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失敗

また…ダメだった。

僕はホントに、何をやってもダメな人間、だ。

これまでの人生を振り返っても、上手くいった試しなんて一度もない。役立たずで、クズで、ノロマで、不器用。おまけに、人と仲良くする事だって、僕にとっては難しい。だから、友達と呼べる人間なんて、僕にはほとんどいない。何をやってもダメなのは、自分でもよくわかってる。だってこんな人間が何をしたところで、上手くいく、ハズがない。けど…。

「すいませんでした!」
「本当にお前はクズだな、もういい!さっさと失せろ!」
「はい…。」

こんな僕でも、一応、就職はしている。名もない企業だが、それでも、僕は採用された事に感謝をしている。だから、会社に貢献できてない僕は、クズ、と呼ばれて当然なんだ。

「お疲れ様でした!」
「・・・」

だからこそ、挨拶だけはキチンとするようにしている。返事はいつも無いが、僕にはそれくらいしかできることが、ない。

「今日もダメだったな。はぁ。」

帰り道、僕は誰に話しかけるでもなく、ひとりでそう呟いた。

いつになったら、上手くいくようになるんだろう。僕にはそれが全然わからなかった。そもそも上手くいくことなんてあるのだろうか。いや、でも、他の人、は上手くやっている。出来てないのは、僕、くらいだ。

毎日毎日、雑用ばかりで、なかなかちゃんとした仕事をもらえてないし、そもそも僕は期待されていないのだろう。雇ってもらえてるだけ、ありがたいと思わなければ。

けど、そうは思っていても、ホントは僕だって、『ちゃんとした仕事』をして、会社の役に立ちたい。そして、認められたい。

そんな他の人にとっては当たり前のような事が、僕の『目標』だった。

ガシャンッ!

音がした方向を見ると、自転車が倒れていた。風の仕業か、それとも、誰かが当たった拍子に倒れたのかな。

「よいしょっと。」

倒れた自転車を起こすと、僕は帰路に戻った。

誰も見ていないし、誰に感謝されることもない。下手をすれば、僕が自転車を倒したようにみられているかもしれない。けど、もともとクズの僕はそう思われたところで、痛くも痒くもない。

小さい頃、親が教えてくれた言葉がある。

「人にされて嫌なことは、絶対にしてはいけません。けど、人にされて嬉しいことは、どんどんやりなさい。」

例えば僕の自転車が倒れたとして、それを見つけたら僕は少し嫌な気分になる。けど、倒れた自転車を誰かが起こしてくれたのなら、僕はその人に感謝するだろう。

この言葉が今も、僕の判断基準になっている。

帰路の途中、僕はご飯を買いにコンビニに入った。毎日のように通っている、行きつけのコンビニだ。僕はここでいつも、弁当とデザート、それにブラックのコーヒーを買って帰る。

慣れた手つきで商品をかごに運ぶと、僕はレジに並んだ。

「全部で689円になります。お弁当は温めますか?」
「大丈夫です。カードで。」

店員さんとのやり取りもいつも通り。支払いは、携帯電話会社が発行しているチャージ式のプリペイドカードだ。

店員さんはそれを知っていて、僕が言うより先にクレジット決済の画面を出してくれている。僕はその事が少し嬉しかったりもする。僕の存在が誰かに認識されている、というその事実が。

「いつもありがとうございます!」
「ありがとうございます!」

コンビニを出ると、もう自宅までは目と鼻の先だ。家につくと、すぐに弁当をレンジにつっこみ、ベッドに少し横たわる。

家にはテレビがない。あるのは、ベッドと着なれた服、お気に入りの小説といくつかの自己啓発本、そして、ノートパソコンだけで、生活感はあまりない。けど、僕はこの空間が好きだ。

テレビがあると僕は夜更かしをしてしまって、よく会社に寝坊した。だから、独りで暮らすようになってからはテレビを置かなくなった。代わりによく本を読んでいる。

本は昔からよく読んでいて、昔は本を買うお金も無かったから、同じ本を、何度も、何度も、読んだ。表紙が破けて、文字がかすれて読めなくなるまで、僕は同じ本を読んだ。それも、漫画とか、ストーリーのある本で、続きを読めないから、先の話は、自分で想像していた。

本は面白い。なんでかって、本の中の主人公は決まって、強くて、かっこよくて、優しくて、僕にないもの、を全て持っていた。僕はそんな本の中の主人公に憧れていた。そして、そうなりたいと、今も思っている。

チンッ!

レンジの音がなったので、弁当を取り出し、コーヒーのフタをひねった。

「いただきます。」

ひとりでそう言うと、僕はコーヒーを片手に、弁当を食べた。弁当を食べながら、最近のコンビニ弁当って美味しくなったよな。なんて、くだらない事を考えていた。弁当を食べ終わると、僕はデザートに買ったシュークリームを頬張りながら、LINEをチェックした。まぁ見たところで、通知が来るのは2-3日に1通くらいなんだけど。友達って、どうやったら増えるんだろうか。そんな事を考えてる時点で末期かもしれない。

「ごちそうさま。」

シュークリームを食べ終わると、僕は何度も読んだ自己啓発本に手を伸ばした。

『これさえ読めば人生が上手くいく!今日から実践できる10の成功法則』
(※実際には存在しません。)

自己啓発本を読んでいると、僕だって、今よりはできるようになるんじゃないか、って勇気をもらえる。だって、成功を収めた人も、最初から上手くいっていた訳じゃない。たくさん失敗して、でも、そこから学んで、毎日一歩ずつでも前進していたから、最終的に成功する事が出来たんだ。それなら、僕にだってできるハズだ。いや、出来ないハズがない。

本を閉じると、僕は日記帳を開いた。毎日欠かさず続けていて、5年以上は続けてると思うけど、はっきりとは覚えていない。ノートも今で10冊は越えてたかな。

日記を書き終えると、僕は遅くならないうちにベッドに潜り込んだ。

~7月5日(木)~
今日も失敗して、上司に怒られた。この間よりはいい出来だと思ったんだけど、まだまだみたいだ。でも、手応えはある。明日は、明日こそは、絶対に上手くいくハズだ。毎日毎日、怒られても、頑張ってきた。努力は必ず報われる。だから、きっと上手くいく。だって、本にもこう書いてある。

『途中で諦めるから失敗になる。諦めずに最後までやり通せば成功になる。』

だから、僕は諦めない。諦められない。上手くいくまでは。今までの努力を、失敗、で終わらせたくないから。

-おわり-

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