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「ジャックジャンヌ」というゲームをプレイしてみた

久しぶりに会った友人にお薦めされたことが、そもそものきっかけだった。

ちなみに「ジャックジャンヌ」とは、コンテンツ制作等を行っている株式会社ブロッコリーにより2021年3月にSwitch用として発売されたゲームソフトだ。その内容は、男子校であるユニベール歌劇学校に性別を偽って入学した少女を主人公とした青春群像劇であるらしい。
いわゆる乙女ゲーと呼ばれるシミュレーションゲームである。

今回はそのゲームをプレイした感想を下手くそなりに文章にまとめてみた。ゲーム批評などという大層なシロモノではなく、単なるヘタレプレーヤー一個人の感想であり、なんの参考にもならない雑文だが、もし万が一これを目にして「やってみようかな」と思う人が一人でもいたなら幸いである。

かつては私も、乙女ゲーと呼ばれるゲームをいくつかプレイした経験がある。それなりにハマッたりもした。しかしデジタルコンテンツのキャラに萌え滾っていた日々はすでに遠く、現場から離れて久しい。しかも「ジャックジャンヌ」は非常に簡単ではあるが、リズムゲームの要素もあるというではないか。いやいや、太鼓の達人すらやったことのないこのワタシがいまさら音ゲー?
なので、正直あまり気乗りはしなかった。

我が家のSwitchは今現在、完全にリングフィットアドベンチャー専用と化しつつあるので、単純にソフトを交換するのが面倒だなという気持ちもあった。
それでも私を動かしたのは「とにかく曲がいいのよ」と語った友人の熱意である。彼女がそれだけ気に入ったのなら、やってみてもいいかもしれない。

私は重い腰を上げた。
それが今年の春のことである。
月日が経つのは早いものですね。いや、まったく。

冒頭部分だけはすぐに見たものの、気づいたら半年近く経っていた。そうこうするうちに彼女と再び会うことになった。これはヤバい。そろそろソフトを返さなくちゃならんと慌てて続きをプレイし始めたら…………止まらなくなった。
なぜかって?
ただもう、単純に面白かったのだ。

制作陣に平身低頭で詫びよう。私の眼は曇っていた。

そもそも乙女ゲーとは、主人公の女の子が周りを取り巻く男子たちにやたらと褒められ、モテまくり、アプローチされまくるのがおおよそ基本。例外作品もあれど、だいたいそんな感じだ。(前述の通り、最近の作品はまったく未プレイなので、あくまでも昔私が体験した作品の主な印象に過ぎないのだが)

一方で女の子が性別を隠して男子の集団に潜り込むというパターンも少女漫画などで何度か見かけたことはあるが、どう考えても無理があるでしょ。男の子のふりしてるのにみんなにモテまくるの?たとえ寮の部屋が個室だろうと,バレないはずがないのでは?バレるけど秘密共有してもらって愛を育む路線なの?

プレイ前はそんな色眼鏡で見ていたこともあり、正直あまり気が進まなかったのだ。女の子が性別を隠して男子校に潜り込む設定と聞いただけで「ああ、ハイハイ、リアリティ皆無なやつね」というなんとも失礼な印象を抱いていた。
今ではとても反省している。

固定観念というやつがいかに厄介で邪魔なものか、改めて実感した。友人の強力プッシュがなければ、私は無駄な固定観念のせいでこの物語に永遠に出会うことができなかっただろう。感謝カンゲキ雨あられ。持つべきものは同じ趣味を持つ良き友である。

まぁ実際、リアルに考えれば荒唐無稽な話だ。けれども物語に厳密なリアルは必要ない。途中でいきなり現実に引き戻されるような引っかかりを覚えないだけの「らしさ」があれば、それでいいと私は思っている。

このゲームの舞台、ユニベール歌劇学校は完全な男子校だが、男役をやる生徒をジャック、女役をやる生徒をジャンヌと呼び分けている。要するに宝塚の逆バージョンだ。
そして宝塚同様、生徒たちは寮で生活をしながら日々歌やダンス、演劇について学び、年に五回の舞台公演でその成果を披露しているのである。春公演は新入生を中心とした新人公演、夏公演、秋公演、冬公演、そして一年間の総決算であるユニベール公演。主人公はクラスの仲間と共にこの五つの舞台に立つ。

舞台の場面で使用される楽曲が、どれも非常に素晴らしいのも特筆すべき点だ。声優陣は演技だけでなく数々の歌でも魅了してくれる。おまけに春夏秋冬の四公演は全ルート共通だが、最後のユニベール公演だけは選択した攻略キャラによって演目の内容が変わるのだ。物語のクライマックスが舞台のそれと重なり合い、それぞれのキャラの特性がよく表れている一番の見どころを堪能できる。

ちなみにクラスは四つあって、ダンスが主流のオニキス、歌唱がメインのロードナイト、天才を集めたと称されるアンバー、舞台経験がない者も含まれる玉石混交のクォーツ。
歌やダンスが未経験の主人公が入るのはもちろんクォーツだ。そこはかつて、彼女の兄が在籍していたクラスでもある。

主人公、立花希佐の兄である立花継希はユニベールの至宝と謳われ、将来を嘱望されていたにもかかわらず、ある日突然姿を消してしまっていた。現在も消息不明であるらしい。その後、希佐は偶然校長と出会い、出された条件を呑んで性別を偽って入学することを決意。立花継希の身内であることを秘したまま入学試験を受け、クォーツに配属される。

で、その入学試験で最初に声をかけてきた織巻寿々が主人公をまじまじと眺めて「女じゃん」と言うのだ。
「すげー、どっからどう見ても女じゃん。やっぱユニベールってこういう奴が来るんだな」と。
いかにもジャンヌ的な容姿を持った受験生だと判断されたわけだ。

同じクラスの先輩にも(攻略対象なのに)美少女的な容姿を持つキャラが出てくるし、ジャンヌの割合が多いロードナイトに至っては日頃から所作や服装、言葉遣いまで女子に徹している生徒も出てくる。「彼女」たちはレッスン前後の着替えすらも女子の如くジャックには見られたくないと主張する。なんと都合のいいことか。

おかげで主人公は「隠そうと意識しすぎると不自然になってしまうから、あまり意識しすぎないようにしよう」と思うわけだ。
ちょっと笑ってしまったが、画面を見ているこちら側もロードナイト女子たちを眺めているとそういう気分になってくる。うん、これが有りな世界線ならバレないバレない。大丈夫。自信を持っていいよ、希佐ちゃん。

結果として、心配していたような興ざめ状態にはならず、ユニベールの日々を堪能できた。
私はロードナイト女子たちと共に、彼女たちのクラスのジャックエースである御法川先輩がもう超絶、大大大好きである。
彼はとってもいい人。御法川先輩に幸あれ。脇役の中では断然イチ推しだ。少しでもこのゲームに惹かれた人は、ぜひプレイしてみて彼の良さを知って欲しい。

さて、ここで大事な情報をひとつ。
Switch版と今春発売されたアプリ版の一番大きな違いはリズムゲームの有無だ。
本来は公演で披露する歌劇に合わせてユーザーがリズムゲームで得点を出し、それによってクラスの成績が変わる仕様なのだが、アプリ版ではこれが不要となっている。つまり労せずしてクラス優勝が獲得できる。

私は最初、友人から借りたソフトでプレイしたのでもちろんリズムゲームをやった。幸い難易度を選択できるので音ゲーが超不慣れな私でも難しくはなかった。ただ面倒臭い。
そしてもっと面倒なのがレベル上げだった。
歌、ダンス、座学など授業内容のレベルを上げることが必須なのだ。正しい選択肢を選んでもレベルが上限に達していないとベストエンドを見られない仕様なので、ストーリーの合間に毎日どのレッスンを受けるか選んでレベルをアップしていくという作業が入る。
これがとにかく面倒臭かった。
なにせ毎日だから。

しかも体力が減っていくからどこかで休日を入れなくてはならないが、土日にいつも休めばいいわけではない。町で誰かに会うイベントが発生するので、それを見ていないと意中の相手とのエンドにたどり着かない。
この仕様のせいで(攻略をまったく見ずにプレイしたため、最後にした方がいい先輩を最初にやってしまったせいでもあるが)私は狙っていた先輩とのエンドを見られなかった上に、真相ルートでもある主人公ルートのグッドエンドを見てしまった。
最悪だ。
誰とのラブ展開も拝めないまま、一番肝心な核心だけ抜きにして真相エンドを覗き見してしまったのだ。
しかし残念ながら、超面倒なレベル上げやリズムゲームをさらに二度、三度とくり返しながら、各キャラのエンドを見ていく気力はもう湧いてこない。無理。おおよその真相も見ちゃったし。
仕方がない、諦めよう。
友人との再会予定も近づいていたので、私はそこでプレイを終了し、ソフトを返却した。

今年になってアプリ版が発売され、しかも、それにはレベル上げやリズムゲームがないと知ったのは、その友人と会って感想を語り合っていたまさにそのときだった。
「うっそ……あの面倒な作業が必要ないの?」
「しかも千二百円で最後までプレイできるんだよ」
「いや、しかし……もうゲームに課金は……」
もういい大人(今さら)だしね。切り捨てられた非正規の立場(つまり無職)だしね。そろそろゲームに課金するのは止めようと思っていたのに。
渋る私に、友人は笑顔で告げた。
「課金じゃないよ、チケット代」

…………なるほど。五つの公演を観るためのチケット代か。いや攻略キャラが六人いるから全部で三十公演だ。ということは一公演で四十円。配信にしても激安!
まんまと乗っかりすぎである。
我ながら軽いな。チョロすぎる。
でもいいの! 結果、存分に楽しめたから。

アプリ版は思った以上にサクサク進んだ。快適だった。面倒臭さが解消されただけでなく、プレイ時間もいくらか短縮できる。ありがたい。
今度は選択肢も気をつけて、一人ずつちゃんと攻略していった。

攻略サイトで言われているお薦めの順番には多少バラつきがあるようだが、私は三年生のフミ先輩を最初に落とした。
攻略キャラの中で一番スマートな人物だ。もう少し癖があるかと思いきや意外に大人で、やることにそつがなく、結果としてトラブルも一番少なかったように思う。しかもスパダリ。絶対的安心感。ほんとにこいつまだ十代か? 男前でしたよ、彼は。ずっと金賞(学年の最優秀賞みたいなもん)を取り続けているアルジャンヌ(ジャンヌのトップ)だったのに。

次に攻めたのが同期の寿々くん。予想通りの爽やか青春ラブストーリー。ザ・少女漫画の世界! きゅんきゅんしたい人はまず彼から攻めていこう。王道を楽しめる。めっちゃいい奴だし、可愛いぞ。

その次が、同期で主人公の幼馴染みの創ちゃんこと世長創司郎くん。
幼馴染み設定も定番よね。つまり彼だけは最初から主人公の秘密を知っているわけで。大切な兄との思い出も共有している。けれど決して優秀とは言えない彼はコンプレックスを抱えていて、やさしくて思いやりはあれど、後ろ向き思考で根暗な性格。同期の寿々くんとぶつかるシーンもあるので、プレイしていて苦手だなと思う人もいるかもしれない。が、途中から見事なまでに変貌していく彼の成長は必見だ。またしても舐めてました、すんません!

そして四番手が攻略キャラ唯一の二年生、白田美ツ騎先輩。
ツンツンデレ美少女系ジャンヌ。後輩にやさしく、先輩(主に根地先輩のみ)に厳しい人。わりと潔癖。意外に男らしくキッパリした性格で、ズバリと言ってくれることが多い。主人公にとっては頼りになるし、ものすごくいい先輩なんですわ、この人。特に冬公演での彼は最高。

先に述べたように、五つある公演のうち最後のユニベール公演だけは選択した攻略キャラによって演目内容が変わるので、寿々くんとのルートなら彼がジャックエース、主人公がアルジャンヌに選ばれる。

つまりジャンヌである白田先輩と結ばれるルートでは主人公はジャックになるわけで、ちゃんと盛り上がるし(特に二年生の面々がアツイ)それはそれでいいのだけれど、やはり王道キャラたちのルートに比べるといささか流れに無理があると言えなくもない。正直ちょっと苦しい。別にその設定にしなくてもいいやんとなるし、あんまり優勝できる気がしない。
というわけで、やはり白田先輩との一番の山場は共通ルートであるはずの冬公演なのだ。
夏合宿やこれまでのやり取りを経ての、あの冬公演。先輩のやさしさに、全私が泣いた。一番泣けた。なので、白田先輩狙いの人は、まず彼から攻略してみて欲しい。冬公演で泣いてくれ。

そろそろ終盤、五番目の攻略は生徒なのに脚本、演出も兼ねるクロこと根地黒門。
コクトは沼。某攻略サイトにそう書かれていた。
分かる。
かなり癖の強いタイプなので、ギャップ萌えとかに弱い人にはきっと沼なんだろう。このルートが一番泣いたという意見もネットで散見された。刺さる人には強烈なんだろうなぁ。
ただ、白田先輩同様、王道キャラに比べるとやはりラストの公演には多少ツッコミどころがある。彼に振り回される周りの人々を楽しみつつ、陰陽のギャップに萌えていただきたい。
ちなみに共通ルートでは声優氏のしゃべり方が癖になっちゃうくらいセリフが多くて、目立つキャラである。個人的には夏合宿のときのTシャツがウケた。普段は素っ頓狂でやたらと無駄話が多い、愉快な男。だから沼なのだ。

そして最後は、真相ルートに一番近いから最後にやった方がいいよ、という助言を見てからプレイすべきだったと心底後悔した介先輩ルートだ。
イメージ通りというか、なんというか。あの朴念仁の山男、まさかクリスマスイベントのときまで主人公が女子だと本気で気づかないとは。(当然、他のキャラはもっと前に気づいていたのに)驚きである。そしてオナカ(イタチ)が出すぎである。
もっと陰鬱なキャラかと思っていたのだが、ド天然で存外面白い男だった。終盤、開き直ってからの彼は結構いい味を出している。そして、やはり良き先輩でもある。

さて、残すは主人公ルートのみ。いよいよ真相へと向かうときが来た。
全キャラ攻略してからじゃないと最後のベストエンドは見られないので、Switch版でこれを見た方々はすごいと思う。なんという根気強さ。尊敬する。

基本的にはSwitch版で見たものと同じだったので、特別感慨はなかったのだが、やはり分岐してからの最終公演はよかった。
攻略キャラとカップルが成立しないので、最後の公演はなんと主人公が一人でジャックエースもアルジャンヌも兼ねる。とは言っても二役を演じるわけではなく、男でも女でもない、両方の要素を持つキャラという設定でジャックジャンヌとして主役をつかむのだ。ここでタイトル回収である。
両方の要素と言いつつ見た目は女の子だよなぁとは思うが、そこはまぁ突っ込まず。劇の内容も他ルートは基本ラブストーリーなのだが、このルートだけは力強い革命の物語になる。

あまりネタバレしたくないので詳細には語れないが、ラストで主役が銃撃される場面がある。ルートによって撃たれる人物は変わるわけだが、その後のうねりを作り出す理由になることを考えると、このルートが最も説得力があると思う。おそらくこの真相ルートを元に分岐作成しているのだろうから、まぁ当然と言えば当然なのだが。
なので結局ジャックジャンヌってなんやねんと思いつつも、このラストが一番しっくりくるし、感動する。

どの公演の内容も実際に観劇したいくらいで、それぞれかなり好きなのだが、私としては一番好きなのがやはり冬公演。ユニベール公演で一番しっくりきたのは真相ルートだった。
けれども舞台として一番出来がよかったのは、実は創ちゃんルートのユニベール公演ではないかと密かに思っている。
だって、あの舞台を実際に観ていたら間違いなく拍手喝采だ。クラス優勝文句なし。勝てる。それどころか語り草になるだろう。特にラストの観客からの声援はしっかり記憶に残るに違いない。

というわけで、各所に見どころがあり、様々な楽しみ方ができる良い作品だった。

もちろんすべてが完璧というわけではなく、一部、設定としては弱い部分や無理がある点もあったし、校長先生が主人公を勧誘した理由が不自然だという意見も見かけた。
それについてはまったく同意見である。
男子校に女子を入学されるというリスクを負う理由としては、弱すぎる気がする。
ただ、それよりも私個人としては一番大事な「核」を描いてもらえなかったことが残念だった。すなわち主人公の兄、立花継希について、である。

彼が姿を消した理由が真相ルートの最後で明かされると私は思っていた。だから一番最初に開いたエンドの「その後」を見るために全ルートを攻略したのだ。しかし残念ながら描かれていたのは各キャラのその後だけで、真実が語られる場面はなかった。

たとえ主人公は知らないままでも、校長と担任の間で何かしらの会話があると思っていたのだ。
そもそもユニベールの至宝とまで騒がれた人間が突然姿を消したのに、どうして誰も何も言わないのか。その存在がずっとクラスに影響を与えてきたというのに、何かというと継希先輩の名を口にしていた三年生たちでさえ、彼がなぜ消えたのか、今どこにいるのかという疑問や嘆きをなぜ誰も口にしないのか。極めて不自然だ。

兄の存在は主人公の出発点でもある。
物語の始点だ。
だったら、ラストにきちんと答えを用意すべきだろう。

共通ルートでちらほらと見え隠れしている欠片はある。オナカの存在。肝試しで危険な方角に惹かれていった希佐。中座の呪い。そしてラストに聞こえてきた兄の声。散りばめられた断片で察してくれということなのかもしれない。けれども、それはダメだ。大仰な場面は必要ない。ほんの一言、二言程度で構わないからきちんと描いて欲しかった。
それだけが惜しい。非常に残念でならない。

ただ、そうした部分を差し引いてもプレイしてよかったと思えるし、面白いですよと自信を持って推薦できる作品だ。
久しぶりに楽しい時間を過ごさせてもらった。制作会社及びスタッフ諸氏に心からの感謝を。ありがとうございました。

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