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【亡霊殲滅伝奇譚 -ゲシュペンスト-】 第9話

※本作の概要については、こちら をご覧ください。

第8話は、こちら へ

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 人口九十万人を越える都市――風座見かざみ市。その風座見市西部に位置する栄都えいと
 風座見市を南東から北の海へ抜ける鴉野からすの川以西はかつては漁業中心の田舎町でしかなかった。しかし、高度経済成長期に港湾施設としての機能を見出されてからは港湾運輸業と工業地帯郡の開発によって、開拓と埋立が急速に進み、今や一地方に収まらぬ港湾都市へと変貌を遂げた。また、六年前に近県で発生した大地震による津波被害を契機として、県を跨いでの官民連携のニュータウン再開発事業も進んでいる。三年前には複合型大規模ショッピングモールが整備され、そうした商業施設群を取り巻くように住宅街が広がった。住宅街から程近い沿線上には至る所に開発中のビル群が乱立し始めている。それらは未来の風座見市を象徴するオフィス街に他ならない。そして、その第一手として市の中枢機能を担う市庁舎が東部の蔵間(くらま)町から移築されたのは今年初めのことになる。
 そんな完成間もない市庁舎前のロータリーに、場違いな漆黒の跳ね馬が一台停車する。
 フェラーリ・F430クーペ。流体力学を緻密に計算し尽くしたその流麗なるボディラインは、前作360モデナを彷彿とさせながらも、さらにもう一段上質に研ぎ澄まされている。V型八気筒DOHCエンジンの咆吼はそんな漆黒の猛馬に相応しい唸りである。
 そんな漆黒の跳ね馬の運転席から現れたのは、ブロンドヘアの美女である。一目で異邦の血が混ざっているとわかる顔立ちにブラックスーツの黒縁眼鏡。その姿は、さながら社長秘書か公的機関の関係者を連想させた。



「この手の仕事はイヤよねぇ、まったく」と、彼女はブロンドの髪をかき上げて言う。

「ねえさまはおシゴトがイヤ?」

 そう声をかけるのは、助手席から降り立った中性的な顔立ちの少年である。その面影には強く幼さが残っている。

「仕事は総じてイヤよ。特に頭の堅い連中に一から物事を理解させるのは骨が折れるわ」

「じゃあ、夜の狩人に戻る?」

「それはもっとイヤね。来る日も来る日も亡霊ゲシュペンストの相手をして生死を綱渡りするくらいなら、人間相手のほうがまだマシよ」

「だったら、文句言うのはオカドチガイ?」

「ヤヨイ、あなた日本語上手くなったじゃあないの」

「ボク、ねえさまに褒められるとウレシイ」

「でも、ヤヨイの言う通りね。仕事に対する文句は言うべきではなかったわ。モチベーションが下がるし、そもそも何も得るものがないわ。――ん?」

 二人が庁舎に到着したのを見計らったかのように女性の端末が着信を伝える。

「ミクリヤ、到着したな」

「ええ、予定通りよ。ヴィンセント」

 男にしては透き通った声音の電話主は感情を込めず淡々と告げる。

「任務の詳細を伝える。そのまま庁舎に向かえ。ロビーに案内人がいる。通されるのは第六会議室だ。県知事と市長、それから政府にパイプを持つ大物政治家が二名いる」

「いつものご説明係ってわけね」

「事前に運び込んでいる対霊棺やその他機材は好きに使って構わない」

「わかったわ」

「君の任務の成功を祈っている。では」

 通話は一方的に終了される。

「ねえさま、電話の相手は?」

「ヴィンセントよ。仕事の内容はいつも通りだって」

「そう、なら良かったね。命の心配はない」

「そうね。私たちの命の心配はないわね」

 二人は連れだって庁舎内に向かう。ロビーに足を踏み入れるなり、早々声をかけられる。

「ミクリヤ様ですか? 市長らが三階の会議室でお待ちです。どうぞ」

 男に従って二人はエレベーターに乗り込む。

「いやぁ、でも驚いたなぁ~」

 エレベーターの密室になった途端、男は力を抜いて気楽に話しかけてくる。

「賓客の方が外国の人だとは思いませんでしたよ」

 県知事市長に面会する賓客、表向きはそのように事が準備されているようだ。

「どちらの国の出身なんですか?」

「……」

「そうだなぁ、やっぱりその髪を見るにアメリカとかイギリスですか? それとも北欧?」

「……」

「けど、名前は日本人っぽいしなあ。……そっちの少年は日本人じゃあないかなぁ? どうです? そうでしょ?」

「……」

「なんだか不思議な組み合わせだよなぁ。おたくら何者なんです?」

「あなた」

「は、はぁ? なんです?」

 女性は笑顔と同時に殺気を込めて男を睨め付ける。

「ちょっとおしゃべりが過ぎるわよ?」

「……あ、えっと……」

 蛇に睨まれた蛙のごとく、案内役の男は固唾を呑んで口を閉ざした。まさか、ここまで殺気混じりに声を飛ばされるとは予想だにしていなかったのだろう。

「こ、この会議室です」

 案内されたのは予定通りの第六会議室だった。

「ど、どうぞ……」

「案内、ありがとう」

「それでは、私は、これで」

「あなたも中に入りなさい」

 それは唐突過ぎる提案だった。

「え? 私もですか?」

「ええ、あなたも、よ」

「でも、私なんか部外者が……」

「いいの。さあ、入って」

 男は女性の放つ風格に気圧され、断ることができない。

「わ、わかりました」

 そうして、案内人と謎の少年、それからブロンドの女が会議室内に入った。
          * * *

 風座見市庁舎三階。その第六会議室では四人の男たちの声が響いていた。

三崎みさき知事! これはいったいどういう会合なのだ?」
 肥えた禿頭とくとうの人物が声を荒げて言い放った。彼は政府関係者に強い影響力を持つ政治家――山岸やまぎし剛志たかし。民和党の次々回幹事長候補とも囁かれる人物である。

「いや、それが私にもさっぱりでして」

 そう答えるのは額の汗を拭う糸目の男。名を三崎健次郎けんじろうという。県知事である。

「さっぱりだと? 君は我々を呼び出しておいてそんな態度を取るのか? 我々も暇ではないのだぞ!」

「いや、ですから私が呼び出したわけではなく権堂ごんどう市長から要請を受けたわけでして」

「ならば、この会合は権堂市長の一存だと?」

「いえ、そう言いたいわけではなく……」

「権堂市長! あなたはなんと聞いたのだ?」

「すみません。私は先生方からの会合提案だとばかり思っておりました」

「そんな馬鹿な話があるか。我々は三崎知事から呼ばれ、三崎知事は市長から呼ばれたという。その市長は我々からだと? 一体どうなっているのだ!」

「まぁまぁ山岸くん。それくらいにしないか。定刻の時刻まではまだある。もう少し落ち着こうじゃあないか」

「しかし、このような無駄な時間を過ごすのは……」

「山岸くん」

「せ、先生……。わかりました」

 落ち着き払って山岸を制したのは白髪の老人、大物政治家――黒峰くろみねただし議員である。
 昭和の時代、一野党でしかなかった民和党をまとめ上げ今の与党にまで押し上げた立役者だ。今でも無名政治家の後ろ盾を買って出ては次々と彼らを当選させ、内閣府の重要ポストに人を送り込んでいる。大臣や総理の座すらも彼の一声で動きかねない、黒峰派と呼ばれる会派を牛耳る大物中の大物である。

「会合の目的は一旦別として。権堂市長、私はいくつかお尋ねしたいことがある」

 黒峰は皺を揉むように手を握り込む。

「はい、何でしょう」

 先の山岸からの言葉にも、また今の大物政治家である黒峰の呼びかけにも一切狼狽えず、真っ直ぐに見返すのは白髪交じりに銀フレームの眼鏡をかけた男性だった。あと幾年もすれば還暦を迎えるというのに今だその瞳に曇りはない。彼は風座見市長、権堂きよしである。

「我々が招集されるにあたって、不思議なことがありはせなんだかね? 権堂市長」

「不思議なことですか」

「ああ、これは私の話なんだがね。元々この時間は党幹部らとの会食の予定になっていたんだ。しかし、それが急遽キャンセルになった。党幹部の誰に聞いても何の事情でキャンセルになったのかを知らない。ただそういう連絡があった、皆口々にそういうばかりでね」

「それは不思議なことですね」

「あるのかねぇ、そんなことが。私の耳に入らぬところで事が動くなどと言うことが」

「黒峰議員の事情は把握しました。なぜそのような事態になったのか私には理解も及びません。しかし私にも似たような不思議なことがありました」

「ほう。似たようなことが」

「はい。本日のこの時間は市職員との定例会議の時間になっておりました。しかし、欠席者が多発して実施が困難になったのです。人によって事由は様々ですが、政府要請の緊急対応を余儀なくされた職員が多数です。しかしその内容については緊急性を認めるものは少なく、私どもも困惑しているところです」

「権堂市長もですか。まったく世には不思議なことがあるものですのう」

「黒峰議員、私には何者かがこの時間この場所に我々を集める意図があるように感じます」

「ほっほほ。私たちを集めるためにか。成程。それは面白い」

 老獪ろうかい黒峰は笑いを浮かべ頷くと、

「権堂市長。私も今同じ事を考えておりましたぞ。何か良からぬ事案を持ち込まれるのは往々にしてこんな空気の時だ。――さて、定刻まであと十秒。鬼が出るか蛇が出るか見届けようではないか」

 時計の秒針の進む音だけが会議室を支配した。

 五……四……、三……二……、一。

 ガチャリッ。全員の視線が音のした扉に向く。
 会議室に入ってきたのはブロンドの髪に黒縁眼鏡をかけた異国の女性だった。背後には彼女の案内役を担った市職員も控えている。彼女は場に集う政治家や知事、市長、その秘書らにひとしきり視線を這わせる。そして、浅い溜息を吐いて言う。

「はぁ……なによ、これ。まったく、ひどい有様だわ」

「なんだ貴様は!」

 開口一番、山岸が口角に泡を溜めて誰何すいかした。しかし女性は、そんな誰何なぞ聞こえぬという態度でかつかつと進み出ると、大仰に言い放つ。

「さてさて皆様方、本日はお集まりいだき誠にありがとうございます。本日の会合を準備させていただきました、チカゲ・ミクリヤと申します」

「チカゲ・ミクリヤ?」

 市長は各々に視線を配る。しかし、秘書ら含めて皆この女性を知らぬという意を示す。

「チカゲ・ミクリヤさん。あなたは何者なのですか? 所属や部署をお伺いしても?」

 権堂市長が問うた。

「お初にお目にかかります権堂市長。私のことは、ミクリヤで結構ですわ。今は県警察本部の公安特務課に籍を置く公務員でございます。が、元はとある国際機関の捜査員であったとご理解いただければと思います」

「とある国際機関とは何処だ!?」と、山岸が食いつくように声を飛ばす。

「山岸議員。残念ながらそれをお伝えすることはできないのです。しかしあえて説明をするならば、合衆国中央情報局CIAや連邦捜査局FBI、ロシア対外情報庁CBPやソ連国家保安委員会KGB、英国秘密情報部MI6、イスラエル諜報特務庁モサド。そうした国際諜報機関を長年裏から束ねてきた組織。そのようにご認識いただければと良いかと」

「裏から束ねてきた組織だ? 子供の妄想じゃああるまいし、そんなものがあるものか!」

「山岸議員。それがあるのですよ。あなたが知らないだけで」

「……なッ!」

 ミクリヤの挑発混じりの言葉に山岸は顔を強ばらせる。

「信じられるか、そんな話」

「山岸くん」と、彼の怒りを収めたのはやはり黒峰だった。

「ミクリヤさん。あなたの立場を信じる信じないは一旦保留にしよう。けれど、要件があって我々をここに集めたのだろう? それを伺おうじゃあないか」

「ありがとうございます、黒峰議員。本日、私は皆様にこの風座見市の危機的状況をお伝えすることを目的にここに来ました」

「ほぅ、危機的状況とな」黒峰議員が頬を撫でて復唱する。

「はい。災害規模の危機的状況です。皆様年間この国で消えている行方不明者の数をご存じでしょうか。年間八万人とも九万人とも言われています。これは人口九○万人の風座見市に換算するとおよそ五千四百人程度というのが妥当な数字になります。しかし現在、この数を大幅を超える行方不明者が発生しています」

「市長、それは本当なのかい?」と、三崎知事が権堂市長に問う。

「ええ、事実です。一万六千人程の行方不明者がでています。これは年間行方不明者の実に三倍に上ります。我々のほうでもなぜそれだけ多くの行方不明者が発生しているのか原因究明中ですが、核心には至っておりません。行方不明者の中には要人も含まれており、目下追跡調査中ですが、結果は芳しくなく。実態掴めぬというのが現状です」

 ミクリヤは組織から提供された限りなく詳細が記された資料を机に置く。

「その数はこれからさらに増えることが予想されます」

 机に置かれた資料に目を通す三崎知事と権堂市長。

「この数字は見過ごしがたいな、権堂くん」

「はい。偶然と片付けるには難しい数字です。しかしこの資料……我々が把握している数よりも若干多いですな」

「これ以上の行方不明者発生はなんとしても避けなくてはなりません。我々の組織をもって対応中ですが、限界が近くなりつつある」

「対応中? つまり、貴様の組織はそれだけの行方不明者が出ている原因を把握しているということなのか?」と、山岸議員がミクリヤに声を荒げて問う。

「ええ、把握しています」

「それはいったい何……、なんだ?」

 ミクリヤは全員の顔を見渡して大胆に言う。

「――お化けです」

「お、お化けだと?」

 権堂市長はそれまで信じかけていた彼女への信頼を疑う。

「お嬢さん、大人をからかうものではないな」

 黒峰議員も失笑を禁じ得ない。しかし、女性は至って真面目な態度で続ける。

「この市で大量の行方不明者が発生しているのは、亡霊と呼ばれる、お化けが原因です。これは疑いようのない事実です」

「何がお化けだ。バカバカしい」

 山岸の視線を受けて、そこで初めて、ミクリヤは小さく笑った。口許に称えられた笑みには薄気味悪さすら感じさせる。

「ふふ、それをあなたが言うのは実に面白い」

「どういうことだ!」

「――ヤヨイ、霊髄共鳴エリキシルレゾナンツ

 ヤヨイと呼ばれた少年が一度深く目を瞑り、そして大きく見開く。それ同時、周囲の空気が一変する。背筋を痺れさせるひりつくような波が少年を中心に広がる。

「なんだ? 今のは」

 初めて感じる奇妙な感覚に権堂市長は嫌な予感を覚えて、椅子から降りて腰を低くした。

「さて、人間の皆様方は机の下に隠れるご準備を。善処は致しますのが、ご自身の身はご自身でお守りください。――ではでは、参りましょうか」

「ギィギャァァアアアァァァァァァ」

 轟いた咆吼は三つ。咆吼の主は、ミクリヤに絡んでいた山岸議員と、その横に坐っていた秘書。そして、もうひとつは、ミクリヤとともに会議室に入室した市の職員だった。彼らが一様に口から人のものとは思えぬ絶叫を上げている。

「な、なにが起こっていると言うのだ!」

「その目でしかと見届けてください。これが風座見市で起こっていることですよ、市長」

 変貌はすぐに訪れた。絶叫を上げた三人のスーツが筋肉に押し上げられ膨らみ、破れ弾け飛ぶ。ついで、顔面は肉食獣を彷彿とさせる異形の相貌へと変質し、巨大な犬歯が顎下まで伸びる。指の爪は二○センチメートル以上伸び、会議机に突き立てられる。異形と化した山岸がその鉤爪で横薙ぎに払った重厚なソファ作りの椅子は、壁にぶつかると紙細工のごとく一瞬で形を無くして砕かれる。

「これはいったい……」

「亡霊。人に仇なす人類の敵です」

 権堂市長は思う。こんな異形の怪物が人類の敵だと!?

「――完全に起きる前に殺ってしまうよ、ヤヨイ」

「はい、ねえさま」

 ミクリヤは身をひるがえして会議机の上に滑り乗ると、後方で異形と化した市職員に一発の弾丸を放った。弾丸は蒼い閃光を軌跡に残して、的確に敵の眉間を捉えた。

「アギャァアアアアアア!」

 声を上げて蒼き炎に包まれる異形。

「ヤヨイ。残りの二匹、縛りつけて」

 ヤヨイの手が宙空の何かを手繰るように動く。残る二匹の異形は、怯み瞠目していた黒峰議員に喰らいつこうとしていた。が、その牙は寸前でぴたりと硬直する。

「ぁ……ああ……」

 政界の老獪、黒峰議員も突如として巻き込まれたこの状況にはまったく抵抗できず、ただただ狼狽するより他なかった。

「ウグルゥゥウウ」と、山岸だった怪物が唸りを上げる。

「滑稽ね。あなたたちじっとしていれば気がつかれないとでも思っていたの?」

「お前らにこんなことができるなんて聞いてねぇぞ!」

「はは、それはそうでしょう。執行者ヘンカァー出会でくわした亡霊はことごとくが消されるのだから」

「小うるさい女め。今すぐ喰い殺してやる!」

 標的を黒峰からミクリヤに移した異形だが、身体は軋みを上げて動かない。

屍念ガイストごときにボクの糸縛しばく操術そうじゅつは破られない」

 二匹の異形を押し留めているのはシンッと張り詰めた数ミクロンにも満たない琴線だった。しかし、たったそれだけの琴線に絡め取られた二匹の怪物は身動ぎできずにいる。

「グゥルル! 共鳴器オプファーのガキが舐めた真似を」

 琴線に縛り付けられた異形の片方が声を上げる。

「あらあら、舐めた真似をしているのはどちらなのかしら?」

 ミクリヤは口を開いた異形に歩み寄って蹴り倒すと、ヒールの踵で踏みつける。

「人間の、それも政治家の真似事なんかしているあなたたちのほうがよっぽど舐めた真似じゃなあくて?」

「殺してやるッ!!」と、異形が呪うように言い放つ。

「この状況でそんな減らず口が叩けるだけでも褒めてあげるわ。けれど、ここで死ぬのはあなたたちよ」

「うるさ……」

 異形の最後の言葉を妨げ、轟いた銃声は二発。後に残ったのは蒼白い炎を上げて燃え荒ぶ獣の残骸だけである。

「黒峰議員は無事ね。さて、三崎知事と権堂市長は無事かしら? あと秘書の方々も」

「あ、ああ、私はここに」と権堂市長。

「私も無事です」と三崎知事。

 秘書の面々も顔面蒼白でおずおずと床から立ち上がる。

「皆無事で良かったわ。――今見ていただいたのが亡霊です。私もまさかこの狭い会議室内に三匹も紛れ込んでいるだなんて想像していなくて驚きました」

「驚いたのはこちらだよ。目の前であんなものを見せられるとは……」

 権堂市長はハンカチで額の汗を拭う。

「あれが……あの獣のような怪物が風座見市の行方不明者増加に関与していると、そう言うのだな?」

「ええ、ご理解が早くて助かりますわ」

「この世はまったく奇怪よ。政界の魑魅魍魎とは幾度となく対峙してきたが、本物を目にすることになるとはのう」と黒峰議員。

「本来ならば、あなたのような一般人がこのようなものを目にすることはありませんわ。我々、組織の人間が裏で動いて一匹一匹消していますから」

「儂を一般人扱いするか。ほっほ、面白いではないか。よかろう。まずは話を聞こうではないか。のう市長、知事」と黒峰老議員。

「はい、早急に」と三崎知事。

「私も市長として協力を惜しまない。詳しい説明をお願いしてもいいかな」

 市長は自身が対応すべき問題をすでに理解していた。
 風座見市は今や異形の怪物が跋扈する都市と化している。その事態を解決せねば、行方不明者は増え続け、いつかはこの都市そのものが崩壊しかねない。
 権堂潔は、そうした正しき危機意識を抱き、ミクリヤと名乗る女性を見つめていた。
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