余白を歩く 《思い出しグルメ① 中野ブロードウェイ〜デイリーチコ》

ダンナが生きていた頃、家族で行った店、行きたかった店。なくなってしまった店もあるけれど…。
思い出しながら、ぼちぼち語っていくシリーズ。



         * * *



サブカルの聖地、中野ブロードウェイ。ウチのダンナはここが大好きだった。上階は住居フロアになっていて、かつてはあのジュリーこと沢田研二はじめ、昭和のセレブ御用達のマンションだったらしい。


「ここ、いいでしょ」


嬉々とするダンナと、ブロードウェイ特有の濃密な空気に怯む私。まだ子どもたちが生まれる前だった。
けれどこの場所を訪れる目的が、私にもあった。記録魔の父が結婚する時に渡してくれた幼い兄や私の声を記録したカセットテープ ——。そんなカセットテープをCDに変換してくれる店はないだろうか。それならとダンナが教えてくれた店がブロードウェイに入っていたのだ。内心ブロードウェイに行く口実ができたぐらいにしか思っていなかったであろうダンナは、大好きだったガンダムのフィギュアを、目をキラキラさせて見つめていた。そして「ウマいうどんとソフトクリームが食べられるよ」とブロードウェイに来るたびに寄ったのが「デイリーチコ」だった。


デイリーチコはブロードウェイ地下一階にある八段重ねのソフトクリームで有名な店で、横でうどんとそばの立ち喰いもやっている。これが安くてなかなか美味しい。
煮干しのダシがきいたあっさりしたつゆ。初めて食べた時は、正直もの足りなさを感じたが、今はこの味が結構好きだ。ダンナは関東風の醤油のきいたつゆが好きじゃなかった(だから丸亀製麺より、はなまるうどん派だった。はなまるも一時期よく行った)。トッピングの天ぷらで紅生姜なんていうのもある。狭いカウンターで肩を寄せ合い、一気につゆまで飲み干す。
ソフトクリームは学生の頃、八段重ねを一人で食べ切ったと豪語してたが、こちらもあっさりとして甘さ控えめなのでいけるかもしれない。ちなみにイチゴ好きなダンナ。何かにつけ「オレ、イチゴにする」とよく言っていた。
亡くなる前、ダンナはここのソフトクリームが食べたい食べたいというので、友達のマコちゃんに車を出してもらい、車椅子に乗せて連れてきて来てもらった。私がマコちゃんにお礼の品を探していて戻ったらマコちゃんとダンナ二人、すでにソフトクリームにかぶりついていて、私の分はなかった。そんなぁ…! でもダンナは何味食べていたんだろうか、今はそれがとても気になる。


パート帰りにふらりと途中下車してデイリーチコで遅いランチ、ときにはソフトクリームを食べ、お菓子や夕食の材料を買い込みまた電車に乗る。中野駅から屋根続きで雨でも濡れることなく買い物ができる中野サンモール。そんなサンモールのどん突きにある中野ブロードウェイは、今ではすっかり私のお気に入りだ。