「ラスネール回想録」

19世紀フランスの、知的な詩人にして凶悪殺人犯罪者であったピエール・フランソワ・ラスネールの最期の著作「回想録」を格安でゲット。

古典映画「天井桟敷の人々」にも描かれているが、殺人だけでなく、強盗、詐欺、手形偽造などの重犯罪を重ねて、遂に逮捕、裁判では、自分と共犯者を死刑に処すことを1時間以上に渡って主張した。

当時のマスコミもこぞって彼を取り上げて、ラスネールの身だしなみがダンディなブルジョア青年風であったこともあり、話題を集めて大人気だった。ブルジョア階級の貴族らは、彼に会いに独房の前へと列を作ったという。

そんなラスネールが、最後に過ごした獄中で書いたものだが、彼は幼少期からの親の自分への対応に根深い不満を持っており、特に母親からの愛情に飢えていた。

家庭から始まり、学校でも不遇な対応を受けて(成績は良かった)、仕事を得ても長続きせずに、不正と偽善が横行して極貧を経験し、飢え死に寸前までいって、自分は社会から迫害されていると考えるようになっていく。この社会の迫害に対して、自分はあらゆる手段を使って報復する権利があると確信していた。

そして、手始めに、自分を騙そうとした人間の殺人に至るわけだが、なんとも逆恨みなんだけど…。とにかく当時の社会に対して激しい憎悪を抱いていたのだ。

社会を変革するコミュニズムには共感することはなく、ブルジョアに対する抗議の意味で、社会の厄災になることを決意する。「政治的暴動においては、常に善よりも悪が勝る」。

「行動に踏み切れない人間は、自分を励ましてくれる手本を必要としている。他の誰かが道を開いてくれるのを待ってる。だから一つの犯罪には別の犯罪が続く。殺人が半年も起こらない時には、誰か強い人間が殺人を犯す必要がある。その強い人間が私だ。高い社会的地位から極貧の犯罪者まで堕ちた私。社会に対して反乱を起こし、殺人と盗みを体系化できる私なのだ」。

今の犯罪学にも通じる理論・哲学を、自分を例に挙げながら事細かに書き連ねていて読み応えがあった。青年期から読書は好きで、古典と歴史書をよく読んだというからなるほどだ。

「最終的には社会に対する復讐だ。運が味方してくれる限り、他人を犠牲にして楽しく生きるとしよう」とうそぶくラスネールだったが、1836年1月9日の朝、ギロチンで処刑された。最期の言葉は「いよいよきたか。早く終わらした方がいい」だった。

そういや、彼の詩はまだ読んだことない(笑)。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。