【古典邦画】「香華」

木下惠介監督の、1964年の作品「香華(コウゲ)」(前後篇)。原作は有吉佐和子の小説。香華(花)とは仏壇に供える花のことだ。

淫蕩で性格の悪い母親・郁代(乙羽信子)から身売りされて花魁となるが、大人となっても母親から独立できずに、母親の存在が重くのしかかる娘・朋子(岡田茉莉子)の悲劇の一生。

コレも、女の情念をぶつけ合う世界で、木下監督にはピッタリの材料である。

気になる男がいると、世間も気にせず、すぐに“女”を出して誘惑する母と、そんな母親に翻弄されて、自分の結婚(相手は戦後、戦犯として処刑になる)も破談となってしまった娘の、明治、大正、昭和に渡る、3時間の文芸大作である。

母の乙羽信子と、その母の田中絹代との諍いから始まり、次は、大人になった娘の岡田茉莉子との争いで、娘は常に母親にキレっぱなしで、それでも母は改めることはない。

関東大震災、東京大空襲と危機の時に、母娘が手を取り合って乗り切ろうとする、わずかなシーンだけが、観ててホッとするところだ。

そして、娘は、幼少期に母に売られた経験もあって、母への依存度が大きいのである。

昭和の、3人の大女優の演技合戦が一番の見どころだ。老けていく様も素晴らしい。血筋ゆえの愛憎劇は、喜劇でもある。

田中絹代、乙羽信子、岡田茉莉子と三代続く女の情念は、虐待された子供が、また自分の子供を虐待するのと同様、遺伝のように続くのだろうか?

この映画では男は“添え物”でしかない。野村芳太郎監督の「女の一生」(モーパッサン原作)にも通じると思う。

まさに、母のおかげで波乱の人生を歩むことになった女の悲劇、でも、それは、本人が引き込んでもいるものだ。

今でいう“親ガチャ”でもあると思うが、子供はどう足掻いても、血筋という環境要因が一生取り付いて回るとしたら、こんなに悲しいことはないね。

有吉佐和子にこんな素晴らしい小説があったなんて。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。