余白を歩く 《思い出しグルメ⑪ 一圓 三鷹南口店》

ダンナが生きていた頃、家族で行った店、行きたかった店。なくなってしまった店もあるけれど…。
思い出しながら、ぼちぼち語っていくシリーズ。



         * * *






家族四人で何度も行った店「一圓 三鷹南口店」。最後に四人で行った店もここだった。
その店が昨年12月10日、閉店してしまった。ショックで傷がいまだ癒えない。ダンナよ、いちえんが閉店しちゃったよ…


真っ赤な外壁がトレードマークの愛すべき町中華。中央通りにある頃からよく行っていた。幼稚園に通っていた子どもたちに「かわいいねぇ」と声を掛けてくれて飴をくれた。吉祥寺方面に抜ける道に移転してからもよく行った。食事作りに疲れると、大好きなジャンボ餃子を電話で注文して取りに行った。近所でご主人や奥さんとバッタリ会うこともよくあった。


「オレ、マーボー麺ね」


ダンナが必ず頼んでいたメニューだ。
カレーラーメンやモヤシてんこラーメンを頼んでいたこともあったが、いつからか、マーボー麺一辺倒になった。ああそうか、ダンナは餡かけ系の麺が好きだったんだ。
私は麺にほうれん草が練り込まれたほうれん草ラーメンや野菜たっぷりの中央通りラーメンも好きだったが、チャーシュー、ほうれん草、味玉、のり、ネギ、メンマの乗った醤油味の一圓ラーメンが大好きだった。自分の中ではこれが王道のラーメンで、新しい味に挑戦する気が起きないくらい好きだった(なので途中からマイナーチェンジした時は残念だった)。これにジャンボ餃子や息子の好きな水餃子をつけるのが定番だった。


「それからあれ、卵とキクラゲのやつね」


途中から卵とキクラゲと豚肉の炒め物というお気に入りも加わった。私もこれが大好きだった。家で真似て作ってみるのだが、毎度何かが違う。豚肉を入れ過ぎているんだろうか。塩味が足りていないんだろうか。


一周忌が過ぎてしばらくして、息子と二人でようやく一圓に行くことができた。初めて食べたマーボー麺に辛くて涙が出た。その後、娘の彼氏も連れて四人でも来たし、ジャンボ餃子のテイクアウトも再開した。ダンナが亡くなったことを伝えると、奥さんは優しい言葉をかけてくれた。最後に行ったのは息子と二人、11月のことだった。私はネギラーメン、息子はマーボー麺。ジャンボ餃子と卵とキクラゲと豚肉の炒め物を分け合った。


12月の朝、通勤で駅まで自転車を走らせていると店の入った建物に看板が出ているのが目に入った。なんだろうと思ったが通り過ぎてしまった。しばらくして娘が「一圓、閉店しちゃったって」と言ったのを聞き、まさかと思った。建て壊しの看板だったのだ。駅からの帰り、並びにある焼き鳥屋の鳥武さん(ここもダンナと来た思い出の店だ)の明かりがついている。思わず戸を開け、どういうことかと詰め寄った。建て壊しで一年前から閉店が決まっていたこと。つくばに移転する話があること。


ずっとあると思っていたものがなくなってしまう、歳を重ねそんなことが増えている。こんなに侘しいことがあるだろうか。息子とつくばに行こうよと約束したものの、手掛かりがない。本当につくばで再開するんだろうか。北口の一圓にも一度だけ行ったことがあるが、味がちょっと違った気がする。ああ、あの餃子がまた食べたい。