【古典邦画】「十字路」

日本初のアヴァンギャルド映画「狂つた一頁」(1926<大正15>年)を製作した衣笠貞之助監督の、これまた不気味な時代劇作品「十字路」(1928<昭和3>年)を、YouTubeで観た。サイレント作品。

よく完全な状態で残ってたなぁ。当時、日本よりもヨーロッパで高い評価を得たという。

感情を表わす、陰影とアップを使った人物や交差する想いの描写、それに上手く合わせた歪んだセットを使った遠近法など、1920年代にドイツで発展した、非現実的な“表現主義”の影響が大きいと思う。

時代劇といっても、切った張ったではなくて、メッチャ貧乏な姉と弟が追い込まれて破滅の道を辿るという悲惨な物語である。

ケンカ相手を失明させた弟、岡っ引きに騙されて見知らぬ男を殺してしまう姉、しかし、失明した男の眼は治り、死んだ見知らぬ男は生きていた。コレは現実か夢か、姉は独り十字路で帰らぬ弟を待つ…。

確かに不気味で斬新で面白いけど、当時は、やはり難解でウケなかったのではないだろうか。登場人物、皆、前歯がないゾ!

昭和3年といえば、三・一五事件や張作霖爆殺事件、治安維持法の緊急勅令、特高の設置など、戦争に向かってキナ臭い事が多々あった年だけど、そんな時期に、こんな実験的で自由な映画作品が連続して作られていたなんて。「地獄門」の衣笠監督は興味深い。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。