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自己調整(セルフ・レグ)とセルフ・コントロール信仰 『「落ち着きがない」の正体』

「メタ認知」といえば、『メタ認知的コントロール』、すなわち、自分がつぎにどのような行動を取るか、「判断」をすることが強調されがちである。

特に「落ち着きのある子」が「今後の学業成績が優秀であった」ことがわかったセンセーショナルな研究、「マシュマロ・テスト」が有名である。

マシュマロ・テスト

1963年にアメリカの心理学者ウォルター・ミシェルが行った実験がある、それは、子どもが人生で成功するための、自制心の重要性を解くときに必ず引用される。

4歳から6歳までの600人の子どもたちを対象に、1個のマシュマロを見せ、「もし食べるのを待つことができたら、あとで2個のマシュマロをあげる」と約束する。

そして、ミシェルはその後の追跡調査によって実験で欲望に打ち勝った子どもたちは、その後も学業で優れた結果を出したことに加え、大学進学率も高く、健康で、依存症や法的問題行動を起こすこともなく、「人生への満足」が高い傾向を示した。

本当に自制心の問題だと片付けてよいのだろうか?

ここで、この実験結果に警鐘を鳴らしたのは、『「落ち着きがない」の正体』を著したカナダの心理学者、ステュアート・シャンカーである。

彼はまず、この研究の確証バイアスを二つ取り上げた。

・古くからある「自制心は成功への鍵となる」という信念を立証したと思わせる結果であること。

・被験者の年齢が、かなり早い段階で自制心の弱さを発見できる証拠として扱われたこと。

この二つによって、「幼い頃から干渉すれば、子供の自制心を強くしてその子の人生の成功を確実にできる」という期待が膨らむことになったのだ。

マシュマロ・テストの問題点

シャンカーは、マシュマロ・テストを自己の理論である「セルフ・レグ(自己調整)」の観点から反証する。

マシュマロ・テストは純然たる「ストレステスト」であり、子どもの覚醒状態によってストレスに耐えられるかどうかが決まるということが研究成果からわかっている。

そして、数え切れないほどの追試で、被験者にかかるストレスを増加させると、マシュマロ・テストの成績を操作できることがわかっている。

たとえば、被験者にきらいなものを思い浮かべさせたり、それを実際に見るように求めたりする。実験部屋をわざと暑すぎたり、寒すぎたり、あるいは人で一杯になるように設定する。課題に取り組むときに大きな音を立てたり、強い匂いを発生させたりしてみる。あるいは被験者が空腹だったり、睡眠不足だったりするときに課題に取り組むよう、実験の時間を設定する。

研究によると、情動的、身体的、あるいは心理的ストレスが大きいほど、子どもはごほうびを先延ばしにするのがむずかしくなった。そこからわかるのは、子どもが衝動に抵抗する能力(ここではマシュマロ・テストの結果)は、なによりもまず覚醒の問題だということだ。

いくつかの解決策を得る「セルフ・レグ」

人は、自ら環境に働きかけることのできる生き物だ。だからこそ、この「セルフ・レグ」が必要なのかもしれない。

セルフ・レグとは、簡単に言ってしまえば、セルフコントロールのように自分で自分の心理状態を征服しストレスを克服するのではなく、過敏になったり、過剰反応してしまっているときに、そのストレス要因をうまく見つけて調整(チューニング)するというものだ。

上にも挙げたとおり、チューニングするストレス要因は意外に簡単なものだったりする。音や光、匂いなど自覚的にはなっていないものが、自分の無意識に働きかけ、ストレスとなってしまう場合がある。

もちろん、緊張する場面も重要ではあるが、メリハリを効かせて、自分の覚醒状態を知り、外界とやりとりする力こそが必要なのではないだろうか。

結局の所「ああしなさい」「こうしなさい」はただ圧迫し抑圧してしまい子どもたちには届かない。いかに、それぞれの子どもの覚醒状態と向き合い、対話していくかが重要なポイントなのだろう。


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