【古典邦画】「裸の島」

新藤兼人監督・脚本・製作の、1960(昭和35)年の作品「裸の島」。YouTubeにて。

外国での評価が高く、各賞を受賞した。

瀬戸内海にある孤島(宿禰島)で自給自足の生活をする夫婦と子供2人のシンプルな日常を描いた。

特に展開も変わらずに、低予算だと思われるけど、実は、人の日常とは単調な作業の繰り返しであり、そこに喜怒哀楽があっても、そうやって歴史は流れて行く、ということを改めてわからせてくれるイイ映画だった。

夫婦を演じたのは、個性派の殿山泰司と、新藤監督の妻・乙羽信子であるが、一切、声を出すセリフがない。ラスト近くの子供を失った妻の泣き叫ぶ声だけだ。

孤島の眺めの良い景色と波や風雨の音、動物たちの鳴き声、小船のエンジン音、雑踏や人いきれの騒音…と、自然の音を中心に囲まれてはいるが、基本的に人物の表情だけで伝えようとしている。

電気・ガス・水道の他、文明の利器がない島において、島の頂上付近に小屋を建てて住む家族4人。
食用に動物を飼い、島の斜面に畑を作って作物を植える。
子供は小学生の長男と次男で、両親を助けて家事を手伝っている。

夫婦は毎日、陸まで舟を漕いで、飲料と畑の作物のために、水を汲みに行く。
小舟で運んだ、桶にたっぷり入れた水を天秤棒で担いで、島の急斜面を上るから、かなりの重労働である。
妻が転んで水をこぼすと、夫は容赦なく妻に平手打ちをくらわせる。

こんな所で畑をしないでも…と思うが、島の土地は夫婦のものではなく、持ち主に地代として育てた農作物を納めているのだ。

とにかく厳しい毎日が繰り返されるが、子供らが、鯉を釣ると、家族4人で、ちょっとおめかしして町に出かけて、鯉を売って、買い物や外食(カレー笑)をしたりする。

ある日、長男が高熱を出す。夫が、急いで陸へ行き、医者を探して連れて来るが、間に合わずに死んでしまう。

葬儀は島で行い、僧侶と担任の先生と同級生らが島に来る。
長男の遺体は島に埋められる。

葬儀が終わると、また日常が始まるが、いつものように作物に水をやっていた妻が突然、狂ったように、桶の水をぶちまけて作物を引き抜くと、突っ伏して号泣する。
夫は、長男を失った妻の心情を思いやり、ただ見ているだけだった。
妻は、落ち着きを取り戻すと、また水やりを再開する…。

BGMが、頭に残るとても印象的な音楽だ。

新藤監督と妻の乙羽信子の遺骨の一部はこの島に埋められているという。

生きるということは、同じことの繰り返しで、単調さに耐えることでもあるのだ。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。