【古典映画】「M」

伝説の、フリッツ・ラング監督の「M(M – Eine Stadt sucht einen Mörder)」(1931年、ドイツ)がAmazonプライムで観れるなんて!

ラング初のトーキー映画。若い頃に観たと思うけど。

サイコ・スリラーの元祖といわれた本作だが、実在した連続殺人鬼、“デュッセルドルフの吸血鬼”ことペーター・キュルテンをモデルにしたといわれている。となると、BGMはウィリアム・ベネットのホワイトハウスか?ハハハ。

画質は良いけど、1930年代、ナチス台頭前夜のドイツの、暗く病んだ貧民街が、表現主義のような構図も交えて、余すところなく描かれている。

幼い少女ばかりを狙った連続殺人事件が発生、警察の必死の捜査にもかかわらず、犯人逮捕には繋がらずに街は混乱する。
警察の、貧民街や暗黒街への強引な捜査によって、ギャングや売春婦なども仕事に影響が出て、彼らは自分たちの手で犯人を捕まえようと動き出す。
街頭に立つ盲目の売り子が、被害者の女の子の1人が誘拐された時、口笛を聞いたことから、1人のあやしい男に焦点が絞られる。
ギャングたちは、その男を追い詰めていく…。

犯人のM(Mörder=殺人者)は、ギャング達に、ビルに追い詰められ捕えられて、地下で彼らの“人民裁判”にかけられる。その場で、ついに「この衝動をどうしても抑えられない」などと告白するが、怯えて目を剥いて苦悶しながらの慟哭は凄まじいものがある。

ある場所にいる人物のセリフが、違う場所にいる人物のセリフに引き継がれたりする演出や、光と影を使った遠くからの俯瞰的な描写など、不安と恐怖と狂気を際立たせているとは思うけど、残念ながら、ストーリー展開に凝り過ぎた感じがしないでもない。

しかし、ラング監督は、Mに対する不安と恐怖、そして疑心暗鬼から来る狂気を描くことで、実は“殺人者は我々の中にいる”ということを訴えたかったに違いないと思う。誰しもMになる可能性があるのだ。

子供たちが無邪気に歌って遊ぶ。
「ちょっとの間待ってると
黒服の汚い人がすぐにやって来る
手に持つ小さなその斧で
彼が切り刻むのは誰でしょう…」

トーキーが始まって間もない時期、性的無差別快楽殺人を題材に、犯罪者(悪)と市民・警察(善)の両方から狂気を描いてみせるなんて、やっぱりフリッツ・ラング監督は素晴らしいね。

また、ぜひ「メトロポリス」も観たいものだ。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。