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知的好奇心を生かす授業・仮説実験授業 『知的好奇心』

昨日のNoteでは、特に「知的好奇心」を伸ばす実践とはどのようなポイントがあるのか、ということを手繰っていくと、なんと、「ジェネレーター」にたどり着いた。

波多野誼余夫先生はさらに「知的好奇心を生かす授業」とその対極であり、悲しい現実でもある「怠け者」の社会的基盤について書いている。

知的好奇心を生かす授業では、授業を用いた実験を元にして、わかってきたことを波多野誼余夫先生はまとめている。

a. 子どもの持つ信念や先入観の利用

こちらは子どもたちのもともと持っている知識「Prior Knowledge」の話だ。あかちゃんの時でさえたくさんのことを知っている我々は、たくさんのことを常に学び続けている。だが、それが逆にバリアになってしまうこともある。だが、このPrior Knowledgeは利用するに値する。

日常のいろいろな経験から、子どもがまちがった知識や信念をある程度強固に持っている場合がある。このとき、これを利用して子どもに驚きをひきおこすことが考えられる。これには大きく二つのやり方がある。
その第一は、子どもの持つ信念から導かれる予想に反する現象を、教師が示してやることである。

例えば、密度と重さ。これは、多くの「概念変化」研究でも実践されているが、「物の浮き沈みは重さで決まる」という素朴理論を子どもたちはもっている。しかし、実際には重たくてもタンカーは浮くし、小さい鉄球は発泡スチロールより軽くても沈む。

こうしたもともと持っている信念からくる予想に反する現象を見せると、人間の頭はぐるぐると回りだすのだ。

二つ目は、子どもにその信念をどこまでもおしすすめさせ、そこにおのずから「矛盾」や「驚き」を感じさせようとするものである。

これは、過去に書いたSusan Careyの分数の概念変化の際に出てきたInductive Projectionと重なる。発泡スチロールの立方体を半分にし続けても、予想は「なくなる」だった子どもたちは、「なくなることはない」ことに気づき矛盾や驚きを感じることができるのだ。

b. 足がかりになる知識を与える

足がかりはBoot Strapである。足がかりがあることですっぽりと次の知識を学ぶモードに入ることができるのだ。

子どもが前もって強い期待や予想をいだけるほど先行経験が十分でないときは、いまのべた方法は使えない。このときには期待や予想をいだけるような概念や「法則」を与え、これを利用することが考えられる。これにも二つの方法が考えられる。

概念や法則を利用して、それで試行錯誤をしてみることで色々な「驚き」を生むことができる。

第一は、まず大雑把な、もしくは主要な法則のみを与え、これが定着した後、それにあてはまらない事例の存在を示す、というやり方である。

文中に挙げられているのは植物の葉緑素の例である。通常の植物は葉緑素なしでは生存できない。しかし、真菌植物は葉緑素無しでも行きられる。

いろいろな事例を見ていって法則があっていることを確かめていく中で、最終的にそれとは違う事例を見せる。だんだんと信念が出来上がってきたところで「驚き」をつくるのだ。

第二のやりかたは、普遍妥当性のある法則をまず子どもに与えるが、子どもには、はじめから普遍妥当性を持った法則だとは教えないという方法である。この法則の一般性をためす過程で、「これはいつも正しい法則だと信じてよいものだろうか」といった疑問をおこさせようというわけだ。

この方法は数学のような演繹的な思考を用いる教科で役立つ。数の規則性の発見や物理法則などに応用することができるだろう。

c. 既存の知識のずれに気づかせる

子どものすでに持っている情報相互にずれのあることに気づかせて、知的好奇心をひきおこそうとする方法である。「本当はどれが正しいのだろう」といった「当惑」状態に子どもは置かれることになる。そこでこの疑問を解いてくれる情報を求めることへと動機づけられるだろう。

一例として選択肢を提示してそのうちの幾つかを選ばせる、そして集団で討議するという方法が提案されている。

波多野誼余夫先生の『知的好奇心』では「仮説実験授業」という授業方法が知的好奇心を生かす授業の事例として紹介されている。

昨年の2月に逝去された板倉聖宣先生が遺した「楽しい授業」「仮説実験授業」の授業書のつくりは、この「既存の知識のずれに気づかせる」ためにたくさんの子どもたちとの実践から得た「既存の知識のデータベース」と創意工夫に満ちたまさに知的好奇心を伸ばすための授業法である。

既存の知識を活かしつつ、仮説を立ててみんなで議論して実験してみて、楽しく学ぶ。これこそ、探究型学習といえるだろう。

ただ続けることを目的に、毎日更新しております。日々の実践、研究をわかりやすくお伝えできるよう努力します。