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また会いたくなった夏

お盆明け初日に行った美容院はとても閑散としていて、広い室内の中で私と担当美容師さんの声だけが響く。なんとなく行きつけの美容院を変えてから今日で3度目。出国直前ということもあって、縮毛矯正やカラーを念入りにしてもらった結果、静かすぎる空間で4時間弱も過ごしていた。まだその美容院に通い始めたばかりだが、帰り際「頑張れ」と美容師さんが心地よく私の背中を押してくれた瞬間、なぜか胸が高鳴った。それは扉の向こう側に真っ青な青空が広がっていたからだろうか。いよいよ旅が始まる予感がした。

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夏風邪を拗らせ続けること2週間。半年強働かせてもらったインターナショナル幼稚園の最終出勤日も全くと言っていいほど声が出なかった。もともと子どもが得意な方ではなかったが、子どもたちと毎週顔を合わせる中で、そんな苦手意識はいつの間にかどこかへ消えていた。思いやりの心を持った優しい園児たち。やはり彼らの成長速度はとても早く、半年という短い期間でも何度か感動して涙が出そうになったことがあった。しかし、私は保育のプロではないので、日々慣れないことの連続だったが、何気ない瞬間「先生大好き」と言ってくれる子どもたちに何度も心を救われた。

そんな幼稚園の最終出勤日。声が出ない役立たずな上、偶然その日は普段一緒に働いているブラジル人の先生が体調不良でお休みだった。多文化な職場で初めて仲良くなった先生に会えなかったのは少しショックだったが、その日は代わりにインド人の先生が来てくれて、最終日なのにも関わらず非常にイレギュラーな1日を送っていた。

流れていく時間を惜しみながらも、気づいたらさようならの時間になっていた。そこで初めて子どもたちに今日が最後の出勤であり、これから海外に住むんだということを伝えた。しかし、子どもたちの表情は依然きょとんとしている。そんなもんだよなと思いながら帰りの支度を手伝っていると、気づいたらたくさんの園児が私にハグをしてくれた。笑顔で「また会おうね」と言ってくれた園児たち。そんな姿を目にして心がじんわりと温かくなった。朝から声が出なかった私はそんな子どもたちにたくさん声をかけてはあげられなかったけど、その分私も彼らをしっかりと抱きしめた。とても愛おしくて嬉しかった。

退勤前にはスタッフの方々からも素敵なプレゼントをいただいた。海外経験がある方が多いこのバイト先はフレンドリーでさっぱりとした方が多く、とても居心地がよかった。短い期間ではあったが、この出会いはきっと忘れることはないだろう。そう思いながら幼稚園の校舎を後にした。

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8月お盆の帰省シーズンには、毎日のように遊びに出掛けた。久しぶりに会う友達と「愛知県民なのに名古屋飯だけを食べる会」を開いた日もあれば、友達の運転で大雨の中、静岡へさわやかと浜松餃子を食べに行く旅をした日もあった。会ってくれる人がいること、あの頃と変わらず笑い合える関係。中学や高校で毎日のようにつるんでいた部活仲間たち。こんなにも誰かに会いたくなった夏は今年が初めてかもしれない。

梅雨が明けてからはバイクにも乗るようになった。暑くて溶けてしまいそうな日のツーリングでも、私には関係なかった。残された地元での時間をゆっくりと惜しむように味わうこと。人を想い、大好きな人たちと過ごした彩度の高いこの夏を忘れたくはない。そして、来年もこんな夏に出会えたらなと心の中で願い続ける。

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今日は記事と関連させてとあるドラマを紹介して終わりにする。人々の優しさや若さが観ていて清々しい。夏夜のお供におすすめしたい。

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