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正弦定理9

□物の怪たち
「おのれ。秋月家め」
秋月家のせいでちっとも暴れられない物の怪たちは、イラついていた。
人間が育てた家畜は、よく太っていて美味い。
最近はそれすらも食べられていない。

「はつがねのみを扱えたら、手も足も出せん」
「しかしなぜあいつらはあの実を扱えるのだ」
「なんでも、契約したらしい。ずいぶん昔のはなしだが」
「山神さまとな」
「忌々しい。山神様に取り入ったのか」
「詳しいことはわからんがな」
「どうにかならぬものか」

毎晩毎晩、こんなことを繰り返す物の怪たち。
基本、低脳な物の怪たちは、それ以上解決策など見いだせない。

しかし物の怪にもいろんなタイプがいる。
やっかいなのは、元人間だ。
恨みつらみを持って亡くなり、いわゆる悪鬼となり果ててしまった者。

「取り憑けばいいのだ」
ある日、その悪鬼がふらりとやってきて助言した。

「秋月家の人間に取り付けば、はつがねのみの効力も及ぶまい」
「しかし、あいつらに取り付くとは言っても強いぞ」
「子どものうちなら、まだ弱い」
「ほお。子どものうちに!」
「ちょうど産まれたばかりの子がおる」
「ほお、それはいい機会ではないか」
物の怪たちは嬉々としてその話に乗った。

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