「花ざかりの森・憂国」

再々読くらいかなぁ。

特に「憂国」は何回も読んでる。本人も、「三島の良いところ悪いところ全てを凝縮したエキスのような小説」と書いてる。

読んだらわかるけど、決してくだらない右翼的な政治小説ではない、“春本”短編小説と言ってもよい、死の直前の夫婦の情交を描いたエロチックな一品なのである。

言うまでもなくエロスは死が待ってるからこそ激しく燃え上がる。

妻・麗子の、夫の愛撫に良く応える様子など、高尚な表現が物凄くエロチックで、いくらでも想像の範囲が拡がり、甘酸っぱい気持ちになって、前が膨らんでしまうというものだ。

この後、実際に体験することになるのだが、この時点で、切腹の様子をこれだけ詳細に、苦痛まで体験したように書けるなんて、やはり三島は何かに取り憑かれていたに違いない。

「自分の肉の欲望と憂国の至情のあいだに、何らの矛盾や撞着を見ないばかりか、むしろそれを一つのものと考えることさえできた」

「彼が今待ってるのは死なのか、狂おしい感覚の喜びなのか、そこのところが重複して、あたかも肉の欲望が死に向かってるようにも感じられる。いずれにしろ、中尉はこれほどまでに渾身の自由を味わったことはなかった」

後の短編も、自選だから、三島の変遷と成長がわかる、アフォリズムと冷たいスノビズム混じりの“意地悪”な作品ばかりで興味深い。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。