でこのようなサービスも実験的にスタートしました。このnoteを読んでくれた人には、基本的なアドバイスは無料で行います。

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