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リマスタリングされたTom Pettyの名盤「Wildflowers」オリジナルと聴き比べた。

故Tom Pettyが1994年リリースした名盤「Wildflowers」。先日リマスタリングされ、アウトテイクやLIVEが追加されたBOXセットがリリースされました。

「Wildflowers」は今でも愛聴盤。1994年当時は音響ハウス(レコーディングスタジオ)に在籍していて、そこの一番大きなスタジオ(第1スタジオ)の全面リニューアルを進めていた。1995年3月20日、上司の誕生日に未完成のままだったが盛大なオープニング・レセプションを行った。いや、行われるはずだった。しかし、その日は朝から地下鉄サリン事件が起きて、被害場所の一つであった築地駅近くの音響ハウスはもちろん、東京中、日本中がパニック。当然、レセプションに訪れる方は片手ほど。スタートから転けたわけです。ただ、レセプション終了後に「Wildflowers」を大音量で再生し完成の達成感に感慨が押し寄せてきたのははっきりと覚えています。

Tom Pettyは自身のバンド”The Heart Breakers"とともにアルバムをリリースすることが多く、世間的にもそれで通っていますが、2017年に66歳で亡くなるまでにSolo名義のアルバムを3枚残しています。ジェフ・リンのプロデュースによる1989年「Fullmoon Fever」、2006年「
Highway Companion」に挟まれたRick Rubinプロデュースによる本作は、3枚の中では一番結果を残していない作品らしいのですが、ざらざらとした荒涼なフォークロック・サウンドは、同じくRick Rubinがプロデュースした故Johnny Cashの「American Recordings 」と通ずるサウンドで、そうとうにシビレました。バンドのメンバーは全員”The Heart Breakers"なのだけれど、プロデューサーやエンジニアが変わることでサウンドが一変する典型です。

2008年にこのアルバムのアナログ盤(レコード)を購入しました。当時、アナログを聴く環境は持っていなかったのですが、飲み友達のオーディオファイル(オーディオマニア)の自宅に素晴らしいオーディオ装置とおいしいワイン、素敵な奥様がいらしたのでたまにお邪魔して酔っぱらっていました。最初は彼らのコレクションを色々と聴かせてもらっていたのですが、そのうちに自分の聴きたいものも持ちこむようになりました。この愛聴盤もアナログがリリースされているのをアマゾンで見つけて即購入。ピノノアール(赤ワイン)と共に持ち込んで聴いてみました。しかし、残念ながら「Wildflowers」のアナログ盤は冴えなかった。ヌケが悪くレンジが狭くなんとも盛り上がらない出来の悪い音でした。CDの圧勝でした。「90年代のレコーディング作品はメディアが完全にCDに移行してるから、それ用の音作りなんだね。まあ、そうだよ」とかなんとか言って平静を装いましたが、内心は激しく落胆しました。しばらく玄関に置き去りにしたぐらいで・・・。

今回、「Wildflowers」が発掘系BOXセットとして発売されたときに蘇ったのはその時の思い出。だから、当初は購入する気はなかったのですが、リマスタリングだというので購入を決めました。製品にはいくつかのバリエーションがありましたが、16bit44.1kHzのCDは不要だし、LIVE音源はAmazon Music HDのハイレゾで事足りると思ったのでアナログ3枚組の一番リーズナブルな仕様を発注しました。

さて、どんな音かというとこれは良いです。おすすめできます!まず、奥行きや立体感がもの凄く出ています。楽器の配置がきちんとしていて、その影響で演奏のリアリティが増して、聴いていてゾクゾク鳥肌が立つような感じに感情が揺さぶられます。レンジも広がっているように聞えるし、ダイナミックレンジも自然で強弱のメリハリがいい感じ。これはリマスタリングの意味があったんじゃないかな、買って良かったなと思いました。

改めて2008年のアナログ盤を聴いてみると、やはりヌケが悪く団子状態。レンジも狭い。立体感もほぼ無いべったと張りついたサウンド。ただ、すべての楽器がまんべんなく聞こえます。小さな音の楽器も弱く弾いていてもまんべんなく目の前に現れます。いわゆる”コンプサウンド”なんですね。これはこれでラジオのりは良いのかもしれない。ただ、Voも含め個々の輪郭もつぶれ気味。SNの良さや音圧など考えると、このマスタリングであればデジタルで聴いたほうが良いかな。

オリジナルはStephen Marcussenさん(現Marcussen Mastering、当時はPrecision Mastering)リマスターはBernie Grundmanさん(Bernie Grundman Mastering )。近年、Bernie Grundmanさんはコンプをあまりかけないマスタリングをアナログ用に施しているという記事をいくつか見かけたのですが、これはその典型でした。いつもより少しだけボリュームを上げる必要はあるのですが、これはなかなか良いですね。時期が10年違うので比較するのはフェアではないのですが、こういう楽しみ方もありますね。マスタリング違い、結構楽しめますよ。

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