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今更人に聞けない"偽9番(ファルソ・ヌエベ)"について

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こんばんは。

このコロナ自粛もそろそろ飽きてきました。早くサッカーがある日常を返して欲しいです。

今回は何について書こうかと思っていましたがつい最近読んだ本に関連して今回は2010年あたりに当時のサッカー界を激震させた偽9番(ファルソ・ヌエベ)について書いていこうと思います。

そもそもなぜこの偽9番が注目されたのかと言うとやはりペップ・グアルディオラがリオネル・メッシにこの役割をさせたことが1番の要因ではないでしょうか。当時のサッカー界は守備が非常に発達していて4-4-2や4-2-3-1などのフォーメーションが全盛を迎えていました。4-4-2ならば4-4の8枚、4-2-3-1なら4-5の9枚の守備ブロックが築かれておりこのブロックをどう崩すのかが課題となっていました。そこでグアルディオラが対抗策として披露したのがこの偽9番だったのです。ちなみにグアルディオラはこの偽9番の発明者ではありません。偽9番を当時の最新の戦術と誤解している人はかなり多いと思いますが実はその起源は1930年代にあります。なのでまず初めにその誤解を解いていくことから始めていこうと思います。

そもそも1番初めに偽9番が使われたのは1930年代の"ヴンダーチーム"と呼ばれたオーストリア代表だと言われています。テクニックに優れたマティアス・シンデラーがこの偽9番をやっていたそうです。その後1940年代に入ると"ラ・マキナ"と呼ばれたアルゼンチンのリーベル・プレートのアドルフォ・ペデルネーラが偽9番ロールを行い、中盤に引いてボールを呼び込んでいたそうです。1950年代になると欧州最強と言われていた"マジック・マジャール"ことハンガリー代表で偽9番が行われていたと言われています。センターフォワード(以下CF)のナンドール・ヒデクチが同じように中盤に引いてきてボールを受けていたそうです。ここまで書くと偽9番という戦術は古くから使われていた戦術であり、決して最新のものではないということがお分かりいただけたと思います(個人的にはグアルディオラはよくこんな古い戦術を知っていたなと思います)。

ではここからは偽9番の与える影響について書いていこうと思います。前の文にチラッと書いてしまいましたが偽9番とはCFの選手が中盤まで下りてくることを指します。

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この偽9番におけるメリットは大きく2つあります。1つ目は相手選手をピッチ中央に引きつけることができることです。CFが大きく中盤へ降りることになるので当然マークについていた選手(ほとんどの場合センターバック 以下CB  の選手だと思います)はCFについて行くかそれともマークを受け渡すかの選択をします。仮について行った場合だとCBが開けたスペースをカバーするためにディフェンスライン全体が中央に寄ります。

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するとサイドに大きなスペースができることが分かると思います。

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またマークをボランチの選手に受け渡した場合を考えてみましょう。ボランチの選手がマークに行くと当然ボランチがいた場所には大きなスペースができるのでサイドハーフの選手がそこをカバーするために中央に寄ります。

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するとやはりサイドハーフがいた場所に大きなスペースができることが分かります。

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いずれの状況においてもサイドに大きなスペースができるのです。このスペースに1vs1の突破力に優れたウイングの選手をアイソレーションさせることによって味方のウイングにフリーでボールを持たせるか敵サイドバックに対して1vs1の状況を作り出すことができます。このように偽9番によってサイドで質的優位(1vs1に勝てるウイングにフリーでボールを持たせたことにより生じる優位)を作ることができます。さらに後方の選手を上げることによってサイドで2vs1の数的優位を作ることもできます。

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ウイングのアイソレーション

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ウイングの質的優位

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サイドでの数的優位

2つ目のメリットは中盤での優位を作りやすいということです。中盤における人数を考えてみると、当たり前のことですがFWの人数を1人削ってその分中盤の人数が増えるので中盤の人数は1人増えることになります。

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図においては攻撃側3-4-3、守備側4-4-2でシミュレーションをしていますが中盤での人数は攻撃側5人、守備側4人となっているため攻撃側は数的優位を作り出すことに成功しています。

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また守備側が4-2-3-1の場合も考えてみましょう。攻撃側はピッチ中央部に上向きのトライアングルが形成されています。一方守備側はトライアングルができてはいるものの下向きのトライアングルなので攻撃側の選手にマークがつきにくい状況になってしまいます。そのため攻撃側はマークの選手がいない状態つまりフリーでボールを持てているので中盤に質的優位が生まれていることになります。

続いては偽9番の具体的な運用法について解説していきます。今回は僕の大好きなチームでもあるリヴァプールを例にとってみましょう。リヴァプールではCFのフィルミーノが中盤へ降りて偽9番となります。そして右ウイングのモハメド・サラーはセンターバックの間付近にポジションをとります。

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フィルミーノは敵の選手の間で受け、広い視野を持って状況を把握し、適切なパスを出す能力に優れています。さらにサラーは相手を背負ってボールを収めてチャンスを演出するというプレーを高いレベルでできるような選手です(彼の肉体を見てみてください。恐ろしいほどの筋肉の鎧を着ています笑)。この2人の関係で引いた相手を崩すオプションをリヴァプールは持っています。またフィルミーノとサラーが距離的に近い位置にいるので、仮にサラーがボールをロストしてもフィルミーノがすぐにディフェンスに行くことができるので、ユルゲン・クロップの代名詞でもあるゲーゲンプレスを発動させるのにも適当なポジションなのです。さらにサラーが内側に、フィルミーノが中盤に下りていくことで敵が中央に寄るので、空いているサイドのスペースにボールを展開すれば、アレクサンダー・アーノルド、ロバートソンが高い精度のクロスを上げて、チャンスを作ってくれます。

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また単純に偽9番をフィルミーノにやらせても、両ウイングのサディオ・マネ(左ウイング)、サラーはスピードに優れ、1vs1でも大抵の相手に質的優位を取ることができるのでサラーを中央に絞らせなくても多くのチャンスを作ることができます。

以上で偽9番についての解説を終わります。ちなみに偽9番が猛威を振るった数年後に偽9番への対策法が生み出されたのですがそれはまた別の機会に…。

ご意見・ご感想お待ちしております。

引用・参考文献

欧州サッカーの新解釈。ポジショナルプレーのすべて2019 結城康平

サッカー新しい攻撃の教科書 カウンターと組織的攻撃の正しい理解と活用 2018 坪井健太郎 小澤一郎

サッカーFW陣形戦術クロニクル 最前線のユニット進化論 2015 西部謙司

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