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インドネシアでしか使えない!雇用契約

割引あり

(※この記事は2024年2月「 #1か月間ブログ書くぞ 」企画の記事です。)

みなさん、こんにちは。
インドネシアでメディア広告事業を経営しています、長谷川と申します。

1ヶ月間ブログ書く企画の後半戦になりまして、少し実験してみたいことが出来ましたので、今週はニッチな対象者向けのコンテンツとして「インドネシアでしか使えない」ノウハウ関連の記事を書いております。

第一弾は、採用戦略についてでした。

「インドネシアでしか使えない」シリーズ 第2弾は、雇用契約についてです。実際に私が試行錯誤を経て実際に活用している雇用契約書フォーマットも公開(有料)したいと思いますので、ご興味ある方は最後まで読んでいただけましたら幸いです。


インドネシア労働法は圧倒的に被雇用者に有利

まず留意すべき点は、インドネシアの法律です。インドネシアの労働法は、極めて被雇用者に有利な内容になっておりまして、日本と比べましても被雇用者が強く守られるようにできています。

例えば傷病欠勤、いわゆる病気や怪我による欠勤ですが、労働法により医師の診断書がある場合は「雇用者は従業員が病気や怪我を理由に欠勤した場合、賃金の100%を支払わなければならない」と規定されています。

また後ほど詳しく触れますが、ひとたび正社員での雇用契約を交わしてしまうと、なかなか簡単に解雇できない、または解雇しても相応の退職金・勤続功労金を月給の何ヶ月分も支払う必要があるといった規定があり、やはり被雇用者が手厚く保護されている法律になっていると言えます。

地域ごとに定められている最低賃金

日本の都道府県同様、インドネシアでも各州によって最低賃金が定めれられいます。日本のような時給換算ではなく、月給としての最低賃金が定められているのがインドネシア流です。

現在経済発展中のインドネシアでは、毎年のようにこの最低賃金が各地域で上昇しておりまして、2023年の例で申しますと前年比 約5~8%の上昇率となっております。

【コラム】インドネシアの地方別最低賃金(2023年版) より

この最低賃金が企業の人事戦略・事業計画に与える影響は大きく、2020年の世界的なパンデミック以降、リモートワークまたはハイブリッドでの勤務形態が定着しました今、最低賃金が比較的安い地方の優秀な人材を有効に雇用して人材採用計画と人件費予算両方のバランスをとっていく企業も増えております。

契約形態

そして重要なのは契約形態です。インドネシアでの雇用契約による契約形態は大きく分けて4パターンあります。それぞれのメリット・デメリットがありますので、簡単に解説いたします。

[ 契約形態1 ] 業務委託契約・フリーランス契約

最初からイレギュラーな形態で恐縮なのですが、正社員や有期雇用以外に、雇用をせずに「業務委託」する、「フリーランス」として契約するといった方法があります。これは厳密に言うと企業として「雇用」をしておりません。ので、前述のような被雇用者に有利なインドネシア労働法の影響が限定的です。

弊社の場合は、求職者本人の意向を確認した上で、

  •  「手取りの報酬額」へのこだわりが強い

  •   勤務時間にとらわれずにある程度の裁量を持って業務にあたりたい

  •   他社の仕事も副業として同時並行で受けたい

といった志向がある方には、この業務委託やフリーランスの契約形態でオファーを打診することがあります。これは、インドネシアでは企業・求職者双方にWin-Winな契約形態でして、企業としても退職金や社会保険負担、所得税計算などについて心配する必要がなく、求職者さんもビジネスライクにフェアな関係で業務遂行に集中することができます。

[ 契約形態2 ] 期間に定めのある雇用契約

有期雇用契約ということです。最大2年の有期雇用契約が可能で、その後1回だけ最大1年間の延長の有期雇用契約が可能です。つまり、"はじめまして"の状態から最長合計3年間は有期雇用が可能です。

この有期雇用契約の場合の最大のメリットは、退職金を払わう必要がないということです。デメリットとしましては、試用期間を設けることができません「試用期間」という概念と言葉は、インドネシアでの場合は正社員契約の際にだけ存在します。

「試用期間」を過ぎても雇用契約を継続する = 正社員としての雇用

という論理にインドネシア労働法ではなりますので、有期雇用契約の際には「試用期間」という表現を使わないようにご留意ください。

[ 契約形態3 ] 期間に定めのない雇用契約

日本でいうところのいわゆる正社員雇用です。前述の通り、最大3ヶ月間の「試用期間」を経た後は、①契約終了 または ②正社員契約として雇用の2択しかありません。そして何らかの事由で雇用契約を終了することになった際は、退職手当、勤続功労金、権利保証金などのいわゆる「退職金」が一定の基準と計算式によって発生いたします。この期間に定めのない雇用形態での契約は、なるべく他の契約形態でその方の人となりや仕事のスタイルなどを時間をかけて確認してから、最終ステップとして満を持して契約手続きを進めるのが安心だと個人的には考えております。

[ 契約形態4 ] 日雇い契約

勤務日数が1ヶ月に21日未満で、業務量や勤務スケジュールが変動的な場合にこの「日雇い契約」という形態での雇用契約を結ぶことができます。ただし、1ヶ月に21日以上の勤務が3ヶ月続きますと自動的に「期間の定めのない雇用契約(=正社員)」に手続きを進めないといけないという規則がありますので、業務量や仕事内容を雇用者側がこの基準内で完全にコントロールできる場合以外は、個人的には安易にこの日雇い契約形態での雇用はリスクが高いのでオススメしません

おすすめの契約ステップ

インドネシア事業約9年間での数多くの失敗経験を踏まえまして、現時点で私が人材を雇用する際の契約手順は以下の通りです。

  1. 全てのポジションにおいて、まずは「有期雇用」で半年契約して採用
    →インドネシア人人材を見極めるのに3ヶ月ではやや時間が足りない、というのが私の結論。「有期雇用」のため試用期間は設けずに、半年間は雇用する覚悟で採用します。

  2. 半年間の有期雇用期間中にその人材の人となり、仕事の進め方、コミュニケーションスタイルを見極める
    →契約期間真ん中の3ヶ月目のタイミングで、足りない点があればフィードバックして契約終了までの改善変化を見る

  3. 半年経って採用当初にお互い約束したパフォーマンスにほぼ達した場合は、1年間の「有期雇用」で契約更新。約束のパフォーマンスから程遠い場合は契約延長せず終了、または減給や役職を下げるなどの調整をして再度適正な条件でオファー
    →原則、この1年契約更新は弊社の中では「正社員」のオファーの意にほぼ近いですが、何があるかわからないので契約形態だけ「有期雇用」としています。福利厚生などのベネフィットは正社員と変わらないものが与えられるようにしています。このステップに進んだ社員は、基本的に会社側から契約終了を通達するような未来はほぼ無いというような判断のレベルの人たちです。

  4. 1年契約終了後大きな問題が無ければ、自動的に正社員契約に切り替え
    →1年契約を提示している時点で事実上の正社員にできる人材という判断のため、ここでの再議論はほぼ無し。市場の変化による部署の縮小や閉鎖などが無い限りはここで雇用条件がダウングレードすることはない想定です。

敢えて一番最初の入り口のところで試用期間を設けず、半年間の雇用の覚悟を持って人材を見極めることで、その後自信を持って正社員契約に進められる人材だけを振り分けることができております。また、遅咲きの人材も3ヶ月で判断しないことで拾うことができていて、弊社ではこの契約ステップが非常によく機能しています。

雇用契約に盛り込むべき項目

a. 退職通知期間

第一弾の「採用戦略」編でも触れましたが、インドネシアの労働人口は1億8千万人と非常に多いにも関わらず、失業率が3〜5%で求職者優位の売り手市場となっています。
その関係で、社員としてはいつ辞めてもすぐに次の職が見つかりすい環境のため、社内外で不快なことが発生したり、心身の状態が悪くなったりしたタイミングで安易に容易に退職を決断して辞表を出してくる傾向があります。

これに対して会社としては代わりのの人材を探して、オファーを出して、入社までしっかりケアをするということを短期間で対応できないと、事業計画、人事戦略に穴が空いて、業績にもマイナスの影響が出てしまいます。

このマイナス影響を最小限に留めるために、退職通知期間をしっかり雇用契約に明記しておく必要があります。弊社では2ヶ月前通知を契約条件としておりまして、退職したい社員は退職日よりも2ヶ月以上前に会社に意向を伝えないと退職できません。各社さんの人事戦略や役職によってもこの期間は様々と思いますが、契約書には必ず退職通知期間を明記するようにいたしましょう。

b. 競合企業への転職禁止期間

常に良い人材が引っ張りだこのインドネシア人材市場では、競合からの引き抜き、自発的な転職は日常茶飯事です。退職後ある一定期間は競合企業への転職を禁止する条件を、弊社では契約書に盛り込んで入社前に本人同意を得るコミュニケーションをとっています。

これは労働法で定められている条件ではありませんので、本人が約束を破って競合企業に転職をしても実際は訴えることができるようなものではありませんが、やはり入社前にそういう確認を丁寧にして本人にも理解してもらって、そういう条件が実際に書かれた契約書に直筆サインをしてもらう、という一連のプロセスを踏むことで、ある程度の抑止力が働いていると思います。特に狭い業界にいる企業さんは、この競合企業への転職禁止条件を契約書に明記されるのがおすすめです。

c. 社内情報漏洩や会社に損害を与えた場合の賠償金

雇用契約の付録(Attachment)としまして、会社に損害を与えた場合に賠償金を支払うことの条件も明記しておくと、これも一定の抑止力となります。

ふとした拍子に社員が魔が刺して会社に不利益な行動を行わないように、損害賠償金を高めに設定した契約内容とするのをオススメいたします。(ちなみに弊社の場合は、上限100万円としております。)インドネシアにしては高い額のですが、もちろん入社前の社員たちは「そんなこと自分が行うはずがない」というスタンスでおりますので、実際に払うことになる心配は無いのだからということで、これまでこの条件で入社前に問題になったことは一人もございませんでした。

以上、9年間のインドネシアでの経営活動での気づきや学びから、私と弊社が雇用契約について意識していることを書かせていただきました。

この後の有料パートでは弊社が実際今年も活用しております雇用契約フォーマットを公開しております。複数の弁護士さんにアドバイスをいただきながら9年間かけて改編・アップデートいたしました有期雇用契約、期間の定めの無い正社員雇用契約の2種類で、英語とインドネシア語併記のフォーマットとなっております。歴史と工数をかけて仕上げたものになっておりますので、決して安くはない値段を設定させていただきましたが、明日からでもご活用いただけるクオリティのものだと思います。

( ※次の記事では、営業管理のノウハウについて書きたいと思います。お楽しみに!)

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