時鳥(ホトトギス)の兄弟
むかしむかし、時鳥には大へん親切な善い弟があったのだそうです。
毎年五月にな ると山に行って沢山の山の薯を掘って来て、煮て一番おいしいところを兄さんに食べ させました。
それを兄の方ではまだ疑って、弟がもっと旨い山の薯を、自分では食べ ているのだろうと思って、しまいには憎んで庖丁を持って来て、その優しい弟を殺し たのだそうです。
そうして弟の腹を裂いて見ると、中からあわたという筋ばかり多い 薯が出て来ました。これは悪い事をしてしまったと、後悔して悲しんでいるうちに、 とうとうこの鳥になってしまったのだそうです。
だから今でも山の薯を掘る時節にな ると鳴いて方々を飛びまわります。
よく聴いているとあの声は、
おとと恋し
掘って煮て食わそ
弟こいし
薯ほって食わそ
と言って啼くのだそうであります。(越中)
柳田国男 日本の昔話より
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