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【中間選挙2022】今後の共和党に求められるのは「脱トランプ」路線だ

 今回のアメリカ中間選挙では、ネットワーク社やAP通信の出口調査によるとインディアンの約6割とヒスパニックやアジア系の約4割が共和党の候補者に投票し、「有色人種は民主党」と言う構図が大きく崩れました。
 一般に中間選挙は野党に有利であると言われていますが、民主党は野党時代の前回の中間選挙と比べても盤石であった黒人票も微減しており、白人保守層の支持を固めている共和党は、今回マイノリティの支持も増えて優位な状況に立ちました。
 一方、共和党が圧勝したと言う訳ではなく、現時点では共和党はまだ上院でも下院でも過半数は確定していません。接戦区等で決着がついていないためです。その背景には根強く残るトランプ前大統領への不信感があるようです。

新自由主義に対して“穏健”だったバイデン大統領

 民主党は中間選挙の前から上院では過半数を握っておらず、無所属であるバーニー・サンダース議員とアンガス・キング議員とを加えてようやく半数に達するため、彼ら無所属議員の賛成があれば共和党が反対しても上院議長を兼務する副大統領の決裁で法案を通すことが出来る状況ですが、安定した議席を得ているとは言えません。
 特にアンガス・キング議員は過去に親共和党的な言動も見せており、またバーニー・サンダース議員は「民主社会主義」を唱えて民主党主流派とは相容れない強力な再分配政策を訴えるだけでなく、前回の大統領選挙の際に民主党の予備選候補者から真偽不明のセクハラ疑惑で攻撃されたこともあり、バイデン大統領とはかなりの距離があります。
 バイデン大統領を支持する民主党主流派は自分たちを「穏健派」と位置付け、サンダース議員らに好意的な党内グループに対しては「急進派」とのレッテルを貼っています。しかしながら、彼らから「急進派」とのレッテルを貼られている議員たちの主張は国民皆保険制度の導入を始め、日本やヨーロッパではごく普通に導入されている再分配政策であり、彼らが“穏健”なのはあくまでも大企業中心の政治を進める新自由主義者に対してであることを露呈しています。
 特に昨今はサーズ2型コロナにより国民皆保険制度を求める有権者の声は強まっています。国民皆保険制度に消極的なバイデン政権に反発する運動も起きており、こうした層は従来民主党の支持母体でしたから、バイデン政権の対応が問われていました。
 今回の中間選挙ではサンダース議員の支援を受けている民主党公認候補もいるため、残りの接戦区で民主党が勝ったとしてもバイデン政権への逆風は収まらないと見られます。

過激なプロチョイス路線にマイノリティが反発

 民主党主流派への反発は、民主党の支持母体となっていた少数民族・少数宗教のマイノリティからも挙がっています。
 連邦最高裁が州による堕胎への法規制を合憲とした「ドブス対ジャクソン婦人科判決」は、解放奴隷の子孫である黒人裁判官のクラレンス・トーマス判事が主導したことでも明らかなように、マイノリティの間ではむしろ支持が厚いもので、バイデン大統領による同判決への批判はむしろマイノリティの票を減らす効果がありましたし、現に減っています。
 2021年、民主党主流派は『女性健康保護法案』を提出しました。この法案は表向きは女性の健康を守るための法案ですが、実際には各州における後期中絶への規制も制限するなど、堕胎の自由化を目的とした生命軽視の法律です。
 民主党の支持者であるマイノリティの中にはプロライフ(生命尊重派)も多く、過激なプロチョイス(生命軽視派)路線には反発もありました。
 2021年の法案では、下院では民主党から保守的なテキサス州選出のヘンリー・クエラー議員が反対票を投じ、今回の中間選挙でも彼は民主党に逆風が吹いている中、再選されました。
 また黒人の下院議員であるアル・ローソン議員は棄権して事実上の反対の意思を表明しました。黒人の中には熱心なクリスチャンやムスリムが多く、彼らの多くは生命尊重派であることに配慮したものと思われます。しかし、ローソン議員は今回の下院選挙で共和党の白人候補に敗北しています。
 上院ではジョー・マンチン議員が反対票を投じました。彼は2022年に同じ法案が取った時も反対票を投じており、また今回の選挙の改選議員では無いので今後も生命尊重を訴えてバイデン政権のプロチョイス路線を牽制するものとみられます。
 2021年には他にヒスパニックのベン・レイ・ルーハン議員とユダヤ人女性のダイアン・ファインスタイン議員、黒人のラファエル・ワーノック議員とが同法案の採決を棄権しています。三人ともマイノリティであることが共通点です。
 ハールン議員とファインスタイン議員は非改選議員で、ワーノック議員については今後決選投票となる見込みです。
 もっとも民主党内のプロライフ議員が概ね善戦していることでも判るように、生命尊重だけでは共和党が票を固めることは困難となっている現状も、今回の中間選挙では示されています。

マイノリティ票の動向がカギだった

 元々アメリカ民主党は奴隷制維持と自由貿易を掲げていた歴史的背景もあり、新自由主義に近い立場の人間が「穏健派」と呼ばれるのはそうした過去の歴史の結果です。
 マイノリティに対しても戦後になっても白人至上主義団体「KKK」の構成員であるトルーマン大統領が就任し、さらに今になってもバイデン大統領が黒人射殺市長を閣僚や駐日大使に起用するなど、所謂「穏健派」ほどマイノリティには冷たい姿勢を取っていました。
 もっともバイデン大統領自身はマイノリティであるカトリック信者でしたが、大統領選挙に勝利するために「穏健色」を強めていった経緯があります。
 戦後、カトリックのケネディ大統領が就任して以来民主党はマイノリティ重視の政策をとるようにはなりましたが、ケネディ大統領はバイデン大統領とは違いプロライフ(生命尊重派)でしたし、ケネディ暗殺にも象徴されるように民主党内のマイノリティ重視の勢力は時には物理的な暴力に晒されることすら、有りました。
 特にプロチョイス路線を明確にしたバイデン政権の下では共和党がどこまでマイノリティの票を取り込めるかが鍵でした。
 実はこの点で共和党の政策は一貫しています。それは「減税」と「生命尊重」です。
 減税も生命尊重も、どちらも反対する人は多くはありません。さらに民主党内にもマイノリティを中心に生命尊重派がいることでも判るように、この両者を掲げると民主党の票を割ることも可能になります。
 しかしながら、今回の中間選挙のポイントは「にも拘らず、共和党の票が伸びなかった」ことにあります。その背景には、やはりトランプ前大統領への反感があるのでしょう。

トランプ「生命尊重」アピールは不発に

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