【イラン映画】「オリーブの林をぬけて」

久しぶりのイランの監督、アッバス・キアロスタミの映画。「オリーブの林をぬけて(Through the Olive Trees)」(1994年)。Amazonプライムにて。

キアロスタミ監督らしい、ゆったりと時間が流れる、とても純朴で慈しみのあるシンプルなラブ・ストーリーだ。

地元を舞台にした映画の夫役をやることになった地元の青年ホセインが、妻役をやることになった少女タヘレに、しつこく何回も求婚するという話だ。

貧乏で文盲、家もなくてヘタレの伯母からは強烈に反対されるけど、身内の葬儀の時、彼女が熱い目で自分を見てたという理由から、諦めずにアタックする。

出番が終われば、タヘレは自分が通う学校がある町に帰ってしまい、もう逢えないという状況、コレが最後のチャンスとばかりに、しつこく話しかけるものの、タヘレは一言も口をきかない。

映画の撮影と、実際の話と、劇中劇のようでゴッチャになってしまう部分はあるが、果たしてホセインの熱意はタヘレに通じるのか、と最後まで目が離せない。

ホセインのアピールの仕方が素朴過ぎて笑っちゃう。

撮影が終わって、タヘレは、近道というけれど、長い道のりをオリーブ林を抜けて、早足で歩いて帰って行く。途中立ち止まりながらも、タヘレを追いかけるホセイン。カメラは、人物が豆粒くらいになる遠いロングショットで2人を追う。ホセインがタヘレに追い付いて、何か喋ってる様子。その後、ホセインは急いで引き返してくる。ホセインの愛はタヘレに通じたのか?ホセインは、駆け足で帰って来るから、通じたのかもしれない。

観る者に想像を残して、ココで幕となる。このラストは映画史上に残る名シーンだと思う。

監督やスタッフの話し声、見物人の騒ぐ声、いろいろと機材等を動かす音、トラックの排気音、コレらの“雑音”も、しっかりと残しており、ホセインとタヘレの2人の存在を盛り上げるBGMとなっている。

地元民を俳優として起用した撮影は、何回もNGを出してカットがかかる。でも、急ぐのでも焦るのでもなく、すぐにお茶の時間で休憩となる。ノンビリとした撮影は、キアロスタミ監督自身のスタイルなのだろうか。

イランの田舎町だから、多分敬虔なムスリムばかりで、宗教的慣習で縛られている部分も多いだろうと我々は思っちゃうけど、ホセインもタヘレも、監督もスタッフも、地元民らも、基本的な営みは変わらずに、ちゃんと意志を持って、自由で闊達である。

キアロスタミ監督の心が洗われたようにホッとした気持ちになれる映画の作り方は、多分、イランの風土に合ったものであり、日本でも欧米でも、こういう映画は作れないであろう。監督自身は小津安二郎をリスペクトしてるけど。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。